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テラーノベル(Teller Novel)
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妖術師と空間支配系統魔術師の戦いから月日が経ち、新たな魔術師の発見情報を入手した僕は、再び戦地へと赴くことになった。

場は呪術誕生の聖地 “京都府”。その中心である、”京都市”。

勿論、魔術師と戦うのに単独での先行は自殺行為。 魔術師と対等に殺り合える仲間が必ず必要だ。

この京都に潜む魔術師を討伐するべく集まった仲間は三人。少数とは言え、戦力は圧倒的。そして何より、呪術界で五本指に入る程の実力を持つ『呪術師』が居る。

土地の把握能力と対呪術戦闘、妖術による攪乱と魔術師を仕留める一撃。 この二つが組み合わされば負け知らずと言っても過言では無い。……過言では無いのだが、

――― この戦いで一番油断してはならないのが『偽・魔術師』の存在。

本物の魔術師に負けず劣らずの攻撃力と、人数の多さ。この戦いで最も重要な『妖力不足』を引き起こしやすい原因の一つ。

対処する方法は簡単で、妖術師以外の術師が『偽・魔術師』の相手をし『妖力』を確保する事。しかし、味方の呪術師は『偽・魔術師』を葬れる程の技を持ち合わせておらず、なにより相性が悪い。

ならどうすれば良い、どうすればこの問題を解決出来るのか。深く、そして長く考えた末に導き出した答えは、


「お久しぶりです、あの森の時以来ですね」


「………すまねぇ、人を覚えるのが少々苦手でな。兄ちゃんと俺、どっかで会った事あるか?」


鋼鉄の錬金術師『晃弘』を仲間にする。





「――― と、こんな感じです。覚えてないのも無理ないですよ」


家から最も近場の駅の休憩室にて、俺はあの森で起きた出来事全てと『遡行』の事を全て晃弘に話した。惣一郎にも伝えてない、”未来の事” も。

惣一郎に伝えなかった理由に関しては、まだ『惣一郎』と言う人物を完全に信用出来ていないからである。……この話はまた後にしよう。

どうやらあまりピンと来てない様な顔をしているが、大凡の把握は済んだらしい。


「……なんだ、大体分かったっちゃ分かったけどよ。それを今、俺に説明したって事は相当な要件なんじゃないのか? 」


「………実は、これから僕の所属する組織のメンバーと共に『魔術師』を倒しに行きます。その間、邪魔をしてくる輩が確実に現れるかと 」

「強力な銃と乗り物を錬成出来る貴方に、力を貸して欲しいんです 」


「…………そうだな、遡行前の兄ちゃんを気に入って「頼れ」って俺は言ってたけど。今の俺は兄ちゃんの事は話だけでなにも知らないし、助ける義理がねぇ」


「………。」


「それに俺は『魔術師』と戦える程の武器は創れねぇ、あの銃はほぼ一日中一回限りの大技だ。同行しても逆に俺が足を引っ張るだろうよ」

「………けどまぁ、助ける義理が無くても、困ってるヤツが居るなら助けてやらねぇと漢じゃないよな?

――― いいぜ、俺もその『魔術師』狩りっての手伝ってやる 」


拳を前に突き出し、満面の笑みで晃弘はそう言った。手を貸してくれる、仲間になってくれると。

舞台を盛り上げる為の役者は揃った、残るはその舞台に登るだけ。僕達が目指す場所、京都府京都市へと向かう。 と、その前に、


「晃弘さん、一応…一応なんですが、この刀見て貰えませんか? 」


「………刀、か。どれ、見せてみな」


そっと、周りの客にバレない様に影から刀を取り出し、晃弘に渡す。『太刀 鑢』、僕が一番初めに手にし、それ以降ずっと愛刀として使用している武器。

空間支配系統魔術師『沙夜乃』との戦いで僕は感じた、まだ “この刀を使いこなせていない ” ……”この刀の本質を見抜けていない” と。

故に、武器造りに特化した専門家なら、この『太刀 鑢』の本当の姿を見抜けると僕は予想して、晃弘に預ける。


「――― こりゃ驚いたな。幾多の刀を見てきた俺ですら、こんな刀を見るのは初めてだ」

「太古の昔通りの造りな筈なのに、現代の技術じゃ再現不可能な程の強度。それに刀身の手入れをしているとは言え、刃こぼれや少々の錆が出来るはずなのにそれも無い。………兄ちゃん、こんな業物一体どこで手に入れたんだ……? 」


