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ゆうき あきや
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友ゴリラ
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第217話:爆上がりする期待値と、逃げ場を失ったヒモ社長
北海道、帯広市。
家賃四万円、築三十年のボロアパート。
「……終わった」
俺——株式会社インフィニティ・ワン代表取締役社長、秋谷雪(40歳)は、配信終了の画面が表示されたPCモニターを前に、燃え尽きた灰のように突っ伏していた。
アウトドア特化型VTuberチーム『やまむすめ』の第一期生、日向(ひなた)の初配信。
それは俺の予想を遥かに超える、歴史的な大成功を収めた。
『ルシフェル様、息をしていますか。初配信の最終的な同接数、そしてスーパーチャットの総額が出ましたよ』
ディスコードの向こうから、我が社の冷徹秘書・結愛(ゆあ)の声が響く。いつもの氷のような響きの中に、確かな興奮が混じっていた。
「ど、どうだった……? いや、見なくても分かる。画面がずっと札束で殴られているような状態だったからな」
『同接の最大値は驚異の2万3千人。そして初配信一時間でのスーパーチャット総額は……およそ250万円です』
「に、にひゃくごじゅうまんっ!?」
俺は三万円のゲーミングチェアから跳び上がり、天井に頭をぶつけそうになった。
たった一時間の配信で、俺がエウリアン(絵画商法)に騙されて背負った借金500万円の半分を稼ぎ出したというのか。
『……あー、社長ぉ、これでうちの会社も完全に次のステージっすねぇ。日向、間違いなく業界トップ狙える逸材っすよぉ……』
海外スタッフのヨモも、気だるげな声の中に確かな感心を滲ませている。
「やった……。やったぞ! これで会社の売上は爆発だ! 来期の役員報酬改定で、俺の月給10万円のヒモ生活も終わる! 塩昆布と玄米だけの配給生活から抜け出せるんだ!」
歓喜の涙を流しながら、俺は四畳半の畳の上でガッツポーズを繰り返した。
だが、そんな俺の浮かれたテンションを、最強AIアシスタントのジェミニ先生の合成音声が容赦なく叩き斬る。
『ルシフェルさん、喜ぶのはまだ早いです。現在のX(旧Twitter)のトレンド状況をモニターに表示します』
画面が切り替わり、SNSのトレンドランキングがズラリと表示された。
そこには、俺たちの予想を斜め上にいくワードが並んでいた。
【トレンド1位:日向ちゃんヒグマ撃退】
【トレンド2位:やまむすめ初配信】
【トレンド3位:社長の膝にスパチャ】
【トレンド4位:ヒモ社長のタダ働きロケ】
【トレンド5位:遭難前提のサバイバル】
「……なんだこれ」
『リスナーの皆様の興味は、すでに日向の可愛さから、今週末に予定されている【過酷な山岳ロケ】へと完全にシフトしています』
結愛が淡々と解説を始める。
『日向の「三十キロのジャガイモを背負って歩く」「素手でアブを撃墜する」といったガチすぎるサバイバルエピソードが、リスナーの期待値を完全に限界突破させました。そして何より……』
結愛はフッと意地悪く笑った。
『そのバケモノみたいな体力を持つ野生児のロケに、月給10万円のヒモ社長が、二十五キロの機材を背負って無給のカメラマンとして同行する。この【究極のブラックエンタメ】に、全員が熱狂しているのです』
「ブ、ブラックエンタメ……」
俺は震える手で、SNSのタイムラインをスクロールした。
『週末のロケ配信絶対見るわww社長生きて帰ってこいよww』
『日向ちゃんがヒグマと戦ってる間、社長はジンバル持って震えてるんだろうなww』
『ロケ費用削減のために社長を荷物持ちにするスタイル嫌いじゃない』
『社長の膝の軟骨が砕け散る瞬間を見逃すな』
どれもこれも、俺が山で悲鳴を上げ、過労でぶっ倒れることを期待しているようなコメントばかりだ。
『ジェミニ先生、この熱狂度から推測される、今週末のロケ配信の期待同接数は?』
結愛の問いに、ジェミニ先生が数秒でデータを弾き出す。
『初配信のバズり方と、アウトドアというブルーオーシャンの目新しさを加味すると、週末のロケ配信の同接は最低でも5万人を突破すると推測されます。ただし、これは【リスナーの期待を裏切らない過酷な映像】を提供できた場合のみです』
「ご、ごまんにん……」
『ええ。もう後戻りはできませんよ、ルシフェル様』
結愛の声が、死神の宣告のように四畳半に響き渡った。
『リスナーは、ただ綺麗な山の景色を見たいわけではありません。日向の野生児っぷりと、それに振り回されて地獄を見る限界社長のリアルな悲鳴を求めているのです。もしここでロケを妥協したり、安全なハイキングコースで済ませたりすれば、この熱狂は一瞬で冷め、炎上する危険すらあります』
