テディ 虫さん退治
今日はグループで主について話す日であるため、別邸の3人はいつもより早めに食堂に集まっていた。
テディはハウレスに付き纏い、部屋を見せて貰う約束を取り付けてご機嫌である。
「今日は朝からラッキー!」
嬉しそうにハウレスの後を追い、2階に上がっていった。
しかし、そんなラッキーな時間はベリアンの悲鳴によって終わりを告げた。
朝食の準備がもうすぐできるという頃、ベリアンはトリコを起こしに行った。
いつものようにノックをして部屋に入り、トリコに優しく声を掛ける。
「おはようございます、主様」
しかし、割とすぐに起きるはずのトリコは何の反応も示さない。
嫌な予感がして布団をめくってみると、何かの幼虫のような気持ち悪い虫が、トリコの顔から足先まで這い回っている。
トリコは具合が悪いのかぐったりして気持ち悪そうに身動ぎしている。
「っっ!!!」
あまりの衝撃に声も出せず、ベリアンはそのまま固まってしまう。
そんなベリアンの手に布団をよじ登ってきた虫が乗ってきた。
ムシ「♡」
「嫌あああああぁぁぁぁぁあああっっっ!!!!!!」
ベリアンの悲鳴を聞いたテディとハウレスはすぐに主の部屋に駆けつけた。
「あ゛あ゛あ゛ああああぁぁぁっっ!!」
泣きじゃくりながら虫を振り落としたベリアンがテディに飛びつき、わんわんと泣き始める。
「べ、ベリアンさん!?」
「!これって、一昨日のあの虫か!?」
ハウレスは素早くトリコ用のオセワッチを取りに行き、ファクトリーAIに症状を伝え殺虫剤を依頼する。
「ベリアンさん、すぐファクトリーAIが薬を作ってくれる筈ですから、落ち着いてください!」
「うあ゛あ゛あぁぁ、も゛ゔごのおべやはいれな゛いでずぅっ、うぇっ、げほっ」
しかし、パニック状態のベリアンはテディに抱きついたまま「もうこの部屋に入れない」と必死に訴えている。
確かにトラウマになるかもしれない。
「分かりました、この部屋用の殺虫剤も作ってもらいましょう・・・」
ハウレスはもう一度ファクトリーAIに連絡を入れた。
「ベリアンさん、大丈夫ですよ、ね?
・・・あれ、肩に何か・・・」
ベリアンを慰めていたテディはベリアンの肩に何かが付いているのを見つけた。
「・・・?」
ムシ「・・・♡」
ベリアンが肩の辺りを恐る恐る見ると、先程振り落としたはずの虫が肩に乗っていた。
「イヤアアアアァァァァァァァアアア!!!!!」
ベリアンは先程よりも甲高い悲鳴を上げ、必死に虫を振り落とそうとした。
しかし、それに怒った虫が暴れ出し、ベリアンの首に触ってしまった。
「キエエエエェェェェェェエェエエエエ!!!!!」
ベリアンはついに表現しがたい悲鳴を上げて気を失ってしまった。
「え!?ベリアンさん、大丈夫ですか!?ベリアンさん!!」
テディが必死に揺さぶってもベリアンは白目を剥いたまま意識は戻らなかった。
騒ぎを聞きつけて集まった執事達に事情を説明し、ベリアンは治療室に担ぎ込まれ、フェネスがこれでもかと体を拭き上げて消毒しておく、と世話を引き受けた。
トリコは一旦隔離しなくては屋敷中に虫が広がってしまうかも知れない、とファクトリーAIから連絡が入り、ひとまず別邸に移されることになった。
ハナマルが虫ごとトリコをシーツで包み、素早く別邸まで運んだ。
テディとユーハンはそれまでに窓や扉の隙間から虫が出ていかないように目張りをした。
ハナマルはベッドの上にトリコを包んだシーツを広げ、虫を箸で摘んで空き瓶に入れていく。
「おい、ユーハン!早く!」
「分かってます!」
ユーハンは殺虫作用のある香を焚き、虫の動きを鈍らせた。
「は、ハナマルさん、俺はどうしたら・・・」
狼狽えるテディにハナマルが次々と指示を飛ばす。
「病人用の水差しと水!それと新しいシーツも何枚か持って来い!」
「は、はい!」
テディが庭に駆け出すと、オセワッチを持たされていたユーハンが叫ぶ。
「ハナマルさん!ロボットさんがもうすぐ薬を持ってきてくれるそうです!」
「上等!!」
ハナマルはその知らせを聞き、やっと余裕のある笑みを浮かべたのだった。
ロボは大急ぎで殺虫剤を持って別邸に駆け込んだ。
「ロボットさん!お待ちしていました!」
[執事さん!このお家全体に殺虫剤を充満させるので、お外に出ていたほうが良いですよ!]
