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第187話 学園襲撃
【異世界・転移した学園/体育館脇・朝】
追加の光具が、レアの箱の外側に置かれていく。
小型光具が二つ。
結界杭が一本。
それだけで、体育館の空気が少し変わった。
ダミエの結界を強くするのではない。
外側に余白を作る。
揺れを逃がす場所を作る。
ノノの声がイヤーカフから聞こえる。
『右の光具、もう少し外』
『箱に近づけすぎないで』
『外箱へ直接つなぐんじゃなくて、外側に流す感じ』
サキが紙を見ながら、位置を読み上げる。
「右、あと半歩外。結界杭は、光具と一直線にしない。少しずらす」
リオが結界杭を持って、床に印をつけた。
「ここか」
『うん、そこ』
ノノが答える。
『リオ、杭を立てたら副鍵は使わないで』
『今は鍵じゃなく、杭だけで受ける』
「分かった」
リオは杭を床へ立てる。
杭の先端が淡く光り、床に薄い円を描いた。
ダミエはその様子を、少し離れた場所から見ていた。
自分でやれば早い。
自分で触れば正確に調整できる。
だが、ノノにもイデールにも止められている。
今のダミエが触れば、また結界の負荷を自分の体に引き込んでしまう。
だから、見ているしかない。
それが一番落ち着かない。
「歪んでいる」
ダミエが言うと、ハレルがすぐ顔を上げた。
「どこ?」
「左の光具。床に対して少し浮いている」
サキが確認する。
「左、少し下げて。床に光が触れるくらい」
先生の一人が慎重に光具を動かした。
光が床へ落ち、外箱の周りの揺れがわずかに静まる。
ノノの声が入る。
『うん、いい』
『外箱の数値、少し戻った』
サキがほっと息を吐く。
「よかった……」
レアは箱の中から、その作業をじっと見ていた。
「みんな、私を閉じ込めるの上手くなってきたね」
リオが冷たく返す。
「褒められても嬉しくない」
「褒めてるよ」
レアは少し笑う。
「最初よりずっと丁寧」
ハレルはレアを見る。
「逃げる気なら、やめろ」
レアは首を傾げた。
「逃げる気があるって言った?」
「考えてるとは言った」
「考えるだけなら自由でしょ」
サキが不安そうに言う。
「レア」
レアはサキを見る。
さっきまでの笑みが、ほんの少し薄くなった。
「今はまだ、出ないよ」
「まだ?」
「うん」
レアは床を走る光を見る。
「まだ、外が見えないから」
その言い方に、サキの胸がざわついた。
ダミエが低く言う。
「箱の内側から見える必要はない」
「そうかな」
レアは答える。
「見えないまま閉じられてると、誰かの役割だけが残るよ」
「お前の役割は、ここで大人しくしていることだ」
「それは、私が決めた役割じゃない」
その瞬間、体育館の空気が少しだけ冷えた。
ハレルが口を開きかけた時、外から短い悲鳴が聞こえた。
全員が、同時に顔を上げる。
◆ ◆ ◆
【異世界・転移した学園/校庭・朝】
校庭の空が、黒く裂けていた。
雲ではない。
煙でもない。
空間そのものに、黒い亀裂が走っている。
その亀裂の向こうから、巨大な腕が出た。
毛むくじゃらの獣の腕。
けれど、生き物の毛ではない。
黒い影が毛の形をしているだけだ。
その腕が校庭の土を掴み、地面を抉る。
続いて、頭が出る。
狼型。
だが、王都北西区で見たものよりも歪んでいた。
顔の半分に、現実側の道路標識のような白い記号が貼りついている。
背中には、異世界の石紋と、現実の文字列が混ざった黒い筋が走っていた。
校庭にいた教師が叫ぶ。
「体育館へ戻ってください!」
「外へ出ないで!」
その声に、生徒たちがざわつく。
狼型の影獣が、地面を蹴った。
次の瞬間、校庭の端にあった水飲み場が弾け飛んだ。