「そんな……! じゃあ俺は、本当にヒグマが出るかもしれないようなガチの山道に、二十五キロの機材を背負って登らなきゃいけないのか!?」
『当然でしょう。逃げたらインフィニティ・ワンは終わりです。社長の借金500万円も、永遠に返せませんよ』
ピンポーン。
結愛の言葉を裏付けるかのように、絶望的なタイミングでアパートのチャイムが鳴った。
俺が這うようにして玄関のドアを開けると、そこには深夜の宅配業者が、巨大で重そうな段ボール箱を抱えて立っていた。
「秋谷さんですね。お荷物です。……これ、めちゃくちゃ重いんで気をつけてくださいね」
「あ、はい……」
ドスッ、という鈍い音と共に、玄関のたたきに置かれた巨大な箱。
俺はガムテープを引き剥がし、中身を確認した。
そこに入っていたのは、結愛が手配した【ロケ機材一式】が詰め込まれた、軍用の巨大なバックパックだった。
4K対応のアクションカメラ、最新型のジンバル、予備バッテリーの山、モバイルバッテリー、熊よけスプレー、ファーストエイドキット。
「……試しに、背負ってみろってか」
俺は覚悟を決め、バックパックの肩紐を掴んで持ち上げようとした。
「……ぐっ、重っ……!!」
四畳半の空間で、俺の腕の筋肉が悲鳴を上げる。
元・陸上自衛隊の需品科とはいえ、退官してから何年も経っている四十歳の身体だ。しかも今は、塩昆布と玄米しか食べていない。
なんとか背中に担ぎ上げ、立ち上がろうとした瞬間。
ミシミシッ。
「あだだだだだだだっ!! 腰がっ! 膝がっ!!」
俺はバックパックの重さに耐えきれず、亀のようにひっくり返って畳の上でもがいた。
『……情けない姿ですね。本当にそれで週末の山を登れるんですか? 日向は三十キロのジャガイモを背負って二時間歩けるんですよ』
ディスコードの向こうで、結愛が心底呆れたようにため息をつく。
「無理だ……! 平地で背負うだけでもギリギリなのに、これで急勾配の山道を歩きながら、手ブレさせずにカメラを回すなんて……人間業じゃない!」
『でも、やるしかありません。リスナーの期待値はすでに爆上がりしています。ここで「やっぱり社長の体力が持たないのでロケは延期します」なんて言えば、インフィニティ・ワンの信用は地に落ちますよ』
結愛の言う通りだ。
エンタメの世界において、上がりきったハードルをくぐるような真似は絶対に許されない。
俺たちは、期待以上の「過酷さ」と「リアル」を提示しなければならないのだ。
「……わかってる。やるよ。やってやるさ」
俺は畳の上に仰向けになったまま、天井の染みを睨みつけた。
「エウリアンに騙されて、300万円の版画をフルローンで買わされた時から、俺の人生は一度終わってるんだ。ここから這い上がるためなら、膝の軟骨くらい全部すり減らしてやる!」
『その意気です。明日からの三日間、社長は本番に向けて、その二十五キロのバックパックを背負ったままアパートの階段を上り下りする特訓を行ってください』
「鬼かお前は! 筋肉痛で本番前に動けなくなるわ!」
俺の悲鳴を無視して、結愛はロケの準備リストを淡々と読み上げ始めた。
『ジェミニ先生、ロケ当日の天候と、ヒグマの出没情報を再チェックして。ヨモは海外リスナー向けのリアルタイム翻訳の準備を』
『了解しました。ロケ当日の降水確率は30パーセント。山の天候は変わりやすいので、雨具の準備も必須です』
『……うす、任せてくださいよぉ。海外のイカれたサバイバルファンにも、適当に宣伝撒いとくっすねぇ……ふわぁ』
部下たちが完璧な連携で、逃げ場のない外堀を埋めていく。
壁に飾られた極彩色の版画の中の美少女たちが、俺の絶望的な状況を楽しんでいるかのように微笑んでいた。
大型新人の初配信で、会社の未来には強烈な光が差し込んだ。
だがそれは、俺という月給10万円のヒモ社長が、文字通り命を削って裏方として這いずり回ることを前提とした、地獄の契約でもあった。
週末のサバイバルロケまで、あと三日。
限界社長の、意地とプライドと借金返済を懸けた、過酷すぎる戦いの火蓋が切られようとしていた。
コメント
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うわあああ!!第217話めっちゃ面白かった〜!!😭💕 日向ちゃんの初配信で250万スパチャ!?やばない!?って思ったらまさかの山岳ロケ地獄待ちで笑ったww 結愛の「逃げたら終わりです」って宣告とか、届いた軍用バックパック背負って亀みたいにひっくり返る社長の姿に爆笑したけど、同時に「頑張れ…!」って応援したくなったよ…! エウリアンに騙された過去がちゃんと生きてて、あの極彩色の版画が壁で笑ってる描写にゾクゾクした。このブラックエンタメ感、最高すぎる!!次回のロケ配信、絶対見たい!!社長の膝の軟骨が砕ける音が待ち遠しいです(笑)