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気が付いたら、俺は自分の家の近くに居た。
病院からここまで歩いて来てしまったらしい。
バイオレットは何も言わずに、俺の手についてきてくれていた。
真っ暗な場所が、現実が腹をえぐって、内臓にのめり込むような感覚がした。
胸が詰まる。苦しい……!
「ごめん……、バイオ、レット……」
「……」
青空が見えた。必死に声を振り絞った。
「……俺……ずっと、あいつの、弟の見舞いになんか……行ってなかったんだ……」
「……」
夏の太陽は肌を焼き、目眩をも引き起こしそうになる。
「自分で、ずっと、行ってるつもりになってた、だけ、で……」
「……」
吐き気がした。頭痛もして、ふらふらした。
思考の全てが、暗闇に沈んでゆく気がした。
「ホントは……、浩介は……、……バイオレットに初めて会った日に、……」
「……」
「……っ」
うけとめられなかった。
言ってる今も、現実感が湧かない。
確かめるために、家まで歩く。
「バイオレットは、……それを、聞いたんだ……?」
「……」
「……バイオレット……?」
見てみると、バイオレットはとてもぐったりしていた。
「バイオレット!?」
しかし、彼女は答えない。
体制を代えようと思い、手を放す。
かしゃんっ
「バイオレット!」
「……」
「バイオレット、バイ……」
抱き上げても応えは無い。
「……塚松君!」
誰かに呼ばれた。
振り向くと、黒髪をおさげに結った、眼鏡をかけている少女が立っていた。
息を切らし、肩を揺らし、汗だくで俺の方を見ている。まるでやっと見付けたとでも言うように。
「誰……?」
「……っ!」
「なあ、バイオレットが動かないんだ……! 病院……そう、救急車! 呼んで……!」
「――塚松君……っ!! バイオレットを、よく、見て……!! バイオレットは、……っ」
少女はなぜか泣き出しそうな声で俺に訴える。
俺は、彼女の言う通りにバイオレットを見てみた。
俺に抱かれたバイオレットの体は、地面へと向いている糸に従うようにだらりと垂れ、全くとして動かない。
50センチしかない体は、バイオレットのもの。
「……バイオレットは……人形だよ……」
泣き出しそうな少女が言った。
バイオレットはマリオネットだった。
手を離せば、『かしゃん』と音をたて、堕ちるモノ。
強い力で引いた糸は、無惨にもひきちぎられ……。
彼女が崩壊を確信した頃。
俺はまだ、なにも分かってなくて。
ただ、いつかの棒アイスを思い出していた。
原型はもう、分からない……?