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#続かないとオーバーブロット
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第一話「閉じた扉の中で」
–忘れられた塔にて、歯車の音が響く–
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〔オンボロ寮・夕方〕
オンボロ寮の一室――
フェイドとユウ、グリムが並んで座っていた。
グリム:「うーっ、今日の錬金術、また赤点ギリギリだったぞ……」
ユウ:「エースもデュースも、期末前でバタバタしてるよね。
リドル先輩やヴィル先輩のとこの補習組とか、もう地獄だって言ってたし……」
フェイド:「この時期は、学園全体が妙に“沈んだ空気”になりますね。
……とはいえ、魔力の乱れが少しずつ拡がっているのも気になります」
グリム:「 オレ様もうイヤだぞ、黒いモヤモヤ……!」
フェイドは本を閉じ、ふと窓の外に目をやる。
彼の瞳が向けたのは――イグニハイド寮。
塔のように高くそびえる、静まり返ったその建物。
カーテンすら閉じられたその窓からは、誰の気配も感じられなかった。
フェイド(……“あそこ”が、気がかりですね)
⸻
〔翌日・中央棟の廊下〕
ユウたちが登校すると、校内に張り出されたポスターが目を引いた。
『D.D.D Presents:
マジカルギア・エキスポ開催決定!』
–学内で最新テクノロジーと魔導融合の展示会を開催–
エース:「……なんだこれ。“マジカルギア”? オタクの祭典かよ」
デュース:「イグニハイド寮が中心になって企画したらしいぞ。
そういえば、あそこの寮長、まったく見かけてないな……」
グリム:「そういえば! オレ様、あの変なロボットのヤツなら見た事あるゾ!」
フェイド:「……オルトさんですね。最近、学園内で彼の目撃情報はあれど――
イデア先輩の所在はほとんど“ゼロ”に近い」
ユウ:「もしかして、部屋に引きこもってるのかな……」
フェイド(それとも、“それ以上に深い理由”があるのか――)
⸻
〔放課後・図書室〕
フェイドは一人、図書室の端である記録を読み込んでいた。
『イグニハイド寮歴史:
古代テクノロジーに基づく魔法融合研究を担う一族――シュラウド家』
「……魔導と科学の融合、“知識の王”と称される一族。
でも、その“王”が……なぜ学園で孤立し続けるのか」
パチ…
そのとき、静かな気配とともに、フェイドの隣に現れたのは――
オルト:「こんにちは、ネメシスさん。読書中、すみません」
「……オルトさん。いえ、気になっていたのです。
“あなたたちのこと”を」
「兄さんは……きっともうすぐ、表舞台に出てくると思います。
でもそれは、“世界が彼を必要としたとき”」
「……それは、“あなた”の願いですか?
それとも、“兄の計画”ですか?」
オルトはしばし沈黙し、微笑んだ。
「どちらでも、同じことです。
兄さんは、“世界を再構築する”ために動いているんですから」
フェイドの背中に、ひやりとした空気が走った。
–“閉じこもった神”が目を開けるとき、学園に冷たい光が差し込む–
⸻
〔D.D.D展示会・準備日〕
会場となる講堂では、イグニハイド寮の生徒たちが黙々と準備を進めていた。
無数のケーブルが床を這い、無機質な光が天井から瞬いている。
オルト:「こちらのブース、稼働率92%。順調ですね」
エース:「……なぁ、なんでグリムまでオレらと一緒に働いてんの?」
グリム:「ふっふん! オレ様は賢いからな! メカだってバッチリ扱えるんだぞ!」
フェイドは展示物を静かに見ていた。
魔力と科学が融合したそのデバイス群の隅に、どこか“人間らしさ”を拒絶するような冷たさを感じていた。
フェイド(……イデア・シュラウド。
彼がこの展示会で何を見せようとしているのか……)
ユウ:「でも、イデア先輩だっけ?、やっぱり出てこないね……」
オルト:「兄さんは……“部屋の中で待っています”。
まだ、出る準備が整っていないんです」
〔イグニハイド寮・最上階・監視室〕
真っ暗な部屋にただ一つ、青白く光るモニターが並ぶ。
その中央の椅子に、うずくまるように座るひとりの男――
イデア・シュラウド。
イデア:「はーいはーい……絶対出たくない。
ていうか出たらHPゼロになるやつ……。
オルトー、D.D.Dの起動プロトコル、もうちょい猶予くれない?」
モニターに映る生徒たち、ざわつく会場、動くアウルの姿。
イデア:「……また来てる。オンボロ寮の転入生……なんか、すっごくやりづらい……」
彼の目が、フェイドの姿に止まり、少しだけ画面に顔を近づけた。
イデア:「でも、この人……やっぱただの一般生じゃないんだよね……。
