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楽屋での待ち時間、特にすることもなく俺はソファーに座ってスマホを弄ぶ。
みんなは何やら楽しそうに話している。まあ隣のこいつにちょっとばかり気を遣ってるのか、声のボリュームはいつもより小さいけど。
すると、左隣でこくりこくりと船を漕いでいた慎太郎の頭が、俺の肩にこつんと落ちてきた。
ちょっと重みのある温かさが気持ちいい。
それが末っ子っぽくて何ともかわいくて、4人に向かって「見てこれ」と報告。
「アハハかわいい」
と樹がまるで大我に向けるような顔で言う。
そしてジェシーもニコニコしている。
「しばらく動けないな」
北斗は苦笑い。
大我が毛布を持ってきて、慎太郎の身体にそっとかけた。
みんながこうして配慮するのも、少し前に慎太郎が「疲労症候群」という病気を患っていることがわかったから。疲れが取れなくて体調が悪くなってしまう、何とも辛そうなもの。
だから、さっきも慎太郎は「疲れた」って言ってソファーに沈んだ。
疲れた時には誰かに言って、と伝えているからそのミッションはちゃんと達成できている。
でもしっかりした治療法はないらしいから、とりあえず寝て疲れを少しでも取るという対処法しかない。
しばらく左肩に伝わる温度を感じていると、待ち時間も終了。
仕方ないけど起こさないと。
「しんたろ、起きて」
まぶたをゆっくり開けて眠そうにこする。
「どう? 大丈夫?」
俺が訊くと、大丈夫、と細い声で答えた。
調子がいいときは前みたいに元気だけど、大体はこんな感じですっかり静かな慎太郎になってしまった。
まあ、ボケの人数が減って樹は楽みたいだけど、ずいぶん寂しそう。
慎太郎のペースに合わせ、慌てずに楽屋を出る。
ジェシーがさりげなく背中を支えながら、
「今どんな感じ?」
と尋ねる。
「ちょっと頭痛い…」
大丈夫だよ、とさすった。
慰めの効果にも限度があるのはみんな知っている。でも、どうにかして慎太郎の辛さや苦しみを消してあげたい。それは5人全員が思ってることだ。
番組の収録が始まっても、1回だけいつもの笑みでボケを放ったけど、あとは口を閉ざしてみんなの話に相槌を打っている。
時々こめかみに手を当てるのも見えた。
声を掛けたいけど、タイミングすらない。
隣に座っている北斗が、ちらちらと視線を向けて見てくれているようだ。
そして1本が終わった。
「お疲れ、慎太郎。大丈夫?」
うん、と答えたものの目頭を押さえている。
「ちょっと座ろ」
スタジオの隅の椅子に座らせるが、慎太郎は申し訳なさそうな声でこう言った。
「俺のことはもういいから…。一人で大丈夫」
その言葉に、俺は眉を下げる。
「ほっとけるわけないだろ」
そうだよ、とジェシーもうなずく。「こういうときにはみんなで一緒にいなきゃ」
そう明るい笑顔を見せるが、どうも表情は冴えないまま。
思わずため息が出そうなのを、何とかこらえた。
このままじゃ、慎太郎が慎太郎じゃなくなる。
「どうしたらいいかな…」
ついこぼれた本音は、誰にも拾われることなくだだっ広いスタジオに消えた。
続く