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今日も今日とて💚💙
第六話 🐶きゅん日和〜似ているあの子
亮平 side
「阿部さんって、なんか犬っぽくないですか?」
朝の情報番組で、共演者にそう言われた。
「目が優しすぎるんですよ」
スタジオが笑いに包まれる。なんでも、拾って欲しそうな目をしているとか……どんな目だよ。
犬かよ。
軽く笑って流したけれど、
帰り道、不意にその言葉を思い出した。
駅前のペットショップの前を通る。
いつもなら素通りするのに、
今日はなぜか足が止まった。
ショーケースの中。
小さなポメラニアンがこちらをじっと見ている。
長い睫毛。
少し垂れた目元。
跳ねた前髪みたいな毛並み。
――似てるか?
自分で思って、少し可笑しい。
でも目が離せない。
吸い込まれるみたいに、近づく。
ガラス越しに視線が重なる。
その瞬間、子犬のしっぽが勢いよく揺れた。
「……なんだよ」
思わず呟く。
最近、忙しい。
朝は早く、夜は遅い。
家に帰ると、部屋は暗いことが多い。
同じ家に住んでいるのに、
翔太ときちんと目を合わせたのは、いつだっただろう。
テーブルの上のメモ、綺麗に片付けられた俺のコップ。脱ぎっぱなしの部屋着は、朝には綺麗にソファーの上に畳まれている。だけど、彼の姿はもうない。
“そこにいた”ことを知る。
でも、ちゃんと向き合えていない。
触れようとすると、眠っている横顔が無防備すぎて、起こすのが惜しくなる。
そっとおでこにキスすると、髪を梳いて静かに離れる。〝おやすみ〟の声が静かに寝室に響いた。
気遣いなのか、逃げなのか、分からないまま、夜が過ぎる。
ショーケースの中の子犬は、ただまっすぐにこちらを見る。選ぶのは、そっちだよ、と言わんばかりに。
白いカード。
♂ 3か月
飼い主募集中
誕生日 2025/11/27
自分の誕生日。
偶然だろうに、
胸の奥が少しだけ揺れる。
「……似てないだろっ?」
自分じゃよく分からない。
寂しいときほど強がって笑う俺とは対照的に、ガラス越しの子犬は尻尾をブンブン振って、まっすぐに喜びをぶつけてくる。背を向けると〝くーん〟と鳴いて寂しさを表した。
ガラスに手を近づけると、小さな肉球が重なる。
透明な壁一枚。
その距離が、やけに象徴的に思えた。
会えない時間を埋めようとしていたのは――
きっと、俺だ。
ふと、隣のショーケースを見る。
そこには、真っ白な子猫がいた。
部屋の隅で、小さく丸くなって震えている。
青く澄んだ瞳。
鼻と口は綺麗なピンク色。
不安そうに顔を覗かせて、俺がしゃがんでガラスに手を添えると、ビクッと少し跳ねた。
「ふふっ……翔太みたい――
うそ、君もなの?」
♂3カ月
飼い主募集中
誕生日2025/11/5
翔太と同じ誕生日。
「今日から君はショウちゃんね」
恐る恐るガラス戸に置かれた俺の手に近付いてきた、〝ショウちゃん〟ガラス越しにペロペロとなめた。
「可愛い」
家で待つ、青黒い瞳を思い出す。今頃彼は――
ポケットのスマホを取り出す。
画面には、未読のメッセージ。
📩今日、早く帰れる?
