話すことない
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朝の光が、木々のあいだからこぼれ落ちていた。
その温度はまだ冷たく、春には少し遠い。
草をかきわける足音がふたつ。
先に進むのは、裸足の少女・佐々木茜花。
その後ろには、彼女とは対照的な黒髪の妖精、暗夜星夜の姿があった。
「たぶん、あの辺り……だったと思うんだよね」
「誰がいるって言ったの?」
「えっとね……夢に出てきたの!」
星夜は無言で眉をひそめた。
茜花の“夢”は、たいていが突拍子もないのだ。だが、その中にだけ、真実が混ざるときがある。
ふと、木立の先――風の吹き抜ける空間に、人影が見えた。
「……!」
黒と紫の布をまとった少女がひとり、石の円に立っていた。
その隣には、絵本から飛び出したような衣装の少女が、こちらを見て微笑んでいる。
「久しぶりね」
そう言ったのは、遠形みわこだった。
「……星夜」
「茜花!」
風が止まり、空気が張りつめる。
かつて敵同士だった者たちが、ひとところに集まる。
それは、運命の糸がふたたび結ばれる瞬間だった。
「……なんで、ふたりが一緒に?」
星夜の問いに、めののがにこっと笑って答えた。
「神様たち、いなくなっちゃったでしょ? だったら、手を組むしかないかなって」
茜花は、ぽかんと口を開けたあと――ぱっと笑顔を咲かせた。
「なんだ〜!そういうことなら、大歓迎っ!」
「……軽いな」
星夜が呆れたように言う。けれど、どこかその声は柔らかかった。
4人の間に流れる、微妙な緊張と、少しだけの懐かしさ。
それは、まるで長い夢の終わりにようやく訪れた朝の気配のようだった。
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その日、彼女たちは知らなかった。
この再会が、世界を揺るがす**“神話の書き換え”**へと続く最初の一歩になることを。
そして、空の神と、海の神。
失われたはずの神々の意志が、
いまも静かに、彼女たちの背後で目を覚ましつつあることも。
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