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予想していた反応だった。
予想が当たりすぎていて、逆に怖くなるほどだった。
目の前で、アメジストの瞳を見開かせて、幽霊でも見るような目で私を見つめているブライトは頭にいくつもクエスチョンマークを浮かせており、開いた口が塞がらないと言ったようだった。やはり、彼が出した手紙ではなかったのだろうか。いや、まだ届いてその日に来たから驚いているだけかも知れない。どちらにしても、驚かれるだろうなとは大Mっていたため、私は何も言わなかった。
ブライトは、私とトワイライト、そして私達の護衛を順番に見て、そしてまた私を見た。
「エトワール様、今日はどうしていたらしたんですか?」
そう言ったブライトの声音には戸惑いが含まれていた。
彼は私の事を、エトワール様と呼ぶようになったのだけれど、それは、聖女が二人いるから区別するために私もトワイライトのこともそう呼ぶようになった。呼ばれてまだそんなに経っていないため違和感を覚える。トワイライトが現われるまでは私のことを聖女様と呼んでいたから。
そんなブライトは、やはり手紙をよこしたのではないと思われた。
彼の反応を見て私はじゃあ一体誰が私に手紙を送ったのだろうかと、そればかりが疑問で、不思議で仕方がなかった。家紋は使い回せないし、そこら辺にスタンプのようにうってもいないだろう。だったら、ブライトの家の者がよこしたのではないかと。でも、またそうしたらそんなイタズラというか何というかするのだろうか。
そんな風に考えている私をよそに、ブライトは困ったような表情を一瞬だけ浮かべると、すぐにいつもの笑みを顔に張り付けた。
「エトワール様」
「あ、えっと、ブライトがね、会いたいって手紙くれたから来たんだ。び、吃驚させちゃったかな」
と、私替え言えば、ブライトはまた目を見開いた。
そして、少し考え込むようにして黙り込んだ後、ゆっくりと首を振って違うと言う。
そうすると、ブライトは何か言おうとして口を閉ざすと、小さく息を吐いた。
「手紙ですか」
「うん、聖女殿の方にブライトから私宛に……会いたいって」
「そうですか……」
ブライトは考え込むような素振りを見せると、ちらりと私の方を見た。
違うなら違うとすぐ言えば良いのに、私も笑顔をはっつけていったんだから早く答えが欲しいと思っていると、ブライトも作ったような笑みを浮べて、そうでしたね。と、ニッコリと笑った。
「確かに出しました。エトワール様宛に。忙しくて忘れていました。今日ぐらいに届くはずだったみたいですが、まさか今日来られるとは思ってもいなくて、驚いてしまいました」
と、ブライトは言うと、私の後ろに立っているリュシオルとトワイライトの方へと視線を向けた。
リュシオルは浮かない顔をずっとしていたけれど、トワイライトは機能ぶりですねと挨拶をしていた。さすがはトワイライト。ブライトとも上手くやっているんだなあと感心してしまう。本ストーリーでは、エトワールの魔法の師匠をやっていたか定かではないし、どれぐらいの期間ブライトがエトワールに魔法を教えていたか分からないけれど、私もまずまずに使えるようになってきたわけだし、ブライトもトワイライトに教える方に力を入れるんではないかなあともふと思った。
そんなことを考えつつ、ブライトが果たして本当に手紙を書いたことを忘れただけだろうかと疑ってしまう自分がいた。
ブライトは、悪い意味ではないが隠し事の多い男だし、嘘の一つや二つ平気で会話に混ぜているような男だから、さっきの反応を見る限りどうに書いた手紙を忘れたとは思えないのだ。確かに、忙しくて、もし書類仕事とかに追われていたら何を書いたかなんて忘れてしまうだろうとも思った。だから、嘘か本当かは分からない。
私はそう、ブライトを見ていると、彼はにこりと微笑んで、客人を立たせたままではで申し訳ないと屋敷の中へ案内してくれた。
「急な訪問だったので、お茶もお菓子も良いものは用意できませんでしたが……」
と、通された客室でメイド達によって紅茶を注がれ、私はそれを一口飲むと、美味しいと一言彼に言った。ブライトはにこりと笑って私の向かい側に座ると、彼もまたカップに口を付けた。
猫舌なのか、隣でトワイライトは何度もふーふーと息を吹きかけて冷ましながら飲んでいる。
そんな姿に思わず可愛いなと思ってしまう。
私がにこにことその様子を見ていると、ブライトは私の方を見ていたようで、目が合うとニコッと笑った。
やっぱり、何かおかしい。この違和感はなんだろうか。
「ねえ、ブライト本当に私に手紙出したの?」
「はい、この間の事謝りたいと思って」
「え、いや、十分謝ってもらったし。もう星流祭の事なんて前のことだし……」
「そう、ですか」