金属音。
土煙。
水しぶき。
生徒たちの悲鳴が重なる。
その黒い亀裂の上に、男が現れた。
肩幅のある体。
荒っぽい立ち姿。
黒い影をまとい、目の奥には文字列が脈打っている。
ジャバ。
彼は校庭を見下ろし、楽しそうに笑った。
「ここか」
「思ったより、ちっせえな」
そして、体育館の方へ顔を向ける。
「おい、主鍵持ち」
「隠れてねえで出てこいよ」
その声は、校庭全体に響いた。
◆ ◆ ◆
【異世界・転移した学園/体育館脇・朝】
イヤーカフに、ノノの声が飛び込んできた。
『学園側、異常反応!』
『校庭に黒影出現!』
『獣影もいる!』
ハレルは立ち上がる。
「ジャバか」
リオも副鍵へ手を添えた。
「北西から移ったか」
ダミエの顔が険しくなる。
「校庭に出たなら、体育館を狙う」
サキが青ざめる。
「生徒たちが中にいる」
ハレルはすぐに言った。
「リオ、外を見る」
「ダミエは体育館とレアの箱を」
「言われなくても」
ダミエはそう返したが、声には疲れが滲んでいた。
レアが箱の中で、ぽつりと言う。
「来たね」
ハレルが振り向く。
「知ってたのか」
「知らないよ」
レアは肩をすくめる。
「でも、ここは狙いやすい」
「主鍵。副鍵。学園。箱。いろいろ置きすぎ」
リオが低く言う。
「お前もその一つだ」
「うん」
レアは少しだけ笑った。
「だから面倒なんでしょ」
サキがその言葉に何か言い返そうとした時、体育館の壁が揺れた。
ドン、と重い衝撃。
生徒たちが奥で悲鳴を上げる。
教師たちが声を張る。
「下がって!」
「中央に集まって!」
「窓から離れて!」
ハレルは主鍵を握った。
「行く」
サキがすぐに言う。
「私も――」
「サキは中にいて」
ハレルは言った。
「生徒たちとレアの箱を見て」
サキは一瞬だけ反論しようとした。
でも、すぐに頷く。
「分かった」
「無理しないで」
ハレルは短く頷き、リオと一緒に体育館の出口へ向かった。
その背後で、レアが小さく言った。
「無理しない、は無理だと思うよ」
サキは振り返った。
レアは、外の黒い気配を見ているような目をしていた。
◆ ◆ ◆
【現実世界・駅周辺南側/臨時移動導線・朝】
木崎たちは、まだ戻ってきた人々を移動させていた。
南側の植え込み沿いに敷いた樹脂マット。
手持ち灯の三点交差。
名前確認。
その細い導線で、なんとか人々を臨時医療スペースへ送り込んでいる。
だが、錆は止まらない。
背後では、倒れた街灯の金属がさらに赤茶けて崩れている。
道路脇の標識も、支柱が曲がり始めていた。
ラストの姿は、今は見えない。
だが、見えない錆が追ってくる。
木崎のイヤホンに、日下部の声が入る。
『木崎さん、聞こえますか』
『ラストの錆、南側導線の外周を回っています』
『正面ではなく、出口側の金属反応を潰しに来ています』
「出口を塞ぐ気か」
『はい』
『臨時医療スペースの入口付近に金属フレームがあります』
『そこへ反応が向かっています』
木崎はすぐに叫ぶ。
「医療スペースの入口、金属フレームを外せ!」
「布と樹脂で仮の入口を作れ!」
隊員が走る。
その直後、別の通信が入った。
ノノの声だった。
『現実側、聞こえる?』
『学園にジャバが出た!』
『校庭に獣影、体育館も狙われてる!』
木崎の表情が変わる。
「学園に?」
城ヶ峰の声が割り込む。
『現実側は移送継続』
『学園側は向こうで対応する』
『こちらが崩れれば、戻った人を巻き込む』
木崎は奥歯を噛んだ。
学園が襲われている。
ハレルたちも危ない。
だが、こちらにも戻った人々がいる。
ラストの錆が追ってきている。
「……分かってる」
木崎はカメラを握り直した。
「こっちはこっちで持たせる」