魔力反応も、情報密度も……ふっつーじゃありえないし……」
「……んふ、やだやだ、めっちゃフラグ立ってる感……」
⸻
〔その夜・オンボロ寮〕
フェイドたちは夕食を終え、リビングでくつろいでいた。
「今日の展示、なんか冷たくてやだったぞ。
オレ様、もっとキラキラであったかい感じがいいぞ~」
「イデア先輩って、あんまり人前に出たがらないって噂だけど……
ほんとにそうなのかな。なんか、すごく引っかかるよね」
「……ええ。
引きこもりの皮をかぶった、観察者。
彼はきっと、“全てを把握した上で”、この舞台を組んでいます」
「 見てるだけってことか?気持ち悪いんだぞ!」
「“見ている”のではなく――“試している”のかもしれません。
この学園、あるいは私たちを」
「……なんのために?」
フェイドの返答はなかった。
ただ窓の向こうにある、イグニハイドの塔を、じっと見つめていた。
–閉じこもった王が支配するのは、“リアル”ではない世界–
⸻
〔D.D.D展示会・開催当日〕
ナイトレイブンカレッジの講堂が、一夜にして変貌を遂げていた。
巨大なスクリーン、無数の浮遊するホログラム、魔法と融合した仮想端末――
それらが会場を青白く照らしている。
観客たちは驚きと興奮を隠せない様子で、展示の数々を見つめていた。
デュース:「すごい……これ、魔導演算装置ってやつか……!」
エース:「まさに“近未来”ってやつだな。イグニハイド、やっぱ別格……」
グリム:「オレ様、こっちのほうが気になるぞ!
このロボット、踊るんだぞ!」
ユウ:「D.D.Dって、こんなに大規模だったんだ……」
フェイド:「いえ。これは“通常の規模”ではありません。
何かが――裏で動いています」
その時。
スクリーンの中央に、突如として映し出されたのは、
青白い髪、猫背の青年――イデア・シュラウドだった。
⸻
〔仮想空間・イデアのメッセージ〕
イデア(映像):「やぁやぁ、NRC諸君。どうも。
拙者が“メガ引きこもり系ゲーヲタ”、イデア・シュラウドです…」
観客:「えっ…!? 本物!?」「初めて見た……!」
イデア(映像):「このD.D.Dエキスポは、ただの展示会じゃないんだよね。
ボクが提唱する未来の学園モデル、“NEOスクールライフ”のプロトタイプってわけ」
ユウ:「ね、ねぇネメシス、あれって……!」
フェイド:「……完全に“閉鎖された空間”。
ここは、彼の“支配領域”――仮想世界です」
イデア(映像):「これから皆さんには、僕の用意した特別プログラム――
“シュラウド・チャレンジ”に参加してもらいます。 」
⸻
〔仮想空間へ強制転送〕
次の瞬間、会場全体が光に包まれる。
ピィィィィイイイイン……
空間が歪み、気がつくとフェイドたちは――
**まったく違う“バーチャルな世界”**の中にいた。
デュース:「な、なにこれ!? 体が軽い……!」
エース:「うっわ、ゲームの中に入っちまったってことかよ……!」
フェイド:「……彼は、現実を“拒んだ”。
そして、自分だけの理想世界を“再構築”している?」
ユウ:「……まさか、この世界そのものが、イデア先輩の“檻”……?」
グリム:「檻って言うには、デカすぎるぞ~……!」
⸻
〔システム制御室・イデアの部屋〕
映像ではなく、今度は実際のイデアが、暗い部屋の中でキーボードを打っている。
イデア:「うーわ、マジで来た。オンボロ寮の転入生ども。
ていうか、あのおかしな仮面のやつ……センサー振り切れてんだけど。
これさ……本当に“ただの生徒”なの?」
彼の瞳が、一瞬だけ鋭く光る。
–仮想空間に閉じこもる王と、記録に残らぬ仮面の守護者–
⸻
〔仮想空間:D.D.D内部フィールド〕
転送されてきた空間は、まるで古代都市を模したようなデジタルの廃墟だった。
空は灰色、時間の概念もあいまい。すべてが制御された世界。
デュース:「これは……どこなんだ?」
エース:「俺ら、どうやって戻るんだよ!?」
グリム:「だ、誰かー! オレ様たち、迷い込んだぞー!!」
フェイド:「……ここは、彼の“世界”です。
現実から切り離された、完全なる“閉鎖領域”。
我々は、データとして再構築された存在として扱われている可能性もあります」
ユウ:「じゃあ、私たちは……今、本当に“存在している”の?」
フェイド:「“存在していない”とも、“している”とも言える――
量子重ね合わせのような状態ですね」
グリム:「難しいこと言うんじゃないぞ!!」
〔ステージ・上空スクリーン〕
そのとき、上空のスクリーンにイデアの姿が映し出される。
イデア:「よーし、はーい皆さん、注目注目ぅ〜。
ここからは“特別ステージ”。最終セクション突入だよ」
ユウ:「イデア先輩……!」
イデア:「仮想空間に閉じこもるのは、“逃げ”だって思ってる?
