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「私はデザイナー。自らの人生をデザインする吾妻勇信だ」
デザイナーの言葉に、他の勇信たちが一斉にキャプテンを見つめた。なぜこのような人物が突然現れたのか不思議だったためだ。
キャプテンは言った。
「俺は自分の外見を変えることをいつも考えていた。少なくとも外見が変われば、たとえ外で増殖したとしても、勇信が2人いるとは誰も思わないだろう」
「片方が全裸になるだろ……」
「全裸は仕方ないと思ってる。ずっと家に監禁されてる状態があまりに苦しくてな。今はまだどうにか我慢できても、先が見えない生活を考えると眠れない夜も多い。
俺がキャプテンである限り、ここは俺の家であっても終身刑と何ら変わらないんだ」
「思った以上に今の生活が肯定的じゃないんだな」とポジティブマンは言った。
続いてシェフが言った。
「俺が母体だったらどれだけよかったか……。俺はどこにも行かず、ただ料理だけをしていたい。新鮮な食材を素晴らしい料理に変えるプロセス。これこそやりがいのある暮らしってもんだ」
「まあ、とにかく俺がキャプテンであるという事実は変わらない。だから外出について真剣に考えていたんだ。デザイナーはそうした俺の心を反映して生まれたんだろう」
「デザイナーよ、ひとつの質問がある。状況はよくわかったが、吾妻勇信という人間は自分の外見を気に入っている。そんな勇信からどうすれば自ら整形手術に踏み切るような属性が生まれたんだ」
沈思熟考が今日はじめて発言した。
「人間は環境に適応する動物である。一度も外出すらできないキャプテンの痛みを、おまえたちはわかっていない。しかし私は知っている。私は10分前までキャプテンだったから」
デザイナーはそう言い残してリビングルームから去った。
5分後、彼は翼を広げた孔雀を連想させるアフリカの民族衣装を着て現れた。
過去にAZUMAブランドが主催したファッションショーで最優秀賞を受賞したデザイナーが、勇信に贈った衣装だ。
「私は自らの外見を含め、その人生すべてをデザインする」
「おまえは自分の外見が気に入らないのか」
「違う。我が人生のデザイン。これを推進するには変化は不可欠である。つまり私は自らの過去を再定義しなければならない。過去にとある超大国が強行した巨大な革命のように」
「なら外見は嫌いじゃないけど、自分の人生をデザインするために整形も辞さないってことだな」
「そうだ。外見だけでない、人生のデザイン。それが私の目指す先である。現在7名にまで膨れ上がった吾妻勇信の人生を、劇的に変えられるようなデザインを模索したいのだ」
「口調もデザインしたのか」
「言語も日々変化するもの。つまりデザインである」
デザイナーの言葉を聞いて、勇信たちは黙り込んだ。
リビングルームの奥にあるキッチンから、キャベツを切るリズミカルな音だけが響いていた。
「もしかするとおまえは……俺たちの苦悩を一心に背負う勇信か? デザイナーではなく、実は自己犠牲属性――」
あまのじゃくは感極まった。他の自分のために犠牲となるデザイナーの意思にひどく感動したためだ。
「私の自己犠牲ではなくデザインするだけ。吾妻勇信が立ち向かうべき様々な困難を、デザイン視点で解決しようと試みる人間だ」
「具体的にどういったことだ」
「具体性はない。決意だけが心に存在する」
「まさかおまえも……虚勢?」
リビングルームが凍りついた。
「べつに具体的である必要はないさ」とキャプテンが言った。「実は俺にひとつ計画があってな。時期をみてみんなに発表しようと思ってたんだ」
「デザイナーに続いてキャプテンまで変化を論じはじめたぞ……」
「何なんだ、その変化ってのは」
「シナリオ」
「シナリオ?」
「とあるアイデアを実行させようと思ってる。みんな、楽しみにしててくれ。遅かれ早かれ必ず実行に移すからな」
「わかりやすく説明してくれ」
「ずっと家にこもりながら考えていたんだ。もし整形をしたら、どんな自由が得られるだろうかと。そして昨日、兄さんの改革と堀口課長のことがあった。そのときにふと、シナリオの輪郭が見えはじめたんだ」
「内容は?」
「正直なところ、まだ濃いフィルムがかかったように不透明だ。一晩中そのフィルムを剥がそうともがいたが、おそらくここが俺の限界だと思う」
「なんだそれ……。結局のところ、輪郭が浮かんだだけじゃないか」
失望の声が同時に流れた。
「心配ない。たとえ今の俺がここまでだとしても、いずれ俺は自分の『能力』を使って答えを得ることができるだろう」
「能力?」
キャプテンの口から出た言葉に一同が驚愕した。