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『西園寺、ノートに記す』

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『西園寺、ノートに記す』

3 - エピソード2:最初の喪失、茅野という実験

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2025年06月28日

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玲那が崩れたあと、ふと思い出した名前がある。

茅野瑠海(かやの・るい)


僕の記録には存在しなかった。

それなのに、今になって名前が浮かんだ。

…ということは、何かが引っかかっていたのだ。無意識の底で。


彼女は静かだった。

存在感も、影響力も、ほとんどない。

いなかったこと”にされても、不思議じゃないタイプだった。


でも――なぜか片倉結惟だけが、彼女を気にしていた。



時期は、玲那が沈むより前。

春休み明けすぐの頃。


茅野は、あの頃すでに“誰にも名前を呼ばれない生徒”になっていた。

グループにも属さず、昼食もひとり。

誰かが話しかけたかどうか、記憶すら曖昧だった。


でも、ひとつだけ明確な記憶がある。


片倉結惟が、彼女に話しかけていたのを見た。



それは昼休み、廊下の窓際。

人通りの少ない場所で、ふたりは立ち話をしていた。


けれど――会話の中身までは聞こえなかった。

僕が通りかかった瞬間、茅野がぴくりと肩を震わせて、

結惟は淡々と笑った。

その笑みが妙に不気味で、記憶に焼きついた。


それから数日後、茅野は学校に来なくなった。



最初は誰も気にしなかった。

その次は、誰も話題にしなかった。

やがて、茅野という生徒は、クラスの空気から消えていた。


だが――


《ねえ、西園寺くんって茅野さんのこと知ってる?》


《あの子、最後の週だけすごく痩せてたよね》


《ちょっと怖かったもん……笑》


玲那が沈んだあと、そんな匿名のメッセージが届いた。

宛先不明のアカウント、送信者不明。

だけど僕は確信した。

誰かが、茅野の“痕跡”をもう一度掘り起こそうとしている。


それは、観察対象002(玲那)の崩壊によって、

再び浮かび上がった“見落とされた犠牲者”だった。



【観察対象003】茅野瑠海(高2/女子)※後追い記録

状況:孤立型/存在希薄/不自然なフェードアウト

流れ:片倉結惟との接触→短期的な衝撃反応→無出席→社会的消失

介入:間接的(片倉による?)

備考:

・記録当時は“空白のまま放置”された初の対象

・玲那崩壊を契機に再構築



僕は彼女を“見逃した”。

記録にすら残さず、空気に埋もれさせた。

でもそれは、彼女が弱すぎたからではない。

むしろ、崩れ方が静かすぎて、記録できなかったのだ。


…いや、もしかしたら。

あの時点で既に、“誰か”が彼女を仕留めていたのかもしれない。


僕より先に、“空気の使い手”がいたのだとしたら。

その仮説の先に、片倉結惟という名前が立っていた。


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