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6 - 第6話愛しい君は・・・

2025年10月05日

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第六話 愛しい君は・・・

土曜日。


いつもなら、ダンスを見終わってくだらない話をしているはずの頃。

俺とバイオレットは黙ったままでいた。


「……」


やっと会えたのに、なにを話せば良いのか分からない。くだらない話題も今日は出てこない。何故だかバイオレットも話し掛けてこない。


『学校に居なかったでしょ? 見付けられなかったんだけど』

訊きたい。でも、そんな事を言ったら探していた事がばれてしまう。

どうすればいいんだ……。



「……やっぱり……、塚松君はあたしのこと、見つけられませんでしたね……」

「え……?」

「この前の月曜日もその前の月曜日も、もう一週間前の月曜日も……、お友達と運動場のベンチに座ってましたよね……? あたし、……見てたんです」

「え!?」

見てた……?

「やっぱり、気が付いてなかったんですね……。実は、ぶつかったりも、してて……」

「――……」



どうして? あんなに探したのに。あんなに会いたいと願ったのに。どうして見付けられなかったんだ?


だって、バイオレットは居なかったじゃないか。バイオレットは……



「塚松君……」


「……あ……」


目の前には、小窓の奥には、いつも通りバイオレットが居た。

長い茶色の髪は今日も綺麗で、顔は、やっぱりおかしな方向を向いていて……

……『見てた』?

バイオレットは目が見えないんじゃないのか?


バイオレットは、バイオレットは……?


彼女は一度も自分は目が見えないなんて言ってない……

でも、俺の事は一度しか見てないって。そう言ったじゃないか。


なんなんだ? 『見る』って?



どうして? 俺には、目の前のバイオレットが見える。なのに、外ではバイオレットを見付けられない。


『塚松君は、あたしの声しか知らないから……』




「塚松君……、あたし……聞いたんです……」

混乱する俺に追い討ちをかけるように、彼女は言葉を放つ。

今日の彼女の声色は少しおかしかった。

怒ってるとか、そう言うのじゃなくて……だけど、なにか……違和感があった。



「弟さんの、事……」



弟? 浩介? 浩介の事?


「浩介……? あいつなら、今日も見舞って来たけど、別に……」


「――……、……」


? どうかしたんだろうか?


浩介は、ずっと入院してるけど結構元気で。ほら、だって、さっきもあいつの病室で……


病室で……?




「――浩介、は――……」


頭がおかしくなりそうだった。

毎週土曜、俺は、浩介のお見舞いに来るために病院に来ていて。

そう、バイオレットに会いに来るのも、その、ついで、で……



『ほら、あの子……可哀相ね、また来てるわ……。あの日から、あそこに通ってるみたいなんだけど……』



あの日……あそこ? 小窓……最初に来た日も、俺はお見舞いの帰りで……。






違う。





あの日は――……




「――っ!!」


「つ、塚松君!? 大丈夫ですか!? あ、あたし……っ」


「バイオレット……!」









気が付いたら、彼女の手を引いて、庭を抜け出していた。




彼女が小窓を越える時、声が聞こえたような気がしたけど……そんなもの、俺には聞こえなくて。








愛しい君は、今俺の手の中。





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