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#大人恋愛
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「はああーーーー!もう!もうほんと、俺、我慢できない」
「うん……私も」
「なにあれ?」
「なんだろね……」
朝から息を荒くして、頬を染め、八村と蘭は二人で一方を見つめていた。
「ねえー。どうしてこんなにすべすべなの〜?」
「そんな、先輩の方がすべすべなんじゃないですか?ツヤツヤ?プルプル?」
「ええ〜?あたしのは、こんなにプニプニでフワフワじゃないよぉ〜」
そう言いながら、キラッキラのドロップのようなネイルをした細い指が、リュウジのほっぺをつついていた。
「うーん……」
リュウジは一度目をつぶって、深呼吸した。そして、「はあああ〜」っと深いため息をついてから、サンゴの方を見た。
「サン先輩ね〜、一度、俺のほっぺ触れたからって、そう何度も簡単に触っていいもんじゃないですよ?」
その表情が、いつもの可愛らしいリュウジとは違っていて、なんだか驚いてしまう。
「ごめん!!ごめんね!!セクハラだったよね?もう2度としないから!」
サンゴは驚いて、手を引っ込めて、リュウジに向かって頭を下げた。
「そんな。俺に対してのサン先輩がセクハラになるわけないですけど、今、仕事中なんだから、真面目に仕事しなきゃですよ!」
「あは、そっか!!てへっ」
笑顔のサンゴが古めかしい表情で舌を出すと、リュウジはため息をついた。
「ほら〜、この計算のとこ〜、先輩のやつ間違ってますよぉ」
「ウッソ。どれ?ごめん!!税率のやつ?」
「もお〜気をつけてくださいよぉ」
「すぐやり直すね!!」
午前9時から、アホ全開でいちゃついているサンゴとリュウジを見て、八村はすでにサンゴに殴り込みに行きそうなくらい、息を荒げて腕を振り翳していた。
二人が席について集中し始めたことまで見届けた彼は、キーボードを叩き続けながらため息をついた。
「マジで……最近の有村やりすぎ。ちゃんとリュウきゅんが仕事に戻してくれてよかった……」
「八村もリュウきゅんって呼ぶことにしたの?」
「うん」
「こわ」
「だって、なんかあいつ可愛いんだもん。二人が言ってた意味が、よくわかった」
「ふふふ」
意外と真面目な八村は、仕事してない人を見ると、睨みつけたり怒鳴り込みに行ったりするタイプなので、蘭は内心ヒヤヒヤしていた。それを、リュウジしっかり、収めてくれて助かった。
「にしても、ちょっと、あんなことされて、ため息つきたくなる気持ちもわかる……」
「何それ?」
「……二人の艶っぽい感じが……いや、男の話」
「……」
(言わなくてもわかるけどね………またさらに二人の距離が近づいて見えるよね……)
もしかして自分が聞いていないだけで、もしかして、この土日で付き合い出したのかな?とか、などなど、妄想が膨らんでしまう。あんな真剣に見つめながら、ほっぺまで触っちゃって……。そんな風に思いながらも、蘭は二人を遠目から眺めていた。
結局、昼過ぎもデスクでおにぎりやパンをかじりながら、コンペの準備につきっきりだった。もちろん、今日の分のメロンパンも買ってあげていた。二人は何度も資料を見直しながら、企画や進行の確認をしていた。
「リュウくん、店舗状況とか、ポップとか、ちょっとデザインさんとの打ち合わせとかも、一旦スケジュール確認しなきゃね」
「確認します!」
「あたしね、ここのところも工場長と一度確認の打ち合わせ必要だと思ってて……」
「俺が行きます」
「私も気になるから一緒にアポ取ろうか?」
「そこまで付き合わせちゃっていいんですか?」
「もちろん!」
「サン先輩!!!本当にありがとうございます!」
サンゴは投影する資料送ってもらって、そのチェックもしていた。
「リュウくんさ、このパワポの構成なんだけど、まず一発目でドーンと目を引かないと」
「そうなんですけどぉ」
「フォントもビジュも、もっとギュイーンって!!エモい感じに盛らないと……目を引けないと思う」
「うーん、何がいいかな……」
リュウジは空を見つめながら、ポンと手を叩いた。
「あ、サン先輩たちが前作ったって言ってた、HPの特集ページ、参考にしていいですか?」
「ああ!あれちゃんとグラフィックデザイナーさんにも入ってもらってるし、使えると思う!!」
二人で肩を並べていたはずなのに、急にリュウジはぐいっと近づいてきて、サンゴのパソコンのマウスを動かし始める。
(私のところで見るの……?)
自分の肩に覆い被さる勢いで近づいてくるリュウジから、サンゴは少しだけ身体を避けてみた。
(またセクハラみたいになったらいけないしね……)
「本当だ!フォントも、展開もこっちが見やすいですね」
「うん!いいよね……あとは、この工場さんのところも一番大事だから」
「このHPの写真、めっちゃわかりやすいですね!これ使っていいですか?」
リュウジはハッとした表情の後に、本当に嬉しそうな笑顔でこちらを見てきた。
「うん!見やすいかも!!写真家さんのじゃないから使えるはず!一応確認するね!」
「お願いします」
とろけるような愛らしい笑顔の彼を見つめながら、内心少し驚いていた。資料作りや企画を誰かとしている場合、反発したり、気まずくなるようなことも大いにあるのに。
ずっとやりたいと思っていた企画を、サクサク、かつ、丁寧に資料と構成を作り上げていく。この感じは、たまらなく楽しかった。反発しそうなところも、しっかり話し合えたり、お互いにアイディアを出し合えたり。仕事なのに、こんな時間があるなんて、サンゴはリュウジに感謝の気持ちでいっぱいだった。
サンゴが手取り足取り、リュウジに付き添っている様子はフロアの全員の注目の的だった。
「やってるなあ」
二人の様子を見ながら、八村と企画部の部長が並んで歩いて蘭の席の方まで来た。
「部長はもう内容ご存知なんですよね?」
「ああ、来年の夏には、まずはイベントや、新商品から実現できるように企画もしてる」
「実際に、動いてるんですか?」
蘭はリュウジとサンゴの広報イベント企画を超えた部長の話を聞いて、心が躍っていた。
「きっと、将来的には、八村と峰津の方のいる、二部と連動してもらうことになるかもしれないから、よろしくな」
「もちろんです!嬉しいです!!それがなくても、コンペは参加希望要請、出してます」
「お前ら本当仲良いもんな」
「部長もコンペは見に行かれるんですか?」
その言葉に、部長は罰が悪そうに一瞬、八村の方を見て俯いた。
「まあ、日が合えば行けるかな……」
「そう、ですか……」
何か意味ありげな様子を見て、蘭もそれ以上聞こうとは思わなかった。
コメント
1件
ああ、この第6話、すごくいいですね。サンゴとリュウジの“仕事中なのに無意識に距離が近い”感じが絶妙で、読んでてこっちが照れます。八村の「リュウきゅん」呼びに走った流れも笑ったし、蘭の視線がカメラみたいに機能してて、読者が自然とその場に立ち会える構造になってるのが好きです。あと、ラストの部長の「日が合えば」の濁し方、これは絶対何かあるやつですよね。ここからどう動くのか、すごく気になります。