テラーノベル
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リディアはオルトゥスから出ることができない。
この地を囲む森の外に出ようとすれば、足に巻き付いた透明な鎖がそれを邪魔するのだ。そのため、ブラガとラーナには森の外から馬車を連れてきてもらい、彼らの商品を物色することになった。
「……馬が欲しいわね」
「リディアさん、商品の方を見ましょうよぉ……」
「今は何より、欲しいものは家畜なのよね。労働力でも要るし、搾乳をしても良いし」
「それなら、次に来るときに用意しますよ~っ!」
リディアの悩みに、ラーナが即座に商機を見出す。今回は連れていなかったが、家畜を用意するのは、彼らにとっては容易いのだ。
「あら、それは素敵ね。デュラン、欲しいものを伝えておいてくれる?」
「俺がまとめるのかよ!?」
「そりゃ、あなたは農業担当だから。酪農も一緒に見てもらえるかしら」
「ちょちょ、ちょっと待てよ!? 農業と酪農はまったくの別物だぞ!?」
「ヘルミナにも手伝ってもらって良いわよ?」
「ひぃん……。酪農は臭いが付くから……森の民的には……」
デュランとヘルミナが文句を言うも、リディアは完全にスルーする。ただ、リディアは代替案があれば柔軟に考え直す。そのため、ふたりはどうにか仕事から逃れようと、頭をフル回転させ始めた。
「……ふむ。なかなか貴重なものが揃っているわね」
「そうでしょ~? お客さんは、どんなものをお求めで?」
「この置物、レンザンさんの小屋に良いんじゃないですか?」
「ほう、それは良いな。では我はこれを頂こう」
「あとは、そうね……。この手の武器は必要ではないし、希少な織物も今はまだ……」
ブラガたちが持ってきた商品は、どれもが貴重なものだった。逆に言えば、嗜好品というものに近い。だからこそ発展途上のオルトゥスでは、あまり目を引くものはなかった。
「う~ん、他の街では人気があるんですけど! 父ちゃん、ここは難しい場所だね」
「ここはまだ、その段階ではないのだ。いずれは手に取ってもらえるだろうが、今はタイミングが少し違ったな」
「申し訳ないけど、今は実用品が欲しいんですよね。……ああ、でもこちらの素材は欲しいかも」
「リディアさんばっかり、ずるいですよぉ。あたしも、このネックレスが欲しいです!」
「これくらいなら、ゼゼさんが作れるでしょう? 鉱石も採掘してきたし、自分で頼んできなさい」
「ひぃん……」
ヘルミナは涙目になりながら、ネックレスを元の場所に戻した。その横ではベロニカが織物を手に取り、光に透かして――元の位置に戻した。自分ならもっと良いものが作れる……そんな空気すら感じてしまう。
「オルトゥスには、職人が多いようだな?」
「ええ。でも、職人の方が多いくらいなんです。だから、農作業の担い手が少なくて」
「大量の仕事を押し付けられる、俺が大変なんだ……。あんたらもザザみたいに、オルトゥスに人が来るように噂を流しちゃくれないか?」
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「わかりました~、別料金です!」
「……いや、それは無料で引き受けよう。人口が多い方が、ここに来る甲斐もあるからな」
「なるほどぉ……。それでは無料で、ラーナたちが承ります!」
「よろしくね。さて、支払いなんだけど――」
リディアはブラガとラーナに向き直った。
「今はお金が無いんです♪ 私の作るお酒と、レンザンさんが作る陶器を売る約束――で、今回はどうかしら?」
ブラガは先ほど、レンザンのことを『レンザン先生』と呼んでいた。リディアは彼の実力をまだ知らないが、それなりに名を馳せているのだろう。
「今回はあまり、買ってもらえなかったからな。その条件であれば、オレたちは問題ない。ただ、酒の方は味見をさせてもらうぞ」
「ええ。泊まる場所は用意できないけど、今晩はここで休んでいってください」
「……お嬢ちゃん、勝手に話を進められても困るのだが……?」
「あら、レンザンさん。先ほど、置物をひとつ買ったじゃないですか。運命共同体ですわよ?」
「ぬ……。これを見越してのことだったか……」
レンザンは置物を持ちながら、あっさりと断念した。あまり顔には出していないが、その置物はかなり気に入っているようだ。……そこに横から、ベロニカが入ってくる。
「ねぇねぇ、商人さん。アタシが作った布を少し買い取ってくれないかしら? 市場に何も流さないと、そのうち名前が忘れられてしまうから」
「アラクネの職人……あなたはベロニカか? ふむ、それなら出来るだけ買い取っておこう」
