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伊達家創作

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伊達家創作

1 - 弟を斬った話

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2021年12月23日

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 「これで良かったのか」

 目の前に座る片目の男に、俺は声をかけた。

 「わかってる。お前の言いたいことは」

 男の朱の着物が、その白い顔をより美しく魅せていた。その顔には、悲愁の表情が浮かんでいた。

 男は哀しそうに笑って、「あのなあ、お前、敬語を使え」と言う。

 「はいはい、承知仕りました、殿ーーー伊達藤次郎政宗様」




 陸奥は春でも寒い。毎年のことだが、冬を抜けたと思ったらこれだ。

 「よろしいでしょうか」

 戸の外から、幼い声がした。

 「竺丸殿」

 片倉小十郎が教育係を勤める梵天丸の弟、竺丸であった。

 「どうしたのです。どうして泣いておられるのかは知りませんが、まあ入られよ」

 「あ、兄上、が・・・」

 「若殿が?」

 うっ、ひっ、という呻き声が、竺丸の小さな口から漏れる。

 「いなくなる、夢を見ました」

 「はあ。そうでございましたか」

 涙をこらえる竺丸を小十郎は冷たくあしらう。

 「それならご安心下さい、貴方の兄上はあちらで寝ております故。まあ、病ではありますが」

 何故かというと、この小十郎が刀で目を抉ったからに他ならない。

 

 「・・・そんな事が」

 片目を隠した包帯は少し紅い。

 「竺丸は何故、俺なんかのために泣いたんだろうか」

 「何ですか、私も若殿が寝込んでいる間、ずっと枕を濡らして寝ておりましたよ」

 「嘘つけ。」

 というか、お前竺丸に冷たすぎだ、と梵天丸は言う。

 「まあありがとうな。小十郎。」

 小十郎は忠実な家臣のように、頭を下げる。「なあ」

 「後で時宗にも、見舞いに来いって言っておけ」

 時宗とは、梵天丸の従兄弟で、伊達実元の子時宗丸のことである。竺丸と同じ齢の生まれだが、なかなかしっかりしている。梵天丸にとって、弟のように可愛がっている存在だった。




 「その時だったか。俺と何を話した?覚えておらん」

 「さあ。わからんな。もう30年も前だぞ、じいさんになったな」

 藤次郎は料理に手をつけた。うん、今回は成功だ。藤次郎の趣味は料理であった。

 「ただ、お前と同じ齢だが小次郎はじいさんには見えんかった。俺の刃がふれた最期まで」

 ただ、塩が足りんかもなあ、戦国大名には良くあることかも知れないが、重い話をしながら、さらりと味のことを話すのだ。そして、その後すぐに哀しそうにする。

 「お前、わかってるんだろ、俺の言いたいこと。」

 藤次郎はそう言ってこちらを見る。

 「さあな。そんな事言ったか?」

 語れと申すか、と笑った。

 「初めて俺のために、泣いてくれた奴だぞ。・・・後悔しないはずがない」

 この男は独眼竜である。片目からしか涙を流さぬ。そして、料理が塩味になった、丁度いいな、と零した。

 






《人物》

伊達成実(時宗丸)・・・1568〜 政宗(梵天丸)のまあ簡単にいうと従兄弟。親が姪と伯父の夫婦なのでちょいとややこしい。毛虫愛好家

伊達政宗(梵天丸)・・・1567〜 幼少のころに天然痘で片目の視力を失った。転機として、片倉小十郎に目を抉らせるが、この話の大部分の回想は、それで寝込んでいる時のことである。料理愛好家

伊達小次郎(竺丸)・・・1568〜 政宗の弟。1590年、小田原攻め前に政宗に殺される(?)。出家説もある。

片倉小十郎・・・伊達政宗の教育係。ちょっとドライな描き方をしてるけど。

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