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『西園寺、ノートに記す』

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『西園寺、ノートに記す』

4 - エピソード3:観察対象003、片倉結惟の仮説

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2025年06月28日

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彼女は、“空気を読む”のではなく、“空気を創る”側の人間だった。それは、玲那が沈むときに確信し、

茅野の記録を再確認したときに、仮説に変わった。


片倉結惟。

僕が最も注視している存在。

観察対象003。



彼女はいつも、“感情”のようなものが薄かった。

泣きもせず、笑いもせず、怒りもしない。

周囲の誰かが傷ついても、気づかないふり。

…だが、それはただの無関心とは違った。


「必要ない感情を排除してるように見えた」とでも言えばいいか。


人間は普通、誰かに嫌われれば傷つく。

嫌な目に遭えば防衛する。

でも、結惟は違う。


自分が嫌われても構わない、と思っている顔だった。



彼女が玲那を壊した手口は、完璧だった

 • 目立たぬ仕草で「集団の雰囲気」をコントロール

 • 直接的な攻撃は一切せず、“無視”でも“悪口”でもない

 • 空気だけで、ひとりの人間の社会的立場を削っていった


つまり、犯人不在のまま、誰かが壊れる。


その空気は、きっとあの時、茅野にも向けられていた。

けれど茅野は、“言葉にすることすらできなかった”。

気づいたときには、沈んでいた。

誰にも名前を呼ばれず、誰にも記憶されず。


…それこそが、結惟の最も“冷たく美しい技術”だった。



僕はある日の放課後、廊下で彼女を見た。

窓の外を眺めて、じっと黙っていた。


声をかけようか迷った。

けれどそのとき、彼女がポツリと呟いたのが聞こえた。


「気づくのが遅い人は、壊れるのも早い」


その言葉に、背筋が粟立った。

まるで、僕が観察していることすら知っているかのように。


僕はそっとその場を離れた。

彼女と会話を交わすのは、もう少し“観察が進んでから”にしたかった。



【観察対象003】片倉結惟(高2/女子)

状況:表面平穏/実質的空気支配者/目的不明

兆候:玲那崩壊の主犯と仮定/茅野失踪に関与濃厚

備考:

・感情反応に異常な“整合性”

・介入時期:未定(要注意)



彼女は今、どこまで“空気”を使いこなしているのか。

なぜそこまで無感情なのか。

そして、どこへ向かっているのか。


――僕は、その答えを、ゆっくりと見届けるつもりだ。


この支配者が、崩壊するそのときまで。


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