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恵
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#連載小説
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星キラリ

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朝ごはんを食べ終えると、庭の方からかすかな気配がした。
怪しい——そう思った瞬間、黒衣の影が縁側に現れる。黒いメイド服に猫の耳。昨夜のタタリを連想させ、広間が一瞬固まった。だがそれは、用を済ませて遅く帰ってきただけのネコミミメイドだった。
「ただいま戻りましたニャ。……あれ、お客様?」
二股のしっぽを揺らす猫又が、即座に声を上げる。
「こま! 夜中に帰ってきおって、タタリかと思ったろうが!」
叱責を受け、メイドは耳をぺたんと伏せて小さく頭を下げた。ここから、改めての自己紹介が始まる。
——家系は、およそ次のとおりである。
猫神 八千代(ねこがみ・やちよ)……猫又。この家の主。見た目は幼いが最年長。
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猫神 しずく(母・現在は別宅)
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├─ 猫神 あかね(お姉さん孫)
└─ 猫神 みお(最初に出会った孫)
猫神 おりん(叔母)
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├─ 猫神 うめ(双子のいとこの姉)
└─ 猫神 さくら(双子のいとこの妹)
遠い親戚筋 …… ネコキヨ(猫の仮面の美少女)
御家人・弁護士 …… 猫塚 れいら
分家筋・住み込みメイド …… 猫見 こま(母親も先代からこの屋敷に仕えていた)
全員、成人済みのネコミミ美少女である。この世界では成人した美少女同士でも子を成せるため、血の繋がりはそうして続いてきた。
「わちきは猫神八千代。この屋敷の主じゃ」
「猫神あかねです。妹の面倒を見ています」
「みおですニャ。昨夜は助けてくれてありがとニャ……」
「叔母の猫神おりんです。うめとさくらを連れて参りました」
「うめです」「さくらです」——双子が同時に頭を下げる。
仮面の美少女が、静かに口を開いた。
「……ネコキヨ、と申します」
「御家人で弁護士の、猫塚れいらです。ネコキヨ様の法的代理人を務めております」
「猫見こまです。屋敷の家事全般を担当していますニャ。遅くなって申し訳ありませんでした」
客側も続き、金髪のゆるふわを揺らして姫が立つ。
「美少女探偵の、姫神姫でごぜぇやす。道に迷ってお世話になっております」
「警視庁の加賀美です」
自己紹介が一段落すると、こまは素早く朝食の食器を下げ始めた。手際がよく、広間はすぐに整う。その静けさの中で、空気がまた別の方向へ歪んだ。
「八千代様の遺産の話ですが」
最初に切り出したのは、叔母のおりんだった。双子を左右に従えて、丁寧なのに芯のある声。
「うめとさくらにも、相応の分を。血を分けた姪ですもの」
猫塚れいらが、仮面のネコキヨの肩の後ろで書類めいたものを揃える。
「法的に見れば、ネコキヨ様は正当な血筋の一端です。遺言の内容次第では、相続順位も十分検討に値します」
上座の八千代が、金色の瞳を細めた。
「妾はまだまだ生きるぞい」
言い終えた途端、ゲホッ、ゲホッ、と咳が込む。こまがすぐに後ろへ回り、小さな背中をさすった。
「妾が少し具合が悪いだけで、薄汚い親戚が集まって……。孫たちは、遺産は欲しくないのか?」
あかねが困ったように視線を游がせ、みおが首を傾げる。
「遺産って、なんだニャ? お金のこと? よくわからないニャ」
八千代は一瞬きょとんとし、次の瞬間、腹を抱えて爆笑した。二股のしっぽが座布団をパンパンと叩く。
「かわいい孫娘たちは遺産も知らんのかい! 愉快ニャ! 気分が良い。酒を持ってこい!」
こまは慣れた様子で奥へ下がり、すぐに高級な日本酒を盆に乗せて戻った。銘柄は『深山猫ノ雫』。透き通った瓶に、猫の家紋が小さく入っている。おちょこに、慎重に一滴、また一滴と注ぐ。
「もっと注げ」
「お身体に障ります、八千代様」
こまが窘めると、八千代は不服そうに鼻を鳴らした。そして、一座を見渡して、にやりと笑った。
「そういえば——こまにも、お主にも相続権はあるニャ。分家筋。母親の代からこの屋敷を支えてきた。妾が病気になった途端にやってくる薄汚い親戚たちより、このメイドに遺産をやるのもありかもね」
言葉が落ちた瞬間、親戚側の顔色が一斉に変わった。おりんが立ち上がりかけ、双子が耳を逆立て、れいらの指が書類の端を強く折る。ネコキヨの仮面の奥で、視線だけが動いた。
「分家に継がせるなど、何事ですか!」
「ニャー! ニャーニャー!」
広間が騒然となる。八千代は咳の合間に笑い、こまは盆を抱えたまま困ったように耳を伏せ、みおは「遺産ってやっぱりお金ニャ?」とまだ本気で首を傾げていた。
姫は加賀美の袖をそっと摘まみ、加賀美は短く息を吐いて、全員の表情を観察している。タタリだけが災いではなかった。この家の夜は、血と財産の匂いでも揺れている。
続く。
コメント
1件
おお、一気ににぎやかになりましたね……! 猫又一家の面々が勢ぞろいする展開、家系図が出てきたあたりで思わずニヤリとしてしまいました。それぞれのキャラにしっかり個性があって、しかも遺産相続争いの気配が漂い出す——これはもうミステリの香りがぷんぷんします。みおがまだ「遺産ってお金ニャ?」って純真なのも良いアクセント。設定の積み上げ方が丁寧で、続きが気になります。