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#探偵
橘靖竜
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紗良にゃん
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38
如月 未澄斗
216
「ポジティブマンが俺にこう言ったんだ」
キャプテンは、全員を見回した。
「キャプテンが新しい勇信を生むのって、ある種の特殊能力だろ。あまり落ち込まず、前向きに生きるんだとな。べつに大した話でもなかったんだが、この言葉に少し救われた。そう。俺は属性を持つ勇信を作る能力を持っている」
母体ではない勇信にはない発想だった。
「……まあ、軽く肯定的なアドバイスをしてやっただけさ」
ポジティブマンはうれしそうに立ち上がり、リビングルームを歩きはじめた。
誰かに褒めてもらいたくて歩いている。
それを皆がわかっていたが、誰もポジティブマンには興味を示さなかった。
「俺は整形して、自由になりたかった。吾妻勇信ではない自分として、外を歩きたいと思っていた。そうした心が、デザイナーを生んだのだろう」
「そう。俺はデザイナー。俺はデザインする。吾妻勇信の出口を」
デザイナーが言った。
「俺の願望がこうして形になったなら、次に進むべきだ」
キャプテンは言った。
「具体的なシナリオの作成だ」
「どうするつもりだ」
「これから俺はシナリオに集中する。そうすることで何が起こるかは、もうわかるだろう」
「遅かれ早かれ、シナリオ属性の俺が生まれる」
「そういうことだ」
おおっ、と声が上がった。
「シナリオ属性の勇信が生まれれば、あとはそいつに任せておけばいい。いずれ物語は完成する」
再び、おおっ、と声が上がった。
「キャプテンの能力か……。さらに俺が増えるデメリットはあるにせよ、救世主となる俺が生まれる可能性もあるな」
「今さら5人だろうが10人だろうが、本質的には同じだ。ふたりの時点でアウトだからな」
「だな。シナリオライターが生まれたら、心置きなく創作できるようサポートする。資料調査や現地取材も必要だろう」
「キャプテン、さっさとシナリオライターを生んでくれ」
「仮想現実じゃないんだ。すぐには無理だ……」
チリンチリン!
そのとき、キッチンのベルが鳴った。
「朝食の用意ができたぞ! 今日は目玉焼きとベーコンだ。それと、シェフ特製ドレッシングがかかったキャベツの千切り!」
「ああ、俺は本邸で朝食だったな。忘れてた」
沈思熟考が言った。
「今日は忙しくて行けないと言えばいい。兄さんが帰ってこなかったんだから、抜けてもいいさ」
「そうだな」
沈思熟考はしばらく考え込んだあと、本邸へ朝食の不参加を伝えた。
「さあ、列を作って並ぶんだ」
キャプテン、ブルース、あまのじゃく――。
この世に生まれた順に沿って、勇信たちがキッチンの前に列を作った。
シェフから食糧配給を受ける彼らの姿は、軍隊よりもはるかに整然としていた。
すべての呼吸が完全に一致しており、極めて効率的に朝食がテーブルに並んでいく。
朝食がはじまると、勇信たちは静かに座って食べた。
同じ勇信であるため、会話はほとんど意味をなさない。
ただそれぞれが頭を整理しながら、黙々と食事を口に運んだ。
人生のデザイン。
そしてシナリオ。
全員が、これからの未来に思いを巡らせていた。
「おい、シェフ! ついにたどり着いたな」
静かなテーブルに、あまのじゃくの声が響いた。
シェフが作る朝食が、ようやく一定水準に達したのだ。
きれいに千切りされたキャベツ。
吐き気を催さないドレッシング。
多くの失敗を重ねてできた半熟の目玉焼き。
そして、ちょうどよい火加減のベーコン。
「メニューは全員同じだが、食材の産地はすべて別々だ。食中毒の心配をせずに、好きなだけ食べてくれ」
「料理人としての心構えもバッチリだな。完璧な衛生管理と危機管理だ」
「食べ物は生命の源だろ?」
シェフは得意げに胸を張った。
「なぁ、デザイナーよ。俺は勇信の健康をデザインする。そう言ってもいいか?」
「かまわない。俺は健康をデザインしない。それはシェフの管轄だ」
ごく普通の朝食が、勇信たちに小さな希望を与えた。
これまで問題だった食糧が解決しはじめたことは、この上ない安心につながっていた。
「料理教室なんて通わずとも、独学でもいけるんじゃないか」
「その時間がないんだよ。1秒でも早く多くのレシピを習得しないと、きっと栄養問題が起こる」
シェフは料理のレッスン動画を見ながら言った。
すでにランチのことを考えているようだ。
「偏食こそが猛毒! いくら産地を変えても、偏食を続ければ、いつかは病院送りになっちまう」
「とにかく料理に関しては、すべてシェフに任せよう」
満足のいく食事によって、10分ほどでテーブルから食べ物は消えていた。
その中で、ただひと皿。
デザイナーの皿だけは、半分以上が残っていた。
「デザイナー。どうして食べない?」
「顔面のデザインは、整形だけでは足りない」
デザイナーは、皿の上のベーコンを見つめた。
「俺はデザインする。肉体を。骨格の印象を。頬の線を。首の長さを。吾妻勇信が吾妻勇信に見えないための全体を」
「痩せるつもりか」
「俺は削る。余分な肉を。俺は変える。輪郭を」
「筋肉を削ぎ落とすのか……地獄だな」
ブルースが言った。
「すまない。そしてありがとう」
誰かが言った。
デザイナーが歩むであろう今後の苦難。
それが何なのか、皆が理解していた。