――翔太。
少しだけ、胸が痛む。
📩遅くなってごめんね、今から帰る
すぐに既読がついた。
📩起きて待ってる
その一言で、呼吸が整う。
ショーケースの子犬が、しっぽをぶんぶん振る。
まるで、
“ちゃんと捕まえとけよ”
と言うみたいに。
今日も今日とて、急ぎ足。
君の待つ、あの家へ。
ドアを押して外に出る。
本当に会いたい人のもとへ。
――ドアを開ける。
部屋の灯りが、ついていた。
「……ただいま」
少しだけ緊張する声。
ソファから立ち上がる気配。
「おかえり」
その一言だけで、
胸の奥がじんわり熱くなる。
久しぶりに、ちゃんと目が合う。
ああ、この目だ。
少しだけ垂れていて、
優しくて、
無防備なくせに、どこか拗ねたみたいな視線。
「……なぁに?」
翔太が照れたみたいに笑う。
「翔太の方が犬に似てる」
「はぁ?」
逃げない距離まで。
「最近、ごめん」
素直に言うと、
翔太は少し驚いた顔をして、それから首を振る。
「平気……ちょっぴり寂しかった……それだけ」
その瞬間、もう駄目だった。
腕を伸ばして、ぎゅっと抱きしめる。
少しだけ痩せた体。指先に触れる骨の細さが、胸にひっかかった。
シャワーの匂いと、柔軟剤の匂いと、ちゃんと生きてる体温。
ガラス越しじゃない。
透明な壁もない。
間にあるのは、空気だけだ。
「……やっと触れた」
ぽつりと呟くと、
「触られてます////」
胸の中で、くぐもった声が返る。
そのまま、少しだけ強く抱きしめる。
心拍が重なる。
ああ、これだ。
翔太は、体温を確かめるように頰をスリスリと寄せてきた。
「やっぱり猫かも」
「はい?」
「……今日は、きゅん日和だね」
「心臓が苦しい……」
「またなの?」
離れかけた翔太の腕を、優しく掴むと、瞳が揺らいだ。
「足りたの?……俺は全然翔太が足りない」
「でも……亮平は明日もいそ……」
「我慢しないで言ってご覧よ?俺が欲しいって――」
俺の言葉に、翔太の睫毛がわずかに震えた。
視線が泳いで、それでも逃げない距離に戻ってくる。
「……っ…………そんなっ恥ずかしい」
「言わなきゃ後悔するよ?俺は翔太が欲しい」
「……欲しい、って言ったら――」
小さく、確かめるみたいな声が返ってきて、小さく頷く。急かさず、ただ、握った手の力を少しだけ強くする。
「……今、ここにいて亮平さん」
翔太の言葉は、ほとんど息のようだった。
「いるよ」
答えながら、翔太の髪に指を通す。
整えるでも、なだめるでもなく、触れていることを確かめるために。
翔太が目を閉じる。
肩の力が、ゆっくりほどけていく。
二人の呼吸が、同じ速さになった。
ソファの端に腰を下ろしても、手は離れない。
重ねた指のあいだに、さっきまでなかった温度が満ちていく。
「……足りた?」
「まだぁ……けど、増えてる」
小さく笑って、額を寄せ合う。
間にあるのは、空気だけだった。
「脱がせても?」
「寒いよ」
「ふふっ……毛皮着てるくせに?」
「何なのさっきから?」
「やっぱり翔太の方が似てる……犬にも猫にも」
「はぁ?……ンンンッ待って――」
「可愛く鳴いてね?」
久しぶりに触れた体。ドキドキ高鳴る胸の鼓動。
余裕なく夢中で彼を愛していく。
「電気消して――」
上下する胸。
彼もまた、余裕などないのだろう。
白い腕が伸びてきて、俺の頰を撫でた。
重ねた合わせた唇。
胸の突起を摘めば、薄く開いた隙間に舌を挿し込む。
足をバタつかせたその姿が、尻尾を振って喜ぶ子犬と重なった。
「尻尾振らないの////大人しくして?」
「んあっ……あんやん……リョウ……あんっ」
「ワンワン鳴かないで」
「何なの!さっきから」
「秘密」
上気した肌が月明かりに晒される。白磁の肌が赤く染まっていくリビングで翔太の鳴き声が響いた。
今日も今日とて、君を愛す。
あの子に似ている
愛しい人が待つ家で――
晩白柚
コメント
2件
2話構成だったー!🫣 猫と犬連れて帰ってくださいまし。 本当に翔太が大人しくて内気で可愛い💙