現実のほうが偉いって、何を根拠に?」
彼の声は明るく、けれどその奥に澱んだ苦しさが見え隠れする。
イデア:「僕は現実がキライなんだよ。
他人の評価、期待、嘲笑、失敗……ぜんぶデバフでしかないし。
だったら最初から、こっちにいればいいじゃん。
自分がルールを決められる“安心できる世界”の方がさ――」
⸻
〔仮想ステージ・アウルとイデアの対峙〕
突然、空間の色調が変わり、
フェイドだけが別のステージに転送される。
イデア:「……やっぱ、君は変だよ。
NRCの登録にも記録がない。魔力値は異常値。
何より、“存在感”が現実的じゃない」
フェイド:「……“記録されない存在”もまた、“意図された現実”の一部です」
イデア:「……あー、めんどくさ。君、僕と似てるかも。
でも、僕は“存在してる人間”が怖くて、だからこそ全員データにしてやりたいのに。
君は逆に、存在を隠して、誰にも気づかれないようにしてる。……それって何のため?」
フェイド:「……守るべきものがあるのです。
そして、“誰かの記録”に残ることよりも――
“今、目の前の真実”を守ることの方が、私にとっては価値がある」
イデアは沈黙する。
その瞳に宿るのは、疑念と興味、そしてわずかな共感。
イデア:「……記録に残らない存在か……
悪くない。ログから消えるって、ちょっとカッコイイかもね」
フェイド:「それが、あなたの“逃避”を否定することにはなりません。
けれど――この空間に囚われたままでは、“本当の孤独”は終わりません」
–孤独な王が創ったデジタルの牢獄。その中心で、声を喪った神は何を見る–
⸻
〔仮想世界・最深ステージ:オルトの部屋〕
静まり返った白い空間に、フェイドはひとり立っていた。
目の前には、子ども部屋のような、清潔なレイアウト。
だが、無機質で、どこか“作り物”のような感触があった。
そして、その中央に――
オルトが、椅子に座っていた。
オルト:「ようこそ、ボクの部屋へ。
ここは……兄さんが創った、“最後の安全地帯”です」
「これは……イデアさんが、あなたのために?」
オルト:「ううん。違うよ。これは……
ボクの“記憶”であり、“夢”であり、“願い”なんだ。
兄さんは、ボクが壊れたとき、ずっと泣いてた。ずっと、ずっと……」
フェイドの指先がふと揺れる。
これは、ただの仮想空間ではない――オルトの“心そのもの”。
「あなたは、“人間”ではない。
ですが、“感情”を持っている。
その痛みが、イデアさんの中で、“罪”に変わってしまった……」
「兄さんは、ボクを壊したことを、許してないんだ。
だから、何もかも“記録の中”に閉じ込めてしまった。
それで……世界を、上書きしようとしてる」
〔イグニハイド寮・現実世界・同時刻〕
リドル、レオナ、ヴィル、カリム、そしてリーチ兄弟も集まり、
イグニハイド寮のシステムルームで緊急解析に当たっていた。
アズール:「これは……仮想世界を超えた、“精神干渉型プログラム”……!
このままだと、仮想空間から帰れなくなる危険性もあります!」
ジェイド:「……やはり“彼”が動いたか。
フェイド――ではなく、“ネメシス”。」
フロイド:「オルトくんまでが壊れちゃったら、面白くないよ~?」
グリム:「うぅっ、ネメシスは、絶対無事に戻ってくるぞ……!」
〔仮想世界・再びイデアと対峙〕
イデア:「ボクはさ……怖いんだよ。
何かを“選ぶ”のが。何かを“壊す”のが。
大事なものが消えて、何もできない自分だけが残るのが――」
「あなたは、何も選ばなかったわけではありません。
“守る”ことを選んだのです。誰よりも、正しく、苦しく、静かに」
イデアの両肩が、震えた。
「ならば、今こそ――“終わらせてください”。
この虚構の王国も、オルトくんの孤独も。
そして、あなたの“贖罪”も」
「……君はさ、なんでそんなに他人のことを抱えこめるの?