実家の蔵で雑に置かれてました、なんて言える訳が無い。

それにしてもやはり凄い、晃弘は一目見ただけで武器の構造や手入れの度合いなどの全てを把握した。鋼鉄の錬金術師の名は伊達じゃない様だ。


「他にもあと二本あって、見せたいのですが……そろそろ来ますね」


「………そうだな、残り二本は向こうに着いてからにさせて貰おう」


駅のホームに電車が到着する。朝早くと言う事もあり、会社に向かう社会人や学生達が多く見られる。

電車に乗り込んだ僕達は、目的地まで椅子に座って待つ。

――― 次いでに今、ここで話しておこう。僕が惣一郎に話さなかった理由と、晃弘に全てを明かした理由を。

惣一郎との出会いは『妖』と戦った時、パッと見の第一印象は “優しさ溢れるクールな大人” だった。 共に戦う事に、惣一郎と言う人物への信頼は大きくなっていた。それは間違いない。

そして、空間支配系統魔術師『沙夜乃』との戦いも惣一郎の避難誘導や陰からの援護のおかげで勝利を収めた。 “何事も全て上手くいった、順調だ” と僕は思っていた。

そう、怖い程に “全て上手く” 行き過ぎていた。まるで『最初からそうなる様に仕組まれている』様に。

そして何より、一番の疑う要素は―――


僕の父である『八重垣 肇やえがき はじめ』を、知っている事だ。






八重垣 肇は日本最強の妖術師だった。

日本各地の『妖』を殺し、他の術師が暴れぬように牽制する程の実力者。例え、錬金術師や呪術師、奇術師に魔術師が束になっても勝てない程に。

――― そして運命の刻、『東京大規模魔法事件』が発生し、彼は現場の対応へと急いだ。魔術師三人組の放った魔法が残した魔力など諸々を調査したが、手掛かりなし。

ただ魔法発動現場へと意図的に残されたモノは二つだけ『太刀』と『古い本』。この二つを持ち帰った彼は自身の保有する蔵の中へと仕舞い、厳重に管理していた。

捜査が難航し、組織が解体された彼は、自身の実の息子に『妖術』を教え込んだ。長い年月を掛けて、僕を育て上げた。

………既にこの時から、彼――― 父は僕がこれを開ける事を予測していたのだろうか。


そんな父はある日を境に、妖術が使えなくなった。徐々に、とかではなくある日突然に。前触れもなく、僕が『妖術』を学んでいる最中に。

妖術が使えない事を察した父は新しく設立された、現在惣一郎の率いる組織へと一度だけ赴き、『蔵の鍵が解錠された場合、直ぐに新対魔術師用の戦力を集めろ』と言い姿を消したらしい。