その時、臨時医療スペースの入口近くで、金属フレームが軋んだ。
ギギギ、と嫌な音。
木崎が叫ぶ。
「急げ!」
「錆が来る!」
◆ ◆ ◆
【異世界・転移した学園/校庭・朝】
ハレルとリオが校庭へ出ると、空気が黒く重かった。
校庭の中央に、狼型の影獣が一体。
その背後に、さらに二体。
猪型と、腕の長い猿のような影獣が、校舎の方へ体を向けている。
ジャバは、校庭の真ん中に立っていた。
「来たか」
ハレルは主鍵を握る。
「王都北西はどうした」
「飽きた」
ジャバは笑った。
「同じところばっか攻めてもつまんねえだろ」
「それに、こっちの方が面白そうだ」
リオが前へ出る。
「何が目的だ」
「さあな」
ジャバは肩を鳴らす。
「主鍵を潰すか」
「副鍵を壊すか」
「中の箱を割るか」
「生徒どもを散らして泣かせるか」
ハレルの目が鋭くなる。
「させない」
「言うと思った」
ジャバが片手を振る。
狼型の影獣が走った。
速い。
ハレルが主鍵を前へ出す。
白い光が盾のように広がる。
だが、広げすぎない。
前の戦いで、ハレルはそれを覚えていた。
必要な面だけ。
狼型の爪が届く場所だけ。
ーー半界反転のあと、ハレルは主鍵の扱いについて何度も確認していた。
主鍵は、ただ扉を開くものではない。
光路の中心を決めるもの。
戻る場所を示すもの。
そして、必要な境界を一瞬だけ固定するもの。
その可能性を最初に口にしたのはノノだった。
『ハレルの主鍵って、たぶん“押す力”じゃなくて、
“ここから先は通さない”って決める力もある』
セラも、それに頷いた。
『主鍵は中心を定める鍵です。
なら、中心から外へ広げるだけではなく、境目を立てることもできるはずです』
リオは実戦の感覚で言った。
「なら、盾みたいに使えるってことか。ただし、広げすぎると影も乗る」
ダミエはさらに厳しく付け足した。
「面で守ろうとするな。必要な場所だけを固定しろ。
広い盾ではなく、小さい境界だ」
遠隔で聞いていたアデルも言った。
『戦場で結界を張る時も同じだ。
全部を覆おうとすれば割れる。受ける一点を決めろ』
ーーだから、ハレルは何度か試していた。
体育館の床を走る光を、ほんの一瞬だけ立てる。
壁のように広げるのではなく、爪や矢が当たる一点だけを止める。
まだ完成した術ではない。
名前をつけるなら、仮の呼び方でしかない。
それでも、今なら使うしかなかった。
ハレルは主鍵を前へ出す。
「一点だけ、止める」
白い光が、広がらずに立ち上がった。
「一点固定――〈固定界〉!」
白い光が、広がらずに一点だけ立ち上がった。
盾というより、空間に打ち込まれた透明な杭に近い。
狼型の爪がそこへぶつかり、火花のような白い光を散らす。
衝撃で、ハレルの足が校庭の土を削った。
リオが横から副鍵を光らせる。
「〈光刃・第三級〉!」
光の刃が狼型の脚を切る。
黒い影が飛び散る。
だが、狼型は倒れない。
切られた脚の影が、地面からまた伸びて繋がる。
リオが舌打ちする。
「再生が早い」
ジャバが笑う。
「半分戻したんだろ?」
「残った半分は、濃くなるんだよ」
その言葉に、ハレルは眉をひそめる。
残った半分。
戻せなかった場所。
そこに影が集まっている。
ジャバは、それを使っている。
猪型の影獣が、体育館へ向かって突進した。
「リオ!」
「分かってる!」
リオが副鍵を横へ振る。
光の線が地面を走り、猪型の進路をずらす。
だが完全には止まらない。
体育館の壁に、衝撃が走る。
中から悲鳴が聞こえた。
ハレルは一瞬そちらを見る。
その隙を、ジャバは逃さなかった。
「よそ見すんな!」
ジャバ自身が踏み込んできた。
拳が黒い影をまとい、ハレルの障壁へ叩きつけられる。
ドンッ!
