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夕方のシェアハウス。
ダイニングでは、流星と謙杜がテレビゲームで盛り上がり、恭平と駿佑はお菓子を争ってじゃれ合っている。
そんな中、大橋和也は静かにキッチンで紅茶を淹れていた。
流星:「大橋くん、優しすぎ〜」
大吾:「ほんま、結婚したら奥さん幸せやで!」
そんなことを言われるのは、もう何度目だろう。
“優しい”“気がきく”“怒らない”
それが、自分のキャラになっていた。
和也:(……でも、“恋”ってなんやろ)
リビングのソファでは、丈一郎と真理亜が楽しげに話している。
その横では、駿佑が謙杜に「あいつ絶対真理亜のこと好きやって」と小声で耳打ちしていた。
駿佑:「恋って、なんか……自然に“会いたくなる”とか、“その人のために頑張れる”って気持ちなんやろ?」
駿佑の言葉に、謙杜が「そーそー!」と頷く。
和也は、自分の心の中に問いかける。
和也:(俺、それ……感じたことないかも)
部屋に戻り、スマホを開くと、学校のグループLINEにある通知が溜まっていた。
【和也って福地桃子さんと付き合ってるってホンマ?】
【放課後、二人で一緒に下校してたって見た人いる】
【めっちゃお似合いじゃない?】
和也:(……またか)
和也は、ため息をついた。
福地桃子さん――同じクラスの女子。
たまたま雨の日に傘を貸して、相談を聞いてあげたら、それだけで“噂の彼氏”になっていた。
しかもその子から、最近明らかに特別な視線を向けられるようになっていた。
和也:(……あの子、俺のこと好きなんかな?でも俺、“その気持ち”に応えられるんかな)
いつもなら、ニコニコしていられるのに。
最近、そういう“想われること”が、少し怖く感じる。
次の日、放課後の下駄箱前。
福地桃子さんが、和也を待っていた。
福地桃子(以下桃子):「あの……和也くんって、今好きな人とかいるの?」
和也は、笑顔を浮かべながら答えた。
和也:「……ごめん、正直に言うと、俺……“好き”って気持ちが、よくわからへんねん」
沈黙が流れた。
福地桃子さんは、笑って「そっか」と言ったが、
その目は、少しだけ寂しそうだった。
その夜。
シェアハウスの屋上で、和也はひとり空を見上げていた。
和也:「俺、誰にでも優しいって言われるけど……ほんまは、“誰か一人を特別に想う”ってことが、できひんのかもしれん」
その声を背中から聞いたのは――大吾だった。
大吾:「……それ、悪いことやと思ってるん?」
和也が驚いて振り返る。
和也:「大ちゃん……お前、いつの間に……」
大吾:「今の話、ちょっとだけ聞こえた。でもな、“わからない”ってこと、ちゃんと向き合ってるお前は、偽ってへんやん。それに、誰にも優しいって、すごいことやで。“恋がわからへんから、優しさが嘘になる”なんて思わんでええと思う」
和也は、小さく笑った。
和也:「……ありがとう。なんか今日、誰かにそう言ってほしかったんかもな」
優しいだけじゃない自分。
“恋がわからない”自分。
それでも誰かと繋がっていたいと思う気持ちが、
今、ようやく小さな声を上げ始めた。