<朝霧side>
「はあ」
帰宅して、ソファへ倒れ込んだ。
体勢を変え、うつ伏せから、あお向けになる。
あんな顔、反則だろ。
芽衣さんの上目遣いが堪らなく可愛かった。
狙ってやっているわけじゃないから、それもまた困る。他の男にあんな顔、しないでほしい。
今は猫カフェにいるモカちゃんもライバルかもしれない。
ネコ相手にそんなことを考えてしまうのは、相当自分はおかしい。いや、変態だ。
はじめて芽衣さんを意識したのは、ほんの些細なことだった。
芽衣さんが俺が知っている小説を読んでいたから、話が合うんだろうなくらいに思っていたら、ネコに見せる笑顔が可愛くて。
普段は真面目そうに表情一つ変えず本を読んでいるのに、ネコが寄っていくと嬉しそうに微笑む。
それに、芽衣さんのことを素敵な人だと思ったキッカケの事件の時も、俺がもっと早く仲裁に入ればと後悔した。
彼女は震えていたのに気丈な態度で、それに、自分がケガをしたかもしれないのにネコをかばっていた。
あの状況で咄嗟に反応したのだから、強い人なんだとあの時は思った。
彼女が自分と同じ会社の人間だと知った時は、運命なんじゃないかと勝手に感じて。
一人で喜んでいたけれど、会社の彼女は、俺の知っている強い人じゃなく、何かを抱えていそうだった。
彼女のことを知りたくて、正式に部長になる前からアピールをしてしまった。
自分から女性を誘うのは初めてで、ストレートすぎて、引かれたかと思ったけれど、今はなんとか心を開いてくれているみたいで嬉しい。
彼女の過去を聞いて、自分が守ってあげたいと心から思う。
ゆっくりで良いから、彼女が信用してくれるような男になりたいと気持ちに余裕を持たせるようにしていたけれど……。
今日のはダメだ、可愛すぎて。
理性を保つのが精一杯だ。
あの場で、本能のまま押し倒してしまったら、生まれた信用もなくなってしまう。
俺のことを怖がったり、嫌がったりしている風ではなかったけど、大丈夫だっただろうか。
思わず抱きしめてしまった。
スマホを手に取り
<お疲れ様です。今日の夕ご飯も美味しかったです。ありがとうございました。ゆっくり休んでください>
メッセージを彼女に送る。
返信、来るだろうか。
芽衣さんだって戸惑っているかもしれない。
距離を急に縮めすぎたか?
とりあえず、スーツくらい脱ぐか。
立ち上がり、帰宅後のルーティーンをしている時、ピコンとスマホが鳴った。
メッセージを確認すると
<お疲れ様です。こちらこそありがとうございました。部長もゆっくり休んでください>
芽衣さんがいつものように返信をくれた。
良かった、嫌われていないみたいだ。
ホッとする。
最初はスタンプだけの返事だったから、少しは進展したんだろうか。
それにしても、社内で芽衣さんの虐めが酷すぎる。
あまり俺が手を出し過ぎると、また対象になるだろう。どうしたものか。
とりあえず、今日ウソの申告をして芽衣さんに残業を押し付けた奴は、明日呼び出して指導するか。
本当は、もっとコミュニケーションが上手な子だったかもしれないのに。幼少期からのトラウマはそう簡単に消えるものではない。
だけど、彼女は変わろうとしている。
それが伝わってくるから、余計に愛おしく、応援したくなるんだ。
それに、気になることがある。
彼女ともっと仲良くなれたら、教えてくれるだろうか?