その後、父は僕の目の前で静かに息を引き取った。僕に『妖術』と未来を託して。


――― 惣一郎は確かに、あの時カフェで「君の父親には何度も助けられたしね」と言っていた。

けれど、よく良く考えれば明らかに時系列が狂っている。

独自で調べた内容だが……『東京大規模魔法事件』の際と新しく組織が設立されるまで、惣一郎は海外へと留学に行っていた。

そして何より「初めて出会ったのは『東京大規模魔法事件』の後かな」と、惣一郎は言った。


「………あ〜クソ、最悪だ。なんでよりによって今こんな事が分かっちまうんだよ 」


僕の直感にやはり間違いは無かった。

『東京大規模魔法事件』の捜査以降、惣一郎と父が顔を合わせる場面は存在しない。時間的に不可能なのだ。

だとすれば、これまでの行動全てが何事もなく上手く行っている訳だ。 もし……もし惣一郎が嘘をついているとして、目的は一体何だ。嘘をつく理由は一体なんなんだ。

僕に魔術師を殺させて、何がしたいんだ。


「――― 証拠が無いにせよ、魔術師を殺せる内は利用するしかないのか」


そうだ、結果では魔術師を殺す事に成功している。なら最大限、このまま惣一郎の策にわざと乗り、魔術師を全員殺す。


「…………晃弘さん、あと数分後で駅に着きますよ。もしかしたら降りた瞬間に攻撃されるかも知れないので気をつけてくださいね」


「…………。」


「………晃弘さん?」


「……………。グゥ」


寝てる。一生懸命考えて答えを導き出した僕を他所に、電車の座席でグッスリ寝てる。

まぁ、まだ駅に着くまでほんの少しだけだが時間はある。このままゆっくり寝させてあげるとしよう。

と、思っていたのだが―――


「………なんか騒がしいな」


僕達の座っている車両から少し遠い、先頭車両で何やら叫び声に似たモノが聞こえてくる。それも一人では無く、大勢の声だ。

猛烈に嫌な予感がする、こう言う時に限ってこの予感は的中する事が多い。だから僕は慎重に、影から『太刀 鑢』を取り出す。

寝てる晃弘さんを起こさぬ様に、周りの乗客に悟られぬ様に立ち上がって、先頭車両へと歩き出す。………声が近くなってくる。やはり先頭車両で何かが確実に起きている。


「………霞雲の術」


音を遮断出来る程の濃さを持つ霧を発生させ、後方車両に聞こえない様に細工する。

乗客を守る為と言うのもあるが……この場で最も面倒なのは、パニックになって騒ぎ出す乗客だ。


「た……助けてくれ!!鎌を持った男が暴れてるんだ!!早く別の車両に……!! 」


急いで僕の方へと男性が走ってきて、膝をつきながらそう言う。 男性の荒い息がよく聞こえる、絶望から希望の光を見つけた時の、助けを求める目もよく見える。


「……一体落ち着いてくれ、向こうで何が起きてるんだ?」


「あ……あぁ…さっきも言ったけど、鎌を持った男が暴れてて…気が付いたら一面血だらけで大勢の人が倒れてたんだ…!!」


「そいつは今どこに居る?」


「……運転席の方に歩いてくのは見えてた…!!多分この列車を乗っ取るつもり―――


男性の言葉が止まる、それと同時に僕の視界もグラりと傾き始める。 そのまま僕の頭は90°回転し、ゴトンと言う音と共に視界が真っ赤に染まった。

僕の目の前では首から上を失い、鮮血が吹き出す男性の姿と、その男性の頭部らしきモノが見える。

――― 今すぐにでもこの男性を殺したヤツを殺さないと、更に被害が広がってしまう。

そう思った僕は脚と腕に力を入れる様、脳から信号を発信する。だがそれは首付近で拒絶され、何も出来ない。

と言うより、身体全ての感覚が無い。視界も少しづつ暗くなる。何が起きた。すぐに向かわなくては。晃弘さんに伝えて。惣一郎の件も。男性はどうなった。この車両で何が起きてる。術を使用する。早く行かなくては。

早く行かなくて。

早く行かなく。

早く行かな。

早く行か。

早く行。

早く。

早―――











!!……んだ !!早く別の車両に……!!」


「……………………………………………………………………は?」


この光景を見るのは二度目な気がする。いや、この光景は確実に一度見た。 デジャブ、と言うやつと説明する事も出来るが、僕は同じような体験を何度もしている。

……何が起きたのかが思い出せない、あの時の景色と感覚が。なにも覚えていない。けれど、分かる事が一つだけある。

僕は気付かぬ間に殺され、絶命の数十秒前に戻された。 そう、これは僕に許された唯一の術――― 『遡行』だ。

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