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「伊織!」
名前を呼ばれて振り返る。手を振るのは学級委員の一花。多彩で愛想もよく人気がある。
「ちょっと…いいかな?」
「うん。」
一花はさっき私が後にした教室をさして言った。教室に入るとさき程の喧騒とは打って変わって静まり返り、部活の準備をする数人がちらほらという感じであった。
「あのね、私、藤井くんのことが好きなの。」
一花は顔を赤らめ、そして俯いた。
「あぁ、そう」
こういう事は何度かあった。幼なじみの藤井達、あいつは昔から何かと優れていて顔も整っている方だ。好意を寄せる女子も少なくない。すると彼らは私とあいつが仲が良いと決めつけて、勝手に仲介役を頼んでくる。勘違いも甚だしい。親の仲がいいだけだ。本当は幼なじみと言う言葉も使いたくはないが確かに幼い頃は一緒に公園で遊んだりしたものだ。それでも今になっては話をする機会すらほとんどないのだから、幼なじみなんていうのは何処か可笑しく思える。
「それでね…」
「仲介なら、できないよ?」
「…え?」
きっぱりと、そして目を見つめて言った。
一花はさすがに驚いた様子で私を見つめ返した。
「あいつに何か渡せって言うんでしょう?」
一花は何か小さな紙切れのようなものを手に持っていた。
「…でも、伊織は藤井くんと…」
「それ、昔の話。今は仲良くなんてないから。ごめんね。」
最大限に優しい感じで言ってみようと務めたのだが、素っ気なく聞こえてしまったのだろうか。一花はまた俯いてしまった。私はそれ以上は何も言わずに教室を出た…と、向こうから藤井達が歩いてくるのが見えた。私は思わず俯いてしまった。すれ違いざまにあいつは
「…久しぶり」
と言ってきたが、私は曖昧な返事だけをして足を早めた。
直接言う勇気もないなら付き合いなどしなければいいのに、と思うのだがそれを言うといつも私は冷めているだの女心が分からないだの言われてしまうので口には出さない。
「ねぇ、付き合ったら何するの?」
「え?」
帰り道、校門で待ち合わせていた由紀に、そう聞いてみた。田んぼ道でする話ではないのかもしれないが、習い事やら部活やらで忙しい由紀とは水曜の放課後しか話ができないのだ。
由紀には小学四年生の時から彼氏がいる。流石に小学四年生で付き合ったと聞いた時は笑ってしまったがどうやら彼らは本気らしい。
「それはもう、一緒に帰ったり、勉強会したり、週末にイオンとか…かなぁ」
「でも由紀、忙しいんだしそんなことした事ないでしょう?」
「まあね、笑でも私は付き合ってるって事で満足なの。だって好きな人をほかの女の子に取られたくないでしょ?笑」
「取られるって?」
「えー?ほかの女の子と学校で話したり遊びに行ったり一緒に帰ったり…」
じゃあ付き合った人は異性と関わってはいけないの?そんなのただの独り占めじゃない。とは流石に言わなかったが、付き合うとは本当にそういうものなのだろうか。だとしたらあいつは…
「何?好きな人でもできたの??」
「ううん。違う。」
「あ。できたんだ笑」
「違うってば!」
「嘘だよ嘘笑伊織は昔っからそういうことほんと興味なかったからちょっとびっくりしただけ笑」
「…」