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ありがとうイタリアさん
8月29日
みんなとは仲良くなれた。
イタリアさんが、わたしたちを慰めてくれた。
少し元気になった。
8月30日
兄上はまだ夜になると声を殺して泣いている。
最近は兄上が、
「一人でいい、」
と言うので、
イタリアさんと寝ることが多くなった。
隣の部屋から、殺しきれていない兄上の嗚咽が聞こえてくる。
そんな時よくイタリアさんが星について教えてくれた。
たまに、イタリアさんは西の方を真っ黒な目で見ていた。
――とても年上に見えた。
いつのまにか涙が出ていた。
8月31日
今日忙しかった。
9月1日
みんなのことがわかってきた。
西ドイツさんは、丁寧で、でもすこしよそよそしかった。
東ドイツさんは逆に、よく話しかけてくれたけど、たまに怖い夢を見るらしく、夜中に泣き叫ぶこともあった。
いつも、ソビエト連邦さんに叩かれて傷だらけだったけど、優しかった。
9月2日
兄上が最近、よく絵を描くようになった。
父上とわたしたちの絵。
パラオさんと一緒に笑っている絵。
そして、焼けた家の前で、立ち尽くす絵。
「描かないと、忘れてしまいそうだからさ。」
兄上はそう言った。
イタリアさんは日記を書いている。
兄上と同じ理由。
私は絵が描けないから
粘土を掘って日記を書くことにした。日記帳は持ってなかった。
9月3日
今日の夜、イタリアさんが日記を書きながら静かに泣いていた。
わたしが、
「どうしたの?」
と聞くと、イタリアさんは、
「家族に会いたいな、って。ちょっとね。」
と答えた。
町内会のおばさんの話を思い出した。
「お腹が空いたからって泣いてちゃいけません!兄弟がいない子だっているんですから!
もっと辛い思いをしている子がたくさんいるのに…泣き虫ねぇ全く…
欲しがりません、勝つまでは。よ!」
東ドイツさんと西ドイツさんは兄弟。
わたしにも兄上がいる。
でもイタリアさんは――
――ひとりだ。辛くて苦しいはずなのに。
自分も泣きたいはずなのに。
これまで――
涙ひとつ見せず、笑顔で私たちを慰めてくれた。
年上で何が起こったかわかる分怖いのに、
ありがとうイタリアさん。いつか必ず恩を返します。
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