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高校二年生の夏休み。
私立高校に通う双子の姉の美愛は、弁当持参で学校の夏期講習へ行っている。その姉から、午後になってスマホにメッセージが入った。今日は早く終わったからカフェに付き合わないかと書かれている。そこは最近オープンした店で、美愛が行きたいと言っていた所だ。
特に予定もないから、私は美愛の誘いに乗ることにした。待ち合わせてカフェへ行き、美味しい紅茶と美味しいパンケーキを楽しんだ。その帰り道、お喋りしながら自宅近くまでやって来た時、道路脇に止まる引っ越し業者のトラックに気がついた。
「こんな時期に引っ越し?」
「近所に今度引っ越してくるって、お母さんが言ってた。その人たちじゃない?」
「そう言えばそうだったかな」
美愛と肩を並べて歩きながらトラックの傍を通り抜ける。先に立って歩く私の後に美愛が続き、門の内側に足を踏み入れた。
背後で男の子の声が聞こえたのはその時だった。
「こんにちは」
「こんにちは」
先に振り返って答えたのは美愛だった。
私は姉に遅れて声の方に顔を向けた。目に飛び込んできたのは、背の高い男の子。
彼は首にぶら下げたタオルを取って、私たちを交互に見てから言った。
「はじめまして。今度引っ越してきた前山です。後で両親と一緒に挨拶にお邪魔しますけど、フライングってことで」
彼は言葉を切り、眩しそうに目を細めながら美愛を見た。
「違ってたらごめん。その制服って、もしかして桐青高校?」
「え、えぇ。そうですけど……」
制服姿だった美愛は怪訝な顔つきで答える。
私は美愛の背中に声をかけた。
「美愛、先に行ってるね」
「待って、私も。あの、ごめんなさい。これで私」
「ごめん。引き留めて。その制服が気になって、つい。実は俺、二学期から桐青に編入するんだ。よろしくね」
はじめ戸惑っていた美愛は、自分の高校の名前を聞いて警戒心を緩めたようだ。時に妹の私でさえも見とれてしまう、綺麗な笑顔を浮かべた。
「そうだったんだ。こちらこそよろしくね」
美愛を見ていた彼の瞳が、はっとしたように揺れたのが分かった。
その時、トラックの方から彼を呼ぶ声が聞こえた。
「今行く!」
彼はその声に向かって大きな声で返し、それから美愛に向かってにっこりと笑った。
「俺、啓一。今高校二年なんだ。君は?」
「藤沢美愛。こっちは双子の妹の心愛。高校二年よ」
「双子?」
彼は軽く瞬きをして、私の方へ顔を向けた。
一瞬目が合ったような気がして、胸が高鳴る。アーモンド形の瞳が綺麗だと思った。彼の目に映っているのが美愛だけだと分かってはいたが、その瞬間に私は初めての恋をしてしまった。
「やぁ、ほんとだ。よく見るとホント、そっくりだね。雰囲気が違うから、すぐに双子だと思わなかった」
「そんなふうに言われたのは初めてかも」
「そう?俺、二人が入れ替わったとしても分かりそうな気がする。なんてね。初対面で自信満々に言うことじゃないよな。美愛ちゃん、心愛ちゃん、これから仲良くしてください。じゃあ、また!」
彼は快活な笑顔を見せて、門の前から小走りで去って行った。
「何、あれ」
美愛はどこか呆れたように言いながら、けれども口元に笑みを刻んで彼を見送っていた。
その表情を見た途端、私の胸の奥に小さな痛みが走る。
もしかして、美愛も――。