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ニソシ
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一本目 >> 椿
※ 2000字超え
𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧
大阪の商店街から路地に入ってすぐの所に、
【Mors】という
ひっそりとした花屋がある。
看板は木製で、文字が少し色褪せている。
店先には季節に合った花が控えめに並び、
派手な宣伝は一切ない。
それでも、近所の常連がぽつぽつと訪れる、
静かな店だった。
店主の名前は、立花咲斗。
二十歳を少し過ぎたくらいの、細身の男だ。
黒髪を軽く後ろに流し、
白いシャツにエプロンを着けている。
笑うと目尻が優しく下がり、
声は低くて柔らかい。
老若男女、全ての客層から評判であった。
𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧
私はその店に、週に一度通っていた。
名前は美咲。
三十二歳、広告会社で働くごく普通のOLだ。
部屋に花を飾るのが唯一の楽しみで、
その日も仕事帰りに花屋に寄った。
店内には、赤い椿がいくつか活けられていた。
艶やかな葉に鮮やかな赤色の花弁が映える。
まだ蕾のものもあれば、満開に近いものもあった。
「いらっしゃいませ。」
「お疲れ様です、美咲さん。」
立花さんがカウンターから微笑みかけてきた。
その笑顔は本当に優しい。
疲れた心をそっと包み込んでくれる様だ。
『こんばんは、立花さん。』
『今日も上司にこっ酷く叱られて…』
『立花さんはいつも穏やかですよね、
秘訣とかあったりするんですか?』
「花の世話をしていると、自然と落ち着くんですよ。」
「特に、この椿とか。」
立花さんは、一輪の赤い椿を手に取った。
「椿って、面白いんです。」
花首の辺りを指で軽く触れながら、
静かに話を続ける。
「他の花、例えば桜は花びらがはらはらと散るでしょ?」
「でも椿は、花がまるごと落ちるんです。」
「首から ぽとん、 って。」
「まだ綺麗なまま、地面に落ちる。」
「…潔く人生を終えるみたいで、興味深いなって思いませんか?」
私は少し首を傾げつつ言葉を紡いだ。
『…そうなんですね、』
『なんか、ドラマチックですね。』
『 首が落ちる みたいって、ちょっと不吉なイメージもありますけど…』
立花さんはふっと微笑んだ。
「不吉、ですか。」
「でも僕は好きなんです。この落ち方。」
「静かで、美しくて。」
「美咲さんみたいな芯の強い女性には、こういう散り方が似合う気がします。」
そう言って、彼は椿をラッピングしてくれた。
「今日は特別にサービスです。」
「部屋に飾って、ゆっくりお休みになられて下さいね。」
私は礼を言って受け取り、店を出た。
立花さんの笑顔が、なぜか少し頭に残った。
普段と同じ筈なのに、どこか遠い目をしている気がした。
𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧
あれから数日後
私、紫崎陽菜は、
会社に出かける準備を済ませ、
ぼーっとニュース番組を視聴していた。
そこでパッと目に入ったニュースに、
私は驚きと動揺が隠せなかった。
【 ××町のマンションで女性が転落死 】
被害者は、私の行きつけの花屋で
何度か見かけた常連さん。
名前は確か__
椿野美咲
彼女は高層マンションのベランダから転落死したらしい。
遺体は仰向けに、首の骨を折って発見された。
不思議なことに、部屋のテーブルには、
真っ赤な椿の花が一輪、綺麗に落ちていた。
花首からぽとりと、首が落ちたように。
𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧
【 ××町のマンションで女性が転落死 】
店内のテレビでこんなニュースが流れた。
立花はカウンターの奥で、
一輪の椿を手に静かに立っていた。
緑の葉だけになった枝を優しく撫でながら、
小さな声で呟いた。
「…静かに、美しく散る。」
「お似合いだ、すごく。」
唇が、柔らかく弧を描いた。
「次は、どんな花が似合うかな。」
𖤣𖥧𖡼.𖤣𖥧
二本目 >> 桜
コメント
8件
面白いは面白いんだけど まず初めに驚いたよね はっちが ・創作の名前を使い始めたこと ・私に関係することが出てきたこと 2つ目は在り来りなことだけどまじでびっくりした見透かされてんのかと思った
わ、なんか小説読んだみたい 桜も楽しみです🫶🎶
椿(ツバキ)の散り方 ・咲き終わった花が、そのままの形を保ったまま、重みで地面に落ちる。 ・桜のように花びらが風に舞って散る華やかさではなく、少し潔く、突然、劇的に落ちる。 ・武士の時代には「首が落ちるようで縁起が悪い」と敬遠されたり、垣根に植えて防犯に使われたりしたエピソードも存在する。