主鍵の光が激しく揺れた。
◆ ◆ ◆
【異世界・転移した学園/体育館内・朝】
体育館の中では、生徒たちが中央へ集められていた。
先生たちは必死に落ち着かせている。
「窓から離れて!」
「座って!」
「頭を低くして!」
サキはその中で、レアの箱と生徒たちの両方を見ていた。
ダミエは箱の前に立っている。
外箱の光は強くなったり弱くなったりしていた。
校庭から衝撃が来るたび、箱の外側が波打つ。
ダミエの額には汗が滲んでいる。
「ダミエ、光具をもっと外へ逃がして」
サキが言う。
「ノノが、直接締めるなって」
「分かっている」
だが、ダミエの声は少し荒かった。
レアは箱の中で、静かに外を見ていた。
「校庭、楽しそうだね」
サキが睨む。
「楽しくない」
「うん」
レアは答える。
「でも、動いてる」
「何が」
「全部」
そう言った瞬間、体育館の壁がまた揺れた。
外箱の光が一瞬だけ薄くなる。
ダミエが手を伸ばし、結界を締め直そうとする。
サキは思わず言った。
「ダミエ、締めすぎないで!」
「緩めれば割れる」
「でも締めたら、ダミエが――」
「今はそれでいい」
その言葉に、サキは息を呑んだ。
よくない。
絶対によくない。
だが、校庭からまた衝撃が来る。
体育館の床が震える。
生徒たちが泣き出す。
ダミエは結界を支えるしかなかった。
レアは、箱の内側からその薄くなった部分を見ていた。
何も言わない。
ただ、じっと見ていた。
◆ ◆ ◆
【異世界・王都イルダ/臨時分析拠点・朝】
ノノの端末に、学園の警告が次々に出ていた。
《SCHOOL FIELD / SHADOW BEASTS》
《MAIN KEY / ACTIVE》
《SUB KEY-R / ACTIVE》
《REA CONTAINMENT / FLUCTUATING》
《DAMIE LOAD / INCREASING》
「まずい……!」
ノノは画面を切り替えながら言った。
「ジャバ、学園の結界じゃなくて、揺れを作ってる」
「直接レアの箱を割るんじゃない」
「校庭、体育館、生徒、主鍵、全部を揺らして、ダミエに負荷を集めてる」
セラが隣で言う。
「狙いはダミエさんの限界かもしれません」
ノノは唇を噛む。
「分かってる」
通信を開く。
『ハレル!』
『ジャバは体育館を直接壊すより、ダミエに負荷を集めてる!』
『影獣を体育館へ近づけないで!』
『ダミエが箱を締め続けると危ない!』
ハレルの荒い声が返る。
『分かってる!』
『でも数が多い!』
ノノはすぐに別回線を開いた。
『アデル!』
『学園にジャバ!』
『北西から移った!』
少し遅れて、アデルの声が返る。
『こちらも確認した』
『北西の圧が下がった理由はそれか』
『援護は?』
『すぐには動けない』
『だが、ヴェルニを一部回せるか確認する』
ヴェルニの声が遠くで入る。
『俺が行く!』
イデールの声が即座に重なる。
『その足で? 無理』
『無理じゃねえ!』
『無理』
アデルが割って入る。
『ノノ、こちらから術師を二名送る』
『ヴェルニは少し回復してからだ』
ノノは焦りを抑えながら答えた。
『急いで』
『レアの箱、揺れてる』
◆ ◆ ◆
【異世界・転移した学園/校庭・朝】
ハレルはジャバの拳を受けながら、歯を食いしばっていた。
重い。
一撃ごとに、主鍵の光が軋む。
ジャバは楽しそうに笑う。
「主鍵ってのは便利だな!」
