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6 - 記憶の片隅

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2023年08月01日

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「ここは…アズベール?」

あんな町に、戻ってきてしまったのだろうか。

「…アリシール!どこだ!」

瓦礫の下を見てみてもいない。人どころか、動物や植物さえも無い。

「…ル…アリシール!」

一人の子供が歩いて来た。年は10歳前後だろうか。

「あの子供…」

その子の銀色の髪が、煙でぼやける。

「アリシール!…どこ…?」

その子も必死にアリシールを探している。

「私はどうすればいいの…?アリシール…!どこ…!」

今にも泣き出しそうだ。

「ああ、こいつ…」

アルレイドは全て理解した。



「アルレイドー!起きてー!」

アリシールに起こされ、アルレイドの目が覚めた。

「やっぱ夢だったかー。」

「何の事?それより…」

「どこかの町に行く方が先、だろ?」

ずっと一緒にいると、大体何を言おうとしているのかはわかる。アルレイドは森の中を見渡した。

「こんなとこからじゃ、駅もどこかわからないな。」

アルレイドは、次はこの辺で迷うのか。と思いながら言った。

「ううん!さっき駅を見つけたところ!」

先ほどまで、アリシールは一人で森を探索していた。

「マジで!?早く行こうぜ!」

アルレイドは飛び起きた。



《第六話 記憶の片隅》

「やっぱ列車っていいね!疲れないし!迷わない!」

この前魔女狩りを懲らしめた後、二人はテントを作った森に迷ってしまったのだった。

「そうだな。」

アルレイドは流れゆく車窓を眺めながらうなずいた。

「すみませーん、隣いいですか?…あれ?アリシール?」

聞き覚えのある声に、二人は声のした方を振り返った。

「やっぱり!アリシールだ!」

「セルディア!?どうしてここに?」

アリシールは目を丸くしている。セルディアは、二人の幼馴染みだ。

「いやー、まさかこんなところで会うなんて。」

セルディアは、座席に座りながら言った。

「こちらこそだよ。自分の魔法認めてもらえるまでアズベールを出ない。って言ってた本人と会うなんて、思いもしなかったぜ。」

アルレイドは皮肉に言った。

「あれ?アルレイドだったの?」

「他に誰がいるってんだよ。」

セルディアはアルレイドのことをわかっていなかったらしい。

「なーんだ。アリシールのボーイフレンドじゃないんだ。感じ変わったね、アルレイド。」

「セルディア!お前私のこと男だと思ったのかよ!」

アルレイドが叫んだ。

「ごめんごめん。」

そう言うセルディアはあまり悪そうにしていない。

「セルディア、どうしてウェストテッド行きの列車なんかに?」

アリシールは脱線した話を元に戻した。

「国から魔法使いの資格をもらったの。私の魔法を認めてもらったわけ。」

「国が…魔法を?資格?」

二人には信じ難い話だった。魔女狩りは国が推奨しているからだ。

「そ、魔法使いが差別を受けないって言われてる身分の一つだね。」

「…そうなんだ…」

二人は何とも言えない気持ちになった。

「二人はどうしてアズベールを出たの?まさか私と同じ資格をもらったとか?」

二人はしばらく黙り込み、アルレイドが口を開いた。

「二年前、争いがあったんだよ…西アズベールで。私らの町は壊滅、殺された魔法使いが沢山いる…」

空気が重苦しくなってしまった。

「セルディアのいた東アズベールが大丈夫そうで良かった。」

アリシールはそう言ってうつむいた。

「そうだったんだ…ごめんね、こんなこと聞いて。」

今でも時々アルレイドの夢に出てくるのは、争いの後の記憶だった。



「そう言えば、アルレイドって感じ変わったよね。何があったの?」

列車での長旅で眠ってしまったアルレイドを見ながら、セルディアはアリシールに訊いた。

「争いの後、私を守らなきゃって思ったんじゃないかな?元々ケンカっ早い性格だったけど、あんな話し方じゃなかったし…」

二人が最後にセルディアと会ったのは、争いの起こる一週間前。セルディアは今の二人のことをあまり知らなかった。

「一人で頑張ろうとしてるんじゃないかって、いつも心配になる。」

アリシールはうつむいていた。どちらが姉かわからないのなら、どちらも双子の姉として、お互いの事を気にかけてきたのだ。

「大変だね、色々と。ちゃんと守ってあげてね。」

セルディアにとっては他人事に過ぎない。

「でも、アルレイドの事を気にしすぎて、自分を厳かにしないでね。」

今のアリシールは、自分の事を厳かにしているのかもしれない。セルディアはそう感じたのだ。

「わかった。」

「…」

アルレイドは暗くなった車窓を眺めながら、最初から二人の話を聞いていた。アリシールが自分の事をどう思っていたのかを、今初めて知った。

「でーもー!自分の事しか考えてないバカは、もう少しアリシールの事も考えてねー!」

セルディアがアルレイドに向かって言った。

「寝てるから聞こえないでしょうけどー!」

「…絶対起きてるってわかってんな…」

アルレイドは誰にも聞こえないぐらいの声で呟いた。

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