……まるで、神様じゃん」
「神ではありません。“記録に残らない守護者”です。
ただの一人の、生徒として」
沈黙が落ちる。
そして――イデアが、ゆっくりと手を伸ばした。
ピィィン――
仮想空間が、崩壊を始める。
〔最深部:イデアの玉座〕
次に目の前に現れたのは、黒く歪んだ王冠をかぶった、巨大な影。
青白い髪は燃え上がり、空間そのものが炎のようにうねる。
その姿こそ――オーバーブロットしたイデア・シュラウドだった。
ユウ:「イデア先輩……!?」
デュース:「うそだ……オーバーブロット!?」
グリム:「ヤバいぞ……魔力が、渦巻いてる……!」
フェイド(心の声):「……これは、“怒り”でも、“嫉妬”でもない。
ただ……“喪失”の果てにある絶叫――」
〔機械神の攻撃〕
イデアの身体から生えた無数のケーブルが、空中を舞う。
コードの束が敵意をもって襲いかかり、電撃と炎が空間を焼き尽くす。
イデア:「なにも……かも……終わらせてしまえ!!
こんな現実に、意味なんて、ないんだああああああ!!!」
彼の声は、嗚咽にも似ていた。
「――皆さん、下がってください」
フェイドがそっと手を前に差し出すと、周囲の空間がやわらかに歪む。
“何か”を抑え込む力が、目に見えない膜のように彼らを守る。
ユウ:「ネメシス……!」
「……イデアさん。
あなたが失ったものは、まだ“終わり”ではないのです。
たとえ壊れても、閉ざされても……
“誰かの記憶”に、生き続けているのですから」
〔バトル後・決着の瞬間〕
フェイドは、虚空に向かって手を伸ばす。
「あなたは……誰よりも、誰かを愛した。
それは、間違いなく“生きた証”です――!」
その言葉に呼応するように、
イデアの黒い炎が、次第に青く、透明に変わっていく。
そして――
パリン――
虚構の王は崩れ、
残されたのは、青白い髪をした、ひとりの少年だった。
イデア:「あ……あああ……
オルト……オルト……っ!!」
彼はその場に崩れ落ち、震える指で誰もいない空間を掴もうとする。
〔オルトの声・最後の幻〕
そのとき。
静かに、やさしく――仮想空間に声が響いた。
オルト:「兄さん……もう、大丈夫だよ」
「ボクは、ちゃんと……“いる”から」
「これからは、“ふたり”で、歩いていこう――ね?」
イデア:「……うぅ……うああ……っ……!」
フェイドはそっと背を向け、
少年が泣き崩れる姿に、何も言わずそっと目を伏せた。
〔翌朝・イグニハイド寮 医療ルーム〕
淡い光が差し込む窓辺。
ベッドに横たわるイデアは、静かに目を覚ます。
イデア:「……ここは……戻って、きた……のか……」
その傍らに、椅子を引いて座っていたのは――フェイド。
「おはようございます、イデアさん。お目覚め、安心しました」
「……君、また……。
ああ、そっか。夢じゃ、ないんだな」
「現実です。……けれど、“記録”には残りません。
あなたの中にしか、今の私は存在しない」
イデアは目を伏せ、肩を震わせた。
「……ボクは、また壊しちゃった。
あの世界も、皆の思い出も……自分の感情も、コントロールできなかった……」
「それでも、あなたは“壊すこと”を恐れながら、“向き合うこと”を選びました。
それは、確かに“守る者”の行動です」
沈黙が落ちたのち、イデアは小さく笑った。
「……君って、本当に謎。
でも、僕のログの中には、もう君が“残って”る。
君がどれだけ姿を隠しても……“記憶”だけは、消えない」
「……それで十分です」
〔オンボロ寮・午後〕
フェイドが戻ると、ユウとグリム、エースとデュースがリビングで賑やかにしていた。
「ネメシス! やっと戻ったか~、オレ様おなかすいたぞ!」
「おかえり。……大丈夫だった?」
「ええ。……少しばかり、星が沈んだだけです。
でも今は、ちゃんと昇り始めていますから」
エース:「なにその言い方」
デュース:「でも、よかった……無事に戻ってこれて」
フェイドは、彼らの顔を見渡し、ふっと目を細めた。
「……こちらの世界は、やはり、あたたかいですね」
⸻
〔イグニハイド寮・夜〕
寮の一室で、イデアはオルトの整備をしながら、ぽつりとつぶやいた。
「なぁ、オルト。君の“心”って、どうやって生まれたと思う?」
「うーん……難しい質問だね。でも、ボクはきっと――
兄さんの“願い”から生まれたんじゃないかな」
「願い……ね」
静かな笑いが、部屋を包んだ。
「……“記録にない生徒”か。あいつの名前、もう消させないよ。
この中だけでも、ちゃんと“ログ”しておくからさ」