コメント
0件
👏 最初のコメントを書いて作者に喜んでもらおう!
「ここは…アズベール?」
あんな町に、戻ってきてしまったのだろうか。
「…アリシール!どこだ!」
瓦礫の下を見てみてもいない。人どころか、動物や植物さえも無い。
「…ル…アリシール!」
一人の子供が歩いて来た。年は10歳前後だろうか。
「あの子供…」
その子の銀色の髪が、煙でぼやける。
「アリシール!…どこ…?」
その子も必死にアリシールを探している。
「私はどうすればいいの…?アリシール…!どこ…!」
今にも泣き出しそうだ。
「ああ、こいつ…」
アルレイドは全て理解した。
「アルレイドー!起きてー!」
アリシールに起こされ、アルレイドの目が覚めた。
「やっぱ夢だったかー。」
「何の事?それより…」
「どこかの町に行く方が先、だろ?」
ずっと一緒にいると、大体何を言おうとしているのかはわかる。アルレイドは森の中を見渡した。
「こんなとこからじゃ、駅もどこかわからないな。」
アルレイドは、次はこの辺で迷うのか。と思いながら言った。
「ううん!さっき駅を見つけたところ!」
先ほどまで、アリシールは一人で森を探索していた。
「マジで!?早く行こうぜ!」
アルレイドは飛び起きた。
「やっぱ列車っていいね!疲れないし!迷わない!」
この前魔女狩りを懲らしめた後、二人はテントを作った森に迷ってしまったのだった。
「そうだな。」
アルレイドは流れゆく車窓を眺めながらうなずいた。
「すみませーん、隣いいですか?…あれ?アリシール?」
聞き覚えのある声に、二人は声のした方を振り返った。
「やっぱり!アリシールだ!」
「セルディア!?どうしてここに?」
アリシールは目を丸くしている。セルディアは、二人の幼馴染みだ。
「いやー、まさかこんなところで会うなんて。」
セルディアは、座席に座りながら言った。
「こちらこそだよ。自分の魔法認めてもらえるまでアズベールを出ない。って言ってた本人と会うなんて、思いもしなかったぜ。」
アルレイドは皮肉に言った。
「あれ?アルレイドだったの?」
「他に誰がいるってんだよ。」
セルディアはアルレイドのことをわかっていなかったらしい。
「なーんだ。アリシールのボーイフレンドじゃないんだ。感じ変わったね、アルレイド。」
「セルディア!お前私のこと男だと思ったのかよ!」
アルレイドが叫んだ。
「ごめんごめん。」
そう言うセルディアはあまり悪そうにしていない。
「セルディア、どうしてウェストテッド行きの列車なんかに?」
アリシールは脱線した話を元に戻した。
「国から魔法使いの資格をもらったの。私の魔法を認めてもらったわけ。」
「国が…魔法を?資格?」
二人には信じ難い話だった。魔女狩りは国が推奨しているからだ。
「そ、魔法使いが差別を受けないって言われてる身分の一つだね。」
「…そうなんだ…」
二人は何とも言えない気持ちになった。
「二人はどうしてアズベールを出たの?まさか私と同じ資格をもらったとか?」
二人はしばらく黙り込み、アルレイドが口を開いた。
「二年前、争いがあったんだよ…西アズベールで。私らの町は壊滅、殺された魔法使いが沢山いる…」
空気が重苦しくなってしまった。
「セルディアのいた東アズベールが大丈夫そうで良かった。」
アリシールはそう言ってうつむいた。
「そうだったんだ…ごめんね、こんなこと聞いて。」
今でも時々アルレイドの夢に出てくるのは、争いの後の記憶だった。
「そう言えば、アルレイドって感じ変わったよね。何があったの?」
列車での長旅で眠ってしまったアルレイドを見ながら、セルディアはアリシールに訊いた。
「争いの後、私を守らなきゃって思ったんじゃないかな?元々ケンカっ早い性格だったけど、あんな話し方じゃなかったし…」
二人が最後にセルディアと会ったのは、争いの起こる一週間前。セルディアは今の二人のことをあまり知らなかった。
「一人で頑張ろうとしてるんじゃないかって、いつも心配になる。」
アリシールはうつむいていた。どちらが姉かわからないのなら、どちらも双子の姉として、お互いの事を気にかけてきたのだ。
「大変だね、色々と。ちゃんと守ってあげてね。」
セルディアにとっては他人事に過ぎない。
「でも、アルレイドの事を気にしすぎて、自分を厳かにしないでね。」
今のアリシールは、自分の事を厳かにしているのかもしれない。セルディアはそう感じたのだ。
「わかった。」
「…」
アルレイドは暗くなった車窓を眺めながら、最初から二人の話を聞いていた。アリシールが自分の事をどう思っていたのかを、今初めて知った。
「でーもー!自分の事しか考えてないバカは、もう少しアリシールの事も考えてねー!」
セルディアがアルレイドに向かって言った。
「寝てるから聞こえないでしょうけどー!」
「…絶対起きてるってわかってんな…」
アルレイドは誰にも聞こえないぐらいの声で呟いた。