ブライトが言う謝りたいこととは、星流祭での出来事だろう。しかし、それはこの間謝ってもらったし、まだ謝ることがあるのかと私はブライトをじっと見つめた。
すると、彼は困ったように眉を下げると、いえ、何でもありません。と言って、話題を変えた。
その様子に、私は何かを隠しているのだと確信する。
「最近やたら忙しくて、書類に追われていたりするんですよ。そんな時ふと頭にエトワール様が浮かんで会いたいと思ったんです」
「本当に?」
「僕、もしかして疑われてますか?」
と、少し悲しげに彼は眉をハの字に曲げた。私は別にそんなつもりではなかったと言って紅茶を一口飲んだ。
会いたいと思ってくれるのは嬉しいけど、私がいたら仕事が出来ないのではとも思ってしまった。
それよりも、疑われてるかと聞かれたのは機能ぶりだ。まあ、ブライトじゃないけれど、ヴィも私が何かしら警戒心、警戒していると疑われているのかと少し悲しそうに言った。疑われることは信頼されていないことと等しいから、きっといい気分にはならないのだろう。
でも、私は性格上人を疑ってしまうし、感じが悪いかも知れないけれど、自分が本気で信用出来ると思った人にしか本音は言えないタイプだと思った。それは、過去の虐めや、両親の私への対応からだ。私が大丈夫だと思って話しかけても、相手がどう捉えるかとか分からないから、分からないから怖い。
だから、本音を言えないし、相手が私のことどう思っているのかって、審査や疑ってしまう。
性格が悪いと言われれば、性格が悪い。でも防衛本能と同じなのではと私は思う。
「でも、疑われても仕方ないですよね……よく、僕言われますから。何を考えているのか分からないって」
そう、ブライトは自分で言うと、自嘲気味に笑った。
それは正しく私が思っていることと同じだった。すこし心を見透かされたような、彼も彼で自分の事を分かっているから、そしてそんな自分が嫌だとでもいうように彼は言う。
ブライトが何を考えているのかも分からないし、彼がどんな人間かも分からない。
だから、彼に対していつも私は距離というか、警戒というかしてしまうのだろう。
ブライト自身も周りからそう思われていることに気付いているのだ。何だかそう思うと、寂しい人だと思ってしまう。
「人は誰しも、他人に言えないことや悩みが多いと思います。僕もそうですし、僕の場合それが露骨にでるというか、人と話すのが苦手なわけではないんですけど……何て言えば良いんでしょうか」
「言いたくないなら言わなくても良いよ」
「すみません」
「良いの、私も人のこと言えた義理じゃないし……そっか。でも、手紙を出してくれたのがブライトだって、それが本当ならいいなって」
「どうしてですか?」
ブライトは不思議そうな顔をして私を見た。
別に、ブライトと距離をとったり警戒していたりしても、私にとって彼は魔法の師であり、会いたいとは思える人だから。本気で会いたくないのならこうしてここに来ていないだろう。
会いたいって言ってくれた相手だし。
「だって、会いたいって言ってくれたから。それが本当だったら、嬉しいなって。あ、いや、その変な意味じゃなくて、最近会えていなかったから、ほら師弟として、ね……ね」
自分で変なことを言っていた自覚はあったが、話し出すとまた変な方向に口が滑っていくものだと私は、慌てて取り繕う。だが、もう遅いのは目に見えていて、リュシオルははあ……と大きなため息をついていた。
ブライトも奇妙な目で私を見ている。
「つ、つまり、私も会いたいって思っていたの。別に用もないし、ただ少し話せたらって。だから、アンタが本当に私に会いたいって思って手紙を出してくれていたらいいなって思って。その、誰かがアンタを装って送ったんじゃなければ良いなって思って」
私は、恥ずかしくて顔が熱くなるのを感じながら、早口でまくしたてた。すると、ブライトが吹き出して笑い出した。
私はその様子に驚いていると、ブライトは申し訳なさそうに謝る。
「エトワール様があまりにも面白いことを言うので。そうですか。そう思ってくれていたんですね。てっきり嫌われていたかと思って」
「私が、アンタを!?何で?」
「星流祭のことがあったので」
ああ。と私はこぼしつつ、まああの時はお互い様だったし、大嫌いとまではなっていなかったから、現に一応攻略キャラの一人としてカウントもしているし。そんなことを思いつつ、私はブライトを見た。ひとしきり笑った後、ブライトは、少しスッキリしたような顔で私を見ると、すんだアメジストの瞳を輝かせた。
「そういえば、エトワールに渡そうと思っていたものがあって――――」
彼がそう言いかけたとき、バタンと部屋の扉が開き、バタバタとメイド達がいけませんと声をかけながらこちらに向かってくる小さな影を追いかけていた。
「聖女さまがきてたって、聞いて」
と、メイド達の制止を振り切ってこちらに向かってきたのは、ブライトの弟ファウダーだった。