TellerNovel

テラーノベル

アプリでサクサク楽しめる

テラーノベル(Teller Novel)

タイトル、作家名、タグで検索

ストーリーを書く

刻の碧律

一覧ページ

「刻の碧律」のメインビジュアル

刻の碧律

142 - 第9話:卒業コードの夜

♥

10

2025年04月25日

シェアするシェアする
報告する

第9話:卒業コードの夜



ツリーハウス学舎、夜。

揺れる灯りと木のきしむ音。

学内にある最大の演習室が、今夜は“コード発表会”の舞台となっていた。


「これが、卒業条件――“自作フラクタル”。

100文字以内で、誰にも真似できない“お前だけの祈り”をコードにせい」


スエハラ先生の声が静かに響き、生徒たちは緊張と期待を背負って杭の前に立っていった。




演壇に立ったゲンは、演習服を少しはだけ、左手のリングをくるくるといじりながら笑った。


「ルールって苦手だけど……今日だけは、ちゃんと守るよ」


彼が浮かび上がらせたのは、まるで流れる光の譜面のようなコード。


《FRACTAL_TYPE = “共鳴律”》

《TRIGGER = “誰かの願い”》

《COLOR = “記憶”》

《PULSE = “鼓動”》

《EFFECT = “届く声”》

《LIFE_USE = 0.1》


「“誰かが言えなかった気持ち”を拾うコードさ。俺みたいなやつが使うもんじゃないけどさ……」

「誰かが泣いてたら、ちゃんと聴こえるようにって」


模様は複雑に絡まりながら、あたたかな青を残して溶けた。


会場がしんと静まり返る。




続いて、タカハシが演壇に立つ。

制服のボタンはきっちり、だが少しだけ手が震えていた。


「……僕のコードは、理論の積み重ね。でも――最後は願いを込めました」


彼のコードは、正確で、美しかった。


《SHIELD = TRUE》

《BARRIER_TYPE = “共感”》

《STABILITY = MAX》

《LIFE_USE = 0.2》

《SAVE = “仲間”》

《TRIGGER = “守りたいもの”》


「“誰かを守るコード”。

その誰かが、“守ってくれ”って言えなかった時のためのものです」


コードが杭に触れた瞬間、光の壁がふわりと現れた。

その穏やかさは、“優しさ”そのものだった。




「すごいな……」

「こんなコード、思いつかないよ……」


生徒たちはささやき、誰かは泣き、誰かは拳を握っていた。


ゲンとタカハシが視線を交わす。


「……これが“卒業”か」


「終わりじゃないよ、始まりだろ?」


ツリーハウスの葉の間から、夜空に一瞬、フラクタル模様のような星々がまたたいた。


それぞれの“願い”が、コードという名前の物語になった夜だった。


loading

この作品はいかがでしたか?

10

コメント

0

👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!

チャット小説はテラーノベルアプリをインストール
テラーノベルのスクリーンショット
テラーノベル

電車の中でも寝る前のベッドの中でもサクサク快適に。
もっと読みたい!がどんどんみつかる。
「読んで」「書いて」毎日が楽しくなる小説アプリをダウンロードしよう。

Apple StoreGoogle Play Store
本棚

ホーム

本棚

検索

ストーリーを書く
本棚

通知

本棚

本棚