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ーーあれから一月。平穏こそ訪れたけど、姉様はまだ立ち直れないでいる。部屋で独り、ずっと塞ぎ込んでいる毎日。
まあ、無理もないけどね。私だってまだ気持ちの整理が落ち着かないし、あれ程までにユキを想っていた姉様は特に……ね。
ユキが居なくなったあの日、エルドアーク宮殿もまた同時に崩れ消えようとした為、このままでは私達も墜落して死ぬ処だった。
『任せて。二人共、ボクから離れないで』
そこで助かったのがユーリのおかげ。ユーリの持つサーモという装置の分子配列相移転とかいう力。私にはよく分からないけど、転移という一瞬で別の場所へ移動出来る力って事かな。それのおかげで私達は無事、集落の麓まで移動出来たって訳。
『嫌よ! ユキをーーユキを置いていけない!』
梃子でも拒否する姉様を説得するのは大変だったけどね……。姉様は錯乱していた。もうユキは何処にも居ないのに。
『しっかりしてよアミ! このままユキの後を追う事になったら、何の為ユキが全てを託したと思ってるのよ! もう……ユキは居ないのよ!』
結局、ユーリの説得というか、強引にあの場から脱出出来たって訳よ。
「ミオ、アミの調子はどう?」
ユーリが居間に戻ってきた。あれからユーリは私達と一緒に暮らしている。
それにしても、見事に溶け込んだなぁって感じ。ユーリは私と同じ位だったのに、一気に十年の時が進んで姉様より大人の女性になっちゃった。
しかも和装がとんでもなく似合うので、私達の民族衣裳に何の違和感もない。
集落の人達には、ユーリが狂座だった事は伏せている。狂座に苦しめられたのは間違いないから。
最初は皆、その異国というか異質なユーリの姿を怪訝に思ってたみたいだけど、すぐに打ち解けたのか今では普通に集落の一員として受け入れられている。
「変わらず……塞ぎ込んでるわよ」
私は正直に答えた。嘘を言った所でどうしようもないしね……。
「まあ、無理もないけどね。簡単に割り切る方が無理があるよ……。せめて何か、きっかけでもあればいいんだけど」
ユーリも同じ気持ちなのだろう。このままではいけない事は分かっている。でも解決策とか見つかりそうもない。
姉様はきっと、このままでは立ち直る事は出来ないだろう。
……ねえ、ユキ? アンタのした事は、とても正しかった。おかげで死ぬ運命だった姉様は、こうして生きる事が出来た。本当に、凄く感謝してるよ。
でもね……私、思うんだ。姉様の気持ちを考えると、あの時一緒に逝ってた方が良かったんじゃないかと。
死ぬ事が正しいとか、絶対にそんな事ないけど……このままじゃ姉様が、あまりに不憫過ぎるよーー
「ユーリ?」
ふと後ろに誰かの気配を感じた。ユーリかと思ったが違った。
「コリン!? アンタ最近どこ行ってたのよ?」
私の行使する氷の精霊だった。ここ最近姿が見当たらないと思ってたら……。
「ミオの精霊だよね? 最近見ないと思ってたら、何処に行ってたの?」
ユーリも怪訝そうにする。そしてコリンが私にだけ、そういえばユキにも通じた神通力で私に囁いてきた。
「ーーえっ?」
私はその内容に驚いた。心音が高鳴るのを感じる。
「どうしたのミオ? 何かあったの?」
「着いてこいーーって。渡したいものがあるからって」
私達は思わず顔を見合せた。そして着いていくーー全てを知るコリンの後を。
…
*********
ーーあれから私は、ずっと考えていた。答は……出ない。涙も出尽くして、もう出る事もない。
ユキは否定したけど、私にはどうしても受け入れきれない。あなたの命の犠牲の果てに、私に生きる価値があるのかーーと。
ユキは最期まで、笑顔のまま消えて逝った。
どうして?
誰か教えて欲しい。
その笑顔の意味をーー。
勿論、このままではいけない事は分かっている。変わらず時間は過ぎ去っていく。
でもね……ユキ? 私にはもう無理だよ。あなたの様に強くなれない。あなた無しで生きていける程、私は強くない。
“逢いたいーー”
私は短刀を手に取る。この一月の間、ずっと考えていた事だ。
これは命への、そしてユキの想いへの冒涜になるだろう。
きっとあなたは哀しむよね。何故と怒るかもしれない。
でも私は……あなたの居ない世界を生きていけない。生きていく自信がないーー。
「ユキ……今いくからね」
私は鞘から抜いた刃を、ゆっくりと首筋へ持っていく。
それを挽き切れば、全てが終わる。
残されたミオ、ユーリ、そして皆、ごめんなさい。
私はユキの処に行くからーー
…