「しかし、それでは主様に万が一のことがあったらどうするのですか!?」
[大丈夫です!ロボットさんがついていますから!]
「でも、そっちの毒とかってこの世界には影響出さないんでしょ?万が一毒吸っても、耐性あるからへーきへーき」
[う〜ん・・・あまりお勧めはできませんが・・・本当に大丈夫ですか?]
「大丈夫大丈夫。ユーハンちゃんは外で待っててよ。危なくなったら呼ぶから、な?」
「・・・分かりました。何かあったらすぐに知らせてくださいね」
ハナマルとロボが別邸内でトリコに付き添い、ユーハンは入口で待機する。
ロボは部屋の中心辺りに殺虫剤を置き、その上に飛び乗った。
[本体が熱くなるので、火傷に注意してくださいね!]
「分かった」
ロボの足元から出ていた煙がぼふんと広がり、一瞬で視界が真っ白になる。
ハナマルは特に何も感じなかったが、トリコは苦しそうにもがいて倒れ込んでしまった。
ハナマルは煙を掻き分けてトリコを探し、膝の上に抱き上げた。
「よしよし、もう少し頑張ろうな・・・」
そっと汗の滲む額を拭ってやり、見える範囲の虫を払い落としてやる。
そのうちにポトポトと音を立てて虫がトリコの体から落ちていった。
しばらくすると煙が落ち着き、ハナマルの周りに虫の死骸が転がっているのが見えてきた。
「おお・・・すごい効き目だねぇ・・・」
そしてどこかに行っていたロボは黒っぽい何かを手に戻ってきた。
「・・・ちゃんとこっちの虫にも効いてるんだ・・・」
ハナマルはロボが持ってきた黒光りする虫の死骸の数々を見て、定期的に害虫駆除しないとベリアンが発狂しそうだと苦笑いした。
ファクトリーAIから換気をして良いと言われると、すぐにユーハンに窓を開けて掃除をすると伝えた。
ユーハンは大量の虫の死骸に囲まれたハナマルとトリコを見て、すぐにトリコをひったくった。
「ちょ、何すんの・・・」
「さっさと掃除してください。
こんなところに主様を置いておくわけにはいきません」
「ハナマルさん!掃除道具借りてきました!」
ユーハンはテディに柔らかな微笑みを向けて礼を言った。
「ありがとうございます、テディさん。
私は主様をお風呂に入れてきますので、ハナマルさんをお願いしますね」
「はい!」
〈ぴょん〉
テディとロボは箒を片手に掃除する気満々だ。
ハナマルはやれやれとため息を吐きながらハタキを手に取った。
その後、殺虫剤を大量生産してもらい定期的に厨房や食品庫、ベリアンの部屋、主の部屋、執事達の部屋などに定期的に散布することになった。
勿論、ベリアンは殺虫剤を散布した直後の部屋には絶対に入らないと公言している。
しかし、大嫌いな虫を見る機会が減ったベリアンは今までよりもちょっとだけ、虫が居そうな隙間や窓際の掃除もできるようになったらしい。
「虫さんの死体が残らない殺虫剤って無いのでしょうか?」
[・・・ちょっと、難しいですね・・・]
「そうですか・・・」
[虫除け程度なら・・・できるかも?]
「本当ですか!?」
ベリアンの快適な生活のための戦いは始まったばかり・・・。
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