テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
サジェードの元にこれ以上いても成果は得られなさそうだったので、私とイルドラ殿下は屋敷の中を見て回っていた。
ここにメルーナ嬢がいるかどうかは、まだわからない。騎士達曰く、屋敷の部屋は全て見て回ったが、見つからなかったそうだ。
もしかしたら、仮にサジェードが首謀者だとしても、彼女はここにはいないのかもしれない。屋敷に隠すのを危険だと思って、どこか別の場所に連れて行っている可能性はある。
「あれ? ウォーラン殿下?」
「うん? あいつは何をしているんだ?」
そこで私とイルドラ殿下は、ウォーラン殿下を見つけた。
彼は、屋敷の壁に体を引っ付けている。その様は、少々滑稽だ。
しかし、それが何の意味もないことという訳ではないだろう。ウォーラン殿下のことだ。きっと、何か気になることでもあったのだろう。
「ウォーラン」
「兄上、それにリルティア嬢……」
「ウォーラン殿下、何をされているのですか?」
「この壁の中から、音が聞こえるような気がするのです」
「音?」
ウォーラン殿下の言葉に、私とイルドラ殿下は顔を見合わせた。
それから私達も、壁に耳をつけてみる。すると確かに、音が聞こえてきた。何かと何かが、ぶつかるような音がする。
「まさか、この壁の中に部屋が?」
「ええ、その可能性もあると思うのです……誰か、いますか?」
ウォーラン殿下は、壁を叩いて呼びかけた。
しかし、返答は特に返ってこない。仮に中に部屋があるとしても、誰もいないということだろうか。
「今からこの壁を壊します」
「え?」
「お、おい……」
「誰かいるなら、できるだけこちら側の壁から離れてください!」
ウォーラン殿下は、困惑する私とイルドラ殿下のことを気にせず、壁を殴り始めた。
壁を壊すという手段がそもそも乱暴であるし、殴った程度で壁を壊せるとも思えない。
そう思っていたのだが、私は辺りから軋むような音が聞こえてくることに気付いた。どうやらここの壁は、全体的に薄くなっているようだ。
「ウォーラン、入り口を探した方が……」
「おらぁっ!」
ウォーラン殿下が蹴りを放った瞬間、勢いよく壁が砕け散った。
それによって、その中が見えてくる。薄暗いが、私にはすぐにわかった。その中に一人の女性がいるということが。
「メルーナ嬢!」
「う、あっ……」
壁際に寄りかかって力なく座っているのは、間違いなくメルーナ嬢だった。
どうやら彼女は、かなり憔悴しているらしい。こんな所で自由を奪われていたのだから、それは当然だ。
とはいえ、彼女は確かに生きている。それは何よりも、安心できることだ。
「メルーナ嬢、大丈夫ですか?」
「リルティア様……ですか?」
「ええ、リルティアです」
私は、メルーナ嬢にゆっくりと歩み寄った。
とりあえず彼女の顔色を窺ってみる。私は医者ではないため正確なことはわからないが、それ程悪いようには見えない。
辺りを見渡してみると、皿やコップといった食器類がある。どうやら食事はきちんと与えられていたようだ。
「これは……」
そこで同時に気付いたのは、メルーナ嬢の足には足枷がつけられていることだった。
サジェードは彼女の自由を奪い、ここに監禁していた。それはなんとも、非道なる行いだ。
ただ、彼が命を奪うことを躊躇う人だったということは、不幸中の幸いだといえる。
「メルーナ嬢、無事で何よりです」
「あなたは……ウォーラン殿下。それにイルドラ殿下も」
「ああ、メルーナ嬢、大丈夫か?」
「え、ええ、一応は……」
メルーナ嬢は、二人の王子の方にも目を向けた。
突然やって来た私達に、彼女は少し混乱しているようだ。
こんな所では、外の情報なんてほとんどわからないだろう。いやもしかしたら、昼夜すらわからなかったかもしれない。
「お二人とも、辺りに鍵か何かはありませんか? この足枷を外したいのですが……」
「鍵か? 周囲には見当たらないな……」
「か、鍵なら、サジェード様が持っていると思います」
「まあ、どの道奴には話を聞かなければならないからな……まあ、奴の部屋も調べているだろうから、そこで見つかっているかもしれない」
「とにかく、人を呼んできた方が良さそうですね……」
「それなら問題はない。派手にやったからな。騎士達も騒ぎを聞きつけて、こっちに来ているだろうさ」
そこでイルドラ殿下と私は、改めてウォーラン殿下が蹴り破った壁を見た。
その壁は、すごいことになっている。ウォーラン殿下は、なんというか強引だ。
「何があったのかはよくわかりませんが……皆さんがここに来たということは、もう安心しても良いということ、ですか?」
「ええ、ご安心ください、メルーナ嬢。これ以上、サジェードの好きなようにはさせません」
「ウォーラン殿下……」
「当然、サジェードには裁きを下す。奴は往生際も悪い最低の男だ。情状酌量の余地なんてものもない」
「イルドラ殿下……」
ウォーラン殿下もイルドラ殿下も、その表情を強張らせていた。
多分、私も同じような顔をしているだろう。サジェードを許さない。私達の認識は一致している。
そんなことを考えていると、辺りに騎士達が集まって来ていた。これで本当に、一安心である。