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#恋愛?
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「マスター、お酒を一杯いただこうかな。今日のオススメを頼むよ」
カウンターに座ると、詐欺師のおにーさんは早速注文しました。
その隣に腰を下ろして、わたしも詐欺師のおにーさんに便乗します。
「マスターさん、わたしにも一杯お願いします。オススメのやつで。ほら、エラちゃんも早く注文してください。どうせ奢りなんですから、遠慮しないでも大丈夫ですよ」
「じゃ、じゃあ、あたしもマチコと同じのでっ」
「……おう」
マスターさんは不愛想に頷いて、コップに飲み物を注いでいます。
あまり時間もかからず、飲み物はすぐに出てきました。
「ほう? これはこれは、質のいい酒だね。マスター、君のお酒にたいする慧眼は感服に値するよ」
「まぁな。こっちは十数年も働いてるんだ、当然だ」
詐欺師のおにーさんとマスターさんはニヤニヤと笑いあっています。ちょっと自分に酔っているような会話が気持ち悪いと思いました。
大人ってどうしてこんなにめんどくだそうな会話をするのでしょうね。今の会話なんて、『おいしー』『ありがとー』で終わる内容じゃないですか。もっとシンプルにお話すればいいのに。
……まぁ、大人の気持ちは大人になったら分かるでしょう。わたしはまだ子供なので微塵も理解できませんし、気にしないでおきましょう。
(……なんでしょうか、このピンク色の飲み物は)
視線の先にはマスターさんのオススメが置かれています。美味しそうな見た目なので、なんだかわくわくしてきました。基本的に貧乏だったので、美味しい食べ物や飲み物を口にする機会なんてほとんどなかったんですよね。
どれどれ、どんな味がするのでしょうか?
詐欺師のおにーさんに続いて、わたしもコップに口をつけます。
「んぐっ……けほっ、けほっ」
そしてわたしは思いっきりせき込むことになりました。
口内に広がった苦みに舌が悲鳴を上げています。少量ですが飲んでしまったせいで、喉も焼け付くように熱くなっています。
「なんですかこれは! お酒じゃないですかっ」
そう、マスターさんがオススメしてきたのはお酒だったのです。なんていう銘柄なのかは分かりませんが、どんな種類だろうと子供がお酒なんて飲めるはずがありませんよ!
「頭は大丈夫ですか? まさかわたしみたいにか弱い子供にお酒をオススメするなんて……マスターさんは本当に十数年もマスターさんだったんですか? 実はただのお皿洗いさんだったんじゃないですか?」
「お、おう……なんかすまねぇ……」
マスターさんはわたしの剣幕にびびっています。
ちょっと怯えたように狼狽えながら、しどろもどろにどうしてお酒を出したのか説明してくれました。
「えらく通そうな口ぶりで『オススメを一杯』なんて言うからよ……見た目は子供だが、酒も飲むような悪なのかと思っちまった。あんたはなんか、悪そうなオーラが出てるからよ」
「悪そうなオーラってなんですか! わたしはただ可愛いだけの素敵な幼女でしかありませんけどっ。きんたま潰しますよこのおたんこなすが!」
「マチコ、そんな汚い言葉を使う幼女が可愛くて素敵なわけないと思うのっ……あたしね、マスターさんの気持ちも分かるわ。マチコはなんか、怖いもの」
エラちゃんは何故かわたしじゃなくてマスターさんを擁護するようなことを言っています。
わたしが怖い? そんな、ありえませんよ。こんなに綺麗で可愛くて将来は巨乳のセクシー美女になるわたしですよ? わたしに秘められている可能性なら怖いと思われてもおかしくないですけど。
「ほら、甘いミルクを持ってきてくださいっ。エラちゃんの分もしっかり用意してくださいよ?」
「す、すぐに準備するっ」
マスターさんは慌ててミルクを準備します。
その間も、わたしの怒りは収まりませんでした。
「イライラします。なんか衝動的に世界を破壊したくなってきました」
「なんでマチコはそんなに物騒なの? ってか、やめて。マチコなら本気で世界を破壊しそうだから、絶対にそんなことしないでね?」
「分かりませんよ? わたしは怒ったら怖いですからね。そう簡単に機嫌も直ることはありません」
と、そんな会話をしているうちに、マスターさんはミルクを持ってきてくれました。
「待たせたな。特上のミルクだ……これで機嫌を直してくれ」
「まさかっ。そんな子供みたいに、甘い飲み物でわたしが機嫌を直すわけ――」
そういいながら、口にミルクを含みます。
その瞬間、わたしのほっぺたはふにゃりと崩れました。
「あまーい♪ えへへ、すっごいおいしーです! マスターさん、こんなミルクを用意できるなんてもしかして天才ですか!?」
さっきまでの怒りはなんだったのか。
甘いミルクのおかげで瞬時に機嫌がなおりました。
「……あ、ありがとよ」
マスターさんもひきつった笑顔を返してくれます。いつもなら『もっと綺麗に笑えや』と脅迫するところですが、今は機嫌がいいので何も言わないで上げましょう。
「マチコって……とっても、単純だわ」
「うるせーですよ。ほら、エラちゃんも飲んでみてください。すごく甘くて素敵なんです。わたしが今まで飲んできたミルクがぞうきんのしぼり汁かと錯覚するくらいおいしーですよ!」
「そ、それは言い過ぎだわ……普通のミルクよ。マチコが今まで飲んでたのは、もしかしたら質が悪かったかもしれないけど」
またしてもエラちゃんがわたしを同情するような目で見ていました。
彼女は腐っても王族……なんだかんだ、わたしよりいい生活をしていたのでしょうね。まぁ、継母と義姉にいびられたり、めかけの子供だったりするので、生まれの重さで考えるとわたしと同じくらいなのですが。
「おいしー♪」
ともあれ、わたしはとても上機嫌です。
このミルク一杯だけでも、十分に幸せな気持ちになれたわけですが。
「もしお腹が空いているのであれば、料理も注文したらどうかな? 僕が奢るから、好きなものを頼んでいいよ」
詐欺師のおにーさんがそんなことまで言ってくれたので、わたしは更に幸せになれました。
「いいんですか!? じゃあ、お肉! マスターさん、このお店で一番高いお肉をステーキにしてくださいっ。一番高いやつですよ!!」
「……ドラゴンの肉があるんだが、かなり高いぜ? 本当にいいのか?」
「はい! お金を出すのはわたしじゃないので、大丈夫です!!」
何を当たり前のことを言わせるのでしょうか。
遠慮? そんな言葉はわたしの辞書にありませんから。
「おにくー♪ おにくー♪」
ああ、なんて素敵な日なんでしょう。
今なら、世界中の皆さんを愛せそうなくらい、わたしは幸せでした――