「ベロニカも有名なのねぇ……。でも、オルトゥスの分を優先してよ?」
「はいはい。増産体制は整えているから、安心しなさいな」
「それと、せっかくだ。ドワーフの職人もいるんだろう? あとで紹介をしてくれないか?」
「大丈夫だけど、あまり無理は言わないでくださいね?」
「リディアさんが一番、無理を言っている気もしますが……」
「気のせいよ」
断言するリディアに、あっさりと片付けられるヘルミナ。一同はブラガたちの商品を眺めながら、引き続き、思い思いの話をしていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
リディアたちは一旦解散して、ドワーフの家に向かった。ブラガたちをジジに引き合わせ、その隙にベロニカが販売用の布を持ってくる。そこまで見届けてから、リディアは丸太小屋に戻ることにした。
翌日、ブラガとラーナはオルトゥスから去っていった。
何となくざわついていたこの土地に、いつもの平穏が訪れる。平穏が訪れるということは、日々の仕事が再び始まる――ということでもある。
「ひぃん……。台車、重いよぅ……」
ヘルミナは森から果物を運び出し、ドワーフの家の方に向かっていた。現時点では人が最も集まる場所のため、直接運ぶことにしているのだ。……そんな中、遠くの方にシオンの姿が見えた。その横には、猫耳を生やした少女が立っている。
「あれ、シオン君と……アルマちゃん? おーい、シオンく~んっ!!」
ヘルミナが呼び掛けると、シオンだけが走ってきた。少女はゆっくりと、ヘルミナの方に向かっている。
「ヘルミナさん、重そうですね。僕が運びましょうか?」
「え、それは悪いよ~。お願いね!」
「あはは。はい、わかりました」
シオンが台車を引くと、嘘のように速く進み始めた。
「……あれ、シオン君。何だかずいぶん、力が強くなったね?」
「リディア様のおかげです!」
「は、はぁ……。それにしても、最近はずっと見なかったけど、何をしてたの?」
「はい、外に出て人間を――」
シオンはそこで言葉を止めて、少し考えて言い直した。
「リディア様のご命令で、調査などを行っていました」
「ふぅん? それじゃ、オルトゥスも久し振りなんだ?」
「はい、やっとリディア様に会えます!」
「ああぁ……!? ご、ごめんね!? それじゃ、すぐに帰りたいよね!?」
ヘルミナはシオンから台車を奪った。ヘルミナは楽をしたいが、ふたりの再会を邪魔するほど無粋でもないのだ。
「そうですか? それでは、あとはお願いします!」
そう言うと、シオンは猫耳を生やした少女のところに戻っていった。ただ、目を凝らして見てみると――
「……あれ? アルマちゃんじゃ、なかったの?」
新しくやって来た猫獣人だろうか。ヘルミナはふと、フェルネがドリアードの仲間を増やしたいと言っていたことを思い出した。
「あたしも……たくさん増やして、仕事を楽にしたいなぁ……」
ヘルミナはそう呟いてから、引き続き台車を引いていった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
ブラガは馬車を走らせながら、次の街に向かっていた。いつもであれば、次の商売について考えを巡らせるところだが……今は、オルトゥスのことばかりを考えてしまっている。
「……レンザン先生に、ベロニカ女史。それに、エレナの忌み子――……ふっ、あそこは面白い場所だったな」
「父ちゃん? エレナって、人間の神様でしょ? あの人、神様に嫌われているの?」
「さぁな。伝説は伝説、噂は噂だ。商人なら、自分の目でしっかりと見定めるんだぞ」
「はーい!」
「さぁ、引き続き道をしっかり見ておいてくれ。最近は妙な魔物がいるからな」
……オルトゥスはまだまだ発展途上の場所だ。しかし、あんな個性的な面々が揃っているのであれば……将来は明るいかもしれない。
「せいぜい、稼がせてもらうことにしよう」
「賛成~っ!!」
その後、ふたりがオルトゥスを訪れるたび、急速な発展を目の当たりにすることになる。彼らはその発展に深く寄与し、望み通り、大きな稼ぎを手に入れることになるのだ。
コメント
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読み終わったよ!今回は商談回だったけど、リディアの「お金がないから酒と陶器で払う」って交渉、めっちゃ癖になるわ。レンザン先生を巻き込む流れもお見事。シオンが戻ってきたのも熱いし、隣にいた猫獣人の子が誰なのか続きが気になる!ヘルミナの「ずるいですよぉ」も可愛かった。オルトゥスがじわじわ発展してく過程が好き🔥