「でも、守るものが多いと大変そうだ!」
ハレルは押し返す。
「お前に言われる筋合いはない!」
リオが横から光刃を飛ばす。
ジャバは体をひねって避けるが、肩を少しかすめる。
黒い影が削れた。
ジャバの笑みが深くなる。
「いいねえ」
「副鍵もそれなりに使えるじゃねえか」
「試すな」
リオが次の術を構える。
その時、猿型の影獣が校舎の壁を蹴り、体育館の屋根へ跳んだ。
ハレルが叫ぶ。
「上!」
リオが即座に副鍵を向ける。
だが、ジャバがその前に踏み込む。
「行かせるかよ!」
ハレルが主鍵の光でジャバを受け止める。
屋根の上で、猿型が腕を振り上げた。
体育館の中で悲鳴が上がる。
「くそっ!」
ハレルは主鍵の光を上へ伸ばそうとした。
その瞬間、ジャバが笑う。
「広げたな?」
ハレルの背筋が冷えた。
広げた光の端に、黒い影が絡みつく。
主鍵の光が一瞬、乱れた。
ノノの声が叫ぶ。
『ハレル、広げないで!』
『一点だけ! 屋根の一点だけを受けて!』
ハレルは、広げかけた光を無理やり絞った。
屋根全体ではない。
猿型の拳が落ちる一点だけ。
そこだけを、主鍵で固定する。
「一点固定――〈固定界〉!」
白い光が、屋根の上に小さく立った。
猿型の拳がそこへ叩きつけられ、衝撃だけが横へ逃げる。
体育館の屋根は大きく震えた。
だが、崩れなかった。
リオがその隙に光刃を放つ。
「〈光刃・第三級〉!」
猿型の腕が斬られ、黒い影が散る。
ジャバが舌打ちした。
「ちっ、学習してやがる」
ハレルは荒い息のまま、ジャバを睨んだ。
「何度も同じ手を食うか」
「そうかよ」
ジャバは口元を歪める。
「じゃあ、次は違う手だ」
その瞬間、校庭の黒い亀裂が、体育館側へ一歩近づいた。
◆ ◆ ◆
【異世界・転移した学園/体育館内・朝】
レアの箱の外側が、また薄くなった。
ダミエが結界を締める。
だが、その手がわずかに震えた。
サキはそれを見逃さなかった。
「ダミエ!」
「問題ない」
「嘘!」
サキの声が強くなる。
「今、手が震えた!」
ダミエは答えない。
レアは、箱の中からその手を見ていた。
そして、静かに言う。
「あと少しだね」
サキがレアを睨む。
「何が」
レアは薄く笑った。
「外が見えるまで」
その言葉と同時に、校庭側から大きな衝撃が来た。
体育館の床が跳ねる。
生徒たちが悲鳴を上げる。
光具の一つが転がりかける。
サキが必死にそれを押さえた。
その瞬間、外箱の一部に、細い亀裂のような光の歪みが走った。
本当に小さい。
見逃してしまいそうなほどの、細い線。
だが、レアはそれを見ていた。
ダミエも見た。
サキも見た。
誰も、すぐには声を出せなかった。
◆ ◆ ◆
学園が襲われた。
ジャバは王都北西から姿を消し、今度は主鍵と副鍵とレアの箱が集まる学園へ現れた。
影獣は校庭を走り、体育館を揺らし、ダミエの結界へ負荷を集めていく。
現実側では、ラストの錆が戻った人々の逃げ道を追い、木崎たちは逃げながらその癖を記録していた。
どちらの世界でも、敵はもう正面から壊すだけではない。
守る場所。
逃げる道。
閉じ込める箱。
人が頼るものを、順番に揺らしている。
そして、レアの箱に走った細い亀裂を、レア自身が静かに見つめていた。
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