「勿論、自分で勉強してるし、投資家が集まるバーやイベント、集まりにも行ってる。ガチの人は情報交換が目的だし、奥さんや恋人のいる人はナンパなんてしない。でも中途半端に『ちょっと稼いでいて投資やってるオレカッケー』な人は、そういう所に来るハイクラスの女性を狙っているの。『見た目だけじゃなく、頭のいい女をゲットして憧れカップルになるオレカッケー』って。それで付きまとわれて、嫌な思いをした事が何回かあるわ」
やっぱりハイクラス美人でも、色んな嫌な目に遭っているようだ。
「ジムではガチに動くから、沢山汗を掻いてもいいように、体にフィットしたウエアを着ているんだけど、まぁ、いやらしい目で見られるわね。そういうのあるのよ。SNSを見ていても、トレーニーの女性の写真にいやらしいコメントをつける男がいたり」
春日さんは嫌そうに言ってから裂けるチーズを裂かずに囓り、モグモグと口を動かしたあと、寂しそうに呟く。
「…………本当は守られたいのよ。そんな失礼な事をされた時、『俺の女に何するんだ』ってスマートに守ってくれる彼氏がほしい。……でも私は女にしては強すぎる。滅多な事で泣かないし、経済的に自立してるし、仕事もできるし家柄もいい。自慢してるように聞こえるけど、事実なの」
「分かりますよ。大丈夫」
私は手を伸ばし、春日さんの背中をさすった。
「……そして日本人の男性のほとんどは、そういう女が苦手だわ。残念ながら、男の人は自分より女性に劣っていてほしいって思っているもの。勿論、全員がそうじゃない。でも私が出会ってきた人はそうだった。……あとは、ヒモになりたがる人かバブちゃんよ」
彼女は大きく息を吸い、クーッとワインを飲み干す。
「……多分、私はそのうち親が見つけた相手と結婚する。今は仕事を優先して『自分で相手を探す』って言っているけど、恐らく無理。自分の好みじゃない相手とお見合いして、可もなく不可もない結婚をする。一緒にいるうちに愛情は芽生えるでしょうけど、…………私がしたいのは、キュンとするような、夢中になれる恋なんだけどね……」
「…………難しいですね……」
エミリさんは深い溜め息をつき、手酌で白ワインを注ぐ。
「んー! ごめんね! これは言ってもどうしようもない事だから、口に出しても困らせてしまうだけだけど、誰かに聞いてほしかった。それだけ!」
春日さんはパンッと手を打ち、エミリさんを指さす。
「風磨さんとはどう? 結婚に向けて進んでる?」
言われて気づいたけど、もともと春日さんは風磨さんとお見合いする事になっていて、エミリさんは尊さんとお見合いするはずだった。
……そう思うと、カオスな女子会だな。
「ゆっくり……ですね。これから彼は社長になるし、パーティーやら何やら忙しくなります。籍を入れるだけならいつでもできるし、結婚式は時期を見てやればいいと思っています。……子供を作る時期は考えないといけませんけどね」
エミリさんの話を聞いた私は、芋づる式に尊さんのお祖父さんを思い出し、また挙手して質問する。
「……尊さんと風磨さんのお祖父さんに会った事、ありますか?」
それを聞き、エミリさんは目を丸くして「ああ!」と頷いた。
「そういえば、朱里さんはまだお会いしてないのよね」
「ご招待を受けて、近いうちにご挨拶する予定でして……。……怖い方ですか?」
尋ねると、エミリさんは腕組みをして首を傾げる。
「第一印象は怖いかも。お父様は風磨さんに似てちょっと優柔不断な感じだけど、お祖父様は|矍鑠《かくしゃく》として意志の強い方よ。曖昧なものを嫌って、白黒ハッキリつけたがる。分かりやすいっちゃ、分かりやすいわね」
「おお……」
私は感嘆の声を漏らし、生ハムをペロリと食べる。
「でも、コツさえ掴めばすぐ打ち解けられるわよ。大きな声でハキハキと挨拶をして、返事は端的に。勧められたものはいただく。その点、朱里さんは食いしん坊だから気に入られるかも」
「も、もおお……」
まさかここでまた指摘されると思わず、私はちょっと赤面する。
「勧められたものは〝物〟も含めるわ。高価な物をいただいても、遠慮せず受け取る。気前のいい方で、人にあれこれ振る舞うのが好きなの。色ぼけジジイじゃないけど、若くて綺麗な女性が好き。でも露出しすぎたり、下品なタイプは好まない。だからそれを踏まえて、服装はきれいめで清潔感のあるワンピースや、ブラウスとスカートの組み合わせがいいと思う。本当は着物で行けたらベストだけど、着慣れていないなら無理はしないほうがいい。そういうのはすぐ見破られるわ」
「はい」
「食品会社の会長さんだから、勿論飲食にまつわる話が好き。美味しいお店の話が好きで、高級料理店は勿論、B級グルメも麺類もファストフードも、なんでも好き。コンビニやスーパーの新商品やレトルトの情報にも精通してる。その辺は、朱里さんは商品開発部だから有利かも。戦時中生まれだから、余計に人々に美味しい物を食べてほしいという気持ちが強いわ。飲食物への敬意が凄い」
私はさすが秘書と言える、エミリさんの情報をありがたく聞いていた。
コメント
1件
エミリさんから情報収集できて良かった♡