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静けさが戻った奴良組の座敷。若菜の膝に頭を預けたまま、レンはまだ赤く潤んだ瞳を閉じていた。
牛頭丸と馬頭丸は気まずそうに立ち尽くしている。
――その時。
「……レン」
障子の向こうから、少年の声が響いた。
リクオだ。
「っ……!」
レンの体がぴくりと震える。慌てて涙の跡を袖で拭うが、隠しきれない。
「リクオ、今は……」
牛頭丸が言いかけたが、リクオは静かに首を振った。
「少しだけ、話したい」
若菜はレンをそっと見つめる。
「大丈夫?」と視線で問いかけると、レンは唇を噛みしめて小さく頷いた。
障子が開き、リクオがゆっくりと入ってくる。
彼の眼差しは真っ直ぐで、けれどどこか不器用な優しさを帯びていた。
「……その、さっきから聞こえてた。泣いてたんだろ」
「ち、違っ……!」
反射的に声を荒げるレン。しかし震えた声では説得力もなく、牛頭丸と馬頭丸が視線を逸らす。
リクオは苦笑した。
「無理に隠さなくていい。俺だって……泣きたい時はあるし」
「……っ」
レンは言葉を失う。
沈黙が流れる中、リクオが一歩踏み出す。
「俺、本当は……ずっと仲良くしたいと思ってる。姉さんだから」
その言葉にレンの胸が大きく揺れる。
けれどすぐに顔を背け、震える声で吐き捨てた。
「……うるさい。勝手に弟ぶらないで」
強がりの言葉に、若菜は心配そうに見守る。
しかしリクオは動じず、ただ柔らかく微笑んだ。
「……そっか。でも、俺は諦めないから」
その一言に、レンの心臓が跳ねた。
(なんで……そんな顔で言うのよ……)
胸の奥が熱くなるのを必死に抑え、レンは視線を落とした。
「……勝手にすれば」
それ以上は何も言えなかった。
けれどリクオの言葉は、確かにレンの心に届いていた。