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「ほら~席につけ」
今時では珍しいレディーススーツを着た担任の教師らしい女が教壇に立ち、座るように促す。
「ご、ごめんなさい!? 遅れました!?」
そう言って担任女教師の後から入ってきたのは一人の女子生徒だった。髪はセミロング、猫顔に可愛いタレ目がチャームポイント、その女子生徒は書也の記憶で何処か見覚えがあった。
「まだ出席をとってないが、入学早々、時間ギリギリか……毎日のギリギリ登校はやめろよ」
女教師の狐顔の狐目が見開き、チベットスナギツネのような眼で遅刻ギリギリの猫顔女子生徒を凝視した。
「す、すいません!?」
猫顔女子生徒は会釈し、慌てて空いている席に座る。
「そこは休みの人の席だな。誤植(ごしょく)はそこのウルフカットのやんちゃなボーイの隣の席な」
ウルフカットのやんちゃボーイとは書也の事を指して言っているのだろう。書也は漫画やアニメの影響で、ウルフカットという狼の鬣のような髪型にしていた。この学校では校則的に髪型の制限はないし、もちろん髪を伸ばしてもOKである。
「は、はい!? すいません!?」
誤植と呼ばれた女子生徒はまた会釈し、今度は書也の席に座った。隣の席を見ると、誤植愛誤植愛と書かれた名札が貼り付けられていた。
「やっと会えたな。愛」
その書也の言葉に愛は満面な笑みを浮かべる。
「うん、ようこそ現代国語学院に書也君」
下の名前で呼び合う仲に友春が思わず目を丸くし、書也と愛を見比べる。
「下の名前で呼び合うっておい……まさか!? こいつがこの学校に招待した女だって言うのか!?」
「なんだよ友春、下の名前でなら、お前とも呼び合っているだろ」
その言葉に愛は頬を赤くする。
「誤植っていう苗字があまり好きじゃなくてね。実際に文字だと本当に噛みまみただから、誤植じゃなくて、愛って呼んで欲しいんだよ。それに書也君は友達とも、下の名前で呼び合っているって聞いたから」
「かみまみたって、何だ?」
友春が首を傾げる。
「ラノベの化物語の台詞だよ。真宵だったよな?」
「そう、真宵ちゃん可愛いよね」
「……だから部活動を三年間続ける事で内申点を上げ、進学就職にも影響ある訳で……聞いてるかそこの三人組?」
喋っている書也達に気付き、担任女教師はチベットスナギツネのような瞳で視線を向ける。
「はい~聞いてます教子先生」
先ほどとは違い、愛が笑顔で答える。
――そういえば、担任女教師はなぜ出席をとる前に愛の苗字を知っていたのだろう? それどころか、自己紹介もしていないのに愛は下の名前で教子先生と呼んでいた。
書也が不思議そうな顔をして愛と教子先生を見比べる。すると、教子先生はしまったという顔をして、デスクに戻り、引き出しから出席簿を取り出した。
「私としたことが……出席をとり忘れていたな。知っての通り、この学院では初等部や中等部で顔なじみの者もいると思うが……一年の日本文学科を担任となった現語教子だ。分からない事があったら何でも聞け。それじゃあ、出席をとる……相沢……」
それから放課後になり、書也と愛は担任の教子に残るように言われていた。教室にはほとんどの生徒が帰り始めていた。
「おい……まさか一緒に喋っていたせいで、説教とか?」
書也は青ざめた表情をし、愛を見る。
「そうじゃないと思うよ。だってそしたら、友春君も呼ばれると思うし……もしかしてあれの事じゃないかな?」
「あれの事?」
書也はあれの事が思い当たらずに首を傾げる。
「君、暇? 良かったら野球部のマネージャー、やらない?」
友春がニヤニヤとしながら笑みを浮かべ、愛に話しかける。
「お前は呼ばれてないだろ。帰れよ!」
不機嫌そうな顔をして言う書也に友春の笑顔が馬鹿にしたような笑みに変わる。
「だったらお前も野球部に入れば良いじゃん。そしたら俺と三人で……」
「友春君、ごめんね。私、もう決めてる部活があるんだよ」
「そんなこと言わずにさ」
友春が書也と愛の肩を掴む。
「おい、友春! 俺達は……」
その時だった。引き戸が開くガラガラという音がしたかと思えば、教子先生が入ってきて、その糸目が少し見開いて、友春を睨んだ。
「まだ残っているのか! 呼んでない奴は早く帰れ!」
「ご、ごめんなさい!?」
友春が鬼にでも出くわしたかのように慌てて、教室を出ていった。
「まさか野球部の勧誘が入るとはな……」
溜息をつく教子先生に愛は笑顔を向けた。
「断ったので大丈夫ですよ。書也君もその気はないみたいですし」
「話が見えないんだけどさ……」
書也は頭を掻き、どういった事かと愛を見る。
「誤植から話は聞いているだろ? 誤植が中等部の頃から、高等部の部活動に入りたい入りたいと、せがんできてな。体験入部なら初日でも大丈夫だが……お前はどうする語部?」
「あ……俺、ライトノベル専門の文芸部があるって、SNSで愛から聞いていて、ずっと入りたいと思っていたんです! 見学できますか?」
「まあ、文芸部という名前ではないが、この学校に似つかわしくない部活、ライトノベル研究部だ。通称、ラノケンだ。入部したいなら、来い」
「まさかラノケンの顧問の先生って……」
教子先生の糸目が見開き、チベットスナギツネのような瞳で書也を見た。
「……私だ」