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指の隙間からこぼれる青

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指の隙間からこぼれる青

2 - 面影はそこに

2022年07月20日

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私たちが住んでいるところは長野の田舎の方。多分地名を言っても分からない。そこら中田んぼで電車を1時間半くらい乗り継いでやっと急行が止まる駅がある、というくらいであるからまさに皆が想像する田舎だ。

「ねえ、伊織知ってた?」

「何が?」

「カップル、うちの学年に何組いると思う?」

そういうと由紀は空を仰ぎ、なにか小さく呟きながら指を折って数え始めた。そしてしばらくして私を向いて両手で1と3を作って見せた。

「13!すごくない!?リア充ばっかり!」

何が凄いのか、よく分からなかったが由紀は満面の笑みであった。それから由紀は一人一人名前を言い連ねてそしてまたこちらを見た。

「ねえ、聞いてる?笑」

「う、うん。優奈と雅人…だっけ笑」

「そーそー。ま、冷め期入ったって言ってたから……」

由紀の声が遠くなっていく。これだけの人が付き合っているとは驚きだったが、皆由紀のように独り占めしたいと思っているのだろうか。こんな田舎でデートと言っても行く場所もなかろうし、うちの学校は部活に力を入れているから帰宅時間もバラバラだ。だとしたら…やはりそうなのか。伊織の頭には薄く靄が掛かって、けれどもそれでいてはっきりと藤井達の顔が浮かんでいた。

「じゃ、私はここで。」

由紀と別れた後、私はわざと遠回りをして家に帰ることにした。1人で考え事がしたかった。

近道がとなる脇道の入口を通り過ぎると延々と伸びる田んぼ道を歩き始めた。

頭にひとつの疑問が浮かんだ。

(私、何でこんなに知りたがっているんだろう)

由紀が言うように私は元々愛とか恋とかに全く興味がなかったのになぜ、こんなにも興味を示しているのだろうか。考えると頭が混乱し、脳みそがぐるぐる振り回されるような感覚に襲われた。

あいつのせいだ。

1つの言葉が浮かぶと、周りの混沌とした何かがスーッと解けていった。

それから何を考えていたか、ほとんどが記憶にない。幾分か歩いた末にやっと、最後の田んぼの前に来た。その頃にはもう空は青くなかった。

と、後ろからサーッと何かが通り過ぎたと思うと私の目の前で止まった。

「よっ」

振り向いた顔を見た時、私の頭の中に浮かんでいたあいつの靄が消えて、ピッタリとはまった。

「1人?」

彼の声はなんの戸惑いも躊躇もなく、青く澄み渡っていた。

私は黙って頷いた。

「今日、会ったな。笑」

白い歯を見せて笑った顔は、幼い頃と何一つ変わっていなかった。

「どうして…居たの?」

「え?」

「どうして私たちのところに居たの?」

彼の教室は私たちとは違う棟にあった。

「ああ。ほら、お前のクラスの学校委員の佐伯さん?に用があって。」

「一花…そう。」

私の顔がどうなっていたかは彼にしか分からない。ただ、私は無理に自然な顔を作ろうとしていたのだろう。彼の顔があまりよく見れなかったのは覚えている。

指の隙間からこぼれる青

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