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現代国語学院、それは埼玉王宮市にある小、中、高、大と内部進学できる文学部の最大のマンモス校である。専攻は日本文学、哲学、日本史、心理学、社会学、考古学、英文学、民俗学、つまりは小説家、ライター、日本語教師、考古学者、博物館職員、新聞記者、心理学者、臨床心理士、司書、貿易商社マンなどを目指す学校なのである。
「やっぱでけぇな」
桜が舞い散る季節、春。今日で初めて高校生になる語部書也(かたりべかきや)は足を止め、思わず見上げた。ビルのようにそびえ立つ七階建ての校舎は巨人に見下ろされているようで、初めて見る者を圧巻させる。校舎の中庭には花壇や花時計、噴水、鯉のいる池や橋、テーブルベンチなどがあり、その周囲を囲むように桜、梅、ヤシの木、カエデ、イチョウなどの木々が植えられている。
「んっ?」
スマホからレインチャットの通知音が聞こえ、確認すると「後ろ向け」と友春の表示でメッセージがきていた。
「やっぱり来たな」
振り向くと、そこには小中学校からの幼馴染、坊主に近いスポーツ刈りの友春が駆け寄り、ラリアットするかのように腕を払い、書也にヘッドロックしていた。
「お、おいやめろって!?」
「まさかお前が俺と同じこの学校を選ぶとはな」
書也は嫌そうな顔をし、友春の腕を弾き、歩き始める。
「まあ、目標が明確になったというかな……」
「お前なら、オタク系の専門学校とか行くと思ってた。漫画とかアニメとか……もしくは美術系の専門学校とかさ」
歩く書也に肩を抱き、友春は馬鹿にしたような笑みを向ける。こういうところが友春の嫌な部分でもあるが、何を思ったのか友達のいない書也に話しかけてきたのが、この友春だった。
「ずいぶん前に話したろ? 今は小説、書いてるってさ、物覚え悪いなお前」
「そうだっけ? でも、そしたらこんなお堅い文学部じゃなくて、小説の専門学校の方が良かったんじゃないか?」
書也は馴れ馴れしく肩を抱く友春の腕を弾き、急ぎ足で昇降口に入ると、四つのエレベーターのドアから生徒が出入りしているのが見えた。最近では近代的なビルや階数が多い校舎も多く、バリアフリーも考えてか、エレベーターがある学校は珍しくない。
パンフレットを熟読して知ったが、校舎内は東が初等部、中等部のフロアと西が高等部、大学部のフロアに別れており、上の階が高学年となっている。ちなみに高等部の一年の教室は一階である。
「文芸部があるって、誘われたんだ。この学校に……」
教室のドアを開けると、それぞれの男女の生徒が談笑し、同じ学年やらクラスメイトだったとかで、盛り上がっている。
「文芸部!? ちょっと待て書也!? そんなの初耳だ! だいたい俺とお前以外に同じ中学の奴がいたのか?」
友春が先回りし、信じられないといった表情で顔を近づける。
「同じラノベ好きな奴で……SNSのミックシィのラノベ好きコミュニティで知り合った奴がいてな……そいつに誘われた」
書也は机にセロテープで貼り付いている紙に自分の名前を確認すると、カバンを置いて椅子に座り、席についた。
「それヤバいだろ。ネットで知り合うってのが一番ヤバいパターンじゃん!」
書也がカバンを机のフックにかけると、友春が両手でバンと机を叩いた。
「何がヤバいんだよ? 別に援交する訳じゃないしな」
友春は、お前は明らかに騙されているといった風な顔をしているので、書也は面倒くさい奴だと思わず呆れ顔になる。
「本当に同じ学校の奴か? そいつ書也に宗教か何かに勧誘しようとしているんじゃないか?」
「同じ科の生徒で、この学校の初等部から入ってた子だ。宗教勧誘なら、わざわざ騙して同じ学校に通わせる事はしないだろ」
「同じクラスだって!?」
友春は思わず教室内を見回すが、書也達二人を気にするものはおろか、近づこうと伺っている者すらいないように思えた。ほとんどの者は友人同士の会話に夢中になり、または互いに自己紹介をしているか、新しい教科書を見始めている孤高の眼鏡優等生か、机に座り、何かの雑誌を見ているクール系ギャルしか見当たらない。
「遅れるって、レインチャットから連絡がきてたから、まだ来てないだろ」
書也はポケットからスマホを取り出し、レインチャットを確認する。
「書也、ちょっと見せてみろ!」
友春がスマホを取り上げる。
「おい、やめろ!?」
「何だこれ……遅れますw。HPが始まると、話す機械ないから、昼休みか放火後に花そうね……意味不明だな」
「返せよ!」
書也が友春からスマホを取り返すと、すぐにポケットにしまう。
「本当にそいつヤバくねえか。語尾にwとかつけてるし、わざと漢字を間違えて送る奴だろ。にちゃんねるとか、ニコ動で悪態つくヤバい奴の典型じゃん。やっぱり騙されてんじゃねぇの?」
溜息をついてから、友春は疲れたような表情で言った。
「彼女なりの文字遊びだろ? 化物語とか好きだったしさ。結構、美人だったぞ」
書也は恥ずかしそうに言う。
「はぁ? 彼女? 美人? だったら写真アイコンで騙されているパターンだ。釣られたクマ~とか言って、どっかのサイトで盛り上がってるんじゃね」
「いや、レインチャットのビデオ通話で顔も見てるし、声も聞いてるんだが……」
書也がそう言っても友春は疑いの眼差しで見るだけだった。
「信じたいのは分かるけどさ。ブサ男の彼女か姉、妹だって可能性もある訳だろ? いわゆる、なりすましってやつだよ」
「ブサ男の姉妹だったら美人の遺伝子は何処にいってるんだ? それともそのブサ男が美人な彼女作って、わざわざ嫌がらせをするのか?」
「お前の妄想とか?」
「はぁ?」
書也が思わず友春を睨む。
「そんな事より、また野球部に入ろうぜ! お前のヘナヘナフォークボールなら、遅すぎて誰も打てねぇ。お前なら甲子園行けるって、マジに!」
「はぁ? ケンカ売ってるのかお前?」
書也は友春をまた睨んだ。こっちが信用した相手をけなし、当時の腕力の無い俺のヘナヘナ球をフォークボールと馬鹿にするのは世界でもこいつ一人だろう。
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