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ピンクのチューリップの家紋。

そんな家紋の家、一つしか思い浮かばなかった。


「アルベドの……?」


私がそういえば、ブライトは静かに頷いた。

聖女殿を襲撃したヘウンデウン教の教徒達が(実際何人いたかは聞くのが怖くて聞けていないが)使用していたナイフにピンク色のチューリップの家紋が彫られていたとか。その家紋というのは、アルベド・レイ、レイ公爵家のもので、私の頭の中にはあの一面チューリップ畑が浮かんでいた。

でも、主犯はアルベドだって、誰も思わなかった。


何故か――――理由は簡単だ。


「ラヴァイン……」


私は無意識のうちにその名前を口にしていた。

アルベドの弟であるラヴァイン。この間、ヘウンデウン教と繋がりがあり、しかもそこの幹部だと言うことが分かった。私を誘拐した相手。彼奴ならやりかねないと思ったし、他にも理由がある。


(もしかして、前……トワイライトの式典の夜、私の部屋のベランダに入ったのってそのためだった?)


以前、ラヴァインがそもそも誰なのかも分からず、勿論アルベドの弟だっても分からないとき、二度彼と顔を合わせた。一回目は、トワイライトと城下町に行ったとき。二回目はトワイライトの式典の夜。

その二度目の時に、ラヴァインは私の部屋のベランダに侵入した。彼は、「私に会いたかったから」という滅茶苦茶な理由をつけて、正面玄関からではなくベランダから入ってきた。あの時点で可笑しいとは思っていたのだが、私はスルーしていたし、あの時から既に聖女殿にかけられている結界魔法が弱まっていたのでは無いかと思った。そうとしか考えられない。

ラヴァインはアルベドと同じく、高い魔力を持つ公爵家の人間だ。小細工も得意そうだし、何より闇魔法の使い手。偏見になるし、あまり言いたくないのだが、闇魔法を使う以上、人が嫌がるような事が魔法でほいほい出来てしまうと言うわけだ。

幾ら、聖女殿の結界魔法が強いとは言え、その歪みを見つけて魔力を注げば、壊れてしまうだろう。傷が出来たものは脆いと言うから。

まあそれは良いとして、色んな要因も重なって今回の聖女殿襲撃に繋がったのだろう。

勿論、首謀者はラヴァインで間違いない。


「……ラヴァイン・レイ、ですか」

「ブライトも知ってるの?」


私がそう尋ねれば、彼は静かに首を縦に振った。

アルベドの素行が目立つため、あまり社交界にも顔を出さない、それこそアルベドに言われるまで存在を知らなかったラヴァインを知っていると言うことは、もしかしたら彼も有名人なのかも知れない。


(公式でそういう説明あったか覚えていない!)


心の中でそう呟きつつ、この世界ではレイ公爵家には2人の子息がいると広く知れ渡っているのかも知れない。闇魔法とはいえ公爵家だから。


「はい、レイ卿よりも大人しいと聞きますが、その実何を考えているか分からない謎に包まれている男だと」

「へ、へえ……」


確かに否定は出来ない。納得してしまった。

アルベドは貴族にあるまじき言葉遣いだし、乱暴だし、確かにあの紅蓮の髪をポニーテールにしてゆさゆさ揺れていれば目立つだろうと思った。そもそも、彼ら闇魔法の者達は社交界にも呼ばれないというのに、アルベドは広く世に知れ渡っているのだとか。

まあ変わり者だし、思想もそこら辺の闇魔法の貴族とは違うのだろう。

だが、ラヴァインの方は以外だった。


(何を考えているのか分からないってのは分かるけど、蓋を開けてみれば、慢心しているだけの子供だったけど)


自分の事は棚に上げつつ、私はラヴァインの性格を思い出して思わず溜息が出た。

大人しいように見せかけて、野心ダダ漏れにする男だった。実際の所は。


「でも、殿下から聞きました。ヘウンデウン教と繋がっていること、あの教団の幹部であること。まあ、予想はついていましたが」

「……魔力と、魔法のレベルは凄い納得というか、認めるけど、矢っ張りヤバいの?」


語彙力が無くて、大変申し訳ない聞き方をしてしまったが、ブライトは優しく微笑んでから、険しい顔で「そうですね」と言葉を句切る。


「元々、レイ公爵家は頭の良い家門でして。敵に回したくないからこそ、皆機嫌を取っていたというのもあります。闇魔法を使う家門だからという理由で、辺境の地に追いやられていましたが、彼らと敵対しようと思うものはいませんでした。僕達ブリリアント家と並ぶ、もしかしたらそれ以上に魔力を持つ家ですから」

「そうなんだ……」

「皆、秀才ばかりだと聞きます。とくに、アルベド・レイは」


と、ブライトは言った。


先ほどまで、素行が~とか悪目立ちが~とかいっていたのに、ころりと意見を変えるのだと、思いつつも、アルベドがそんなに凄い人間とは思わなかった。

それまでも、凄いというか怖い一面はあったし、色々と出来すぎているとは思ったけど、それ以上にあの口の悪さが目だって仕方がなかったのだ。


「それで、話は戻しますけど、多分今回の主犯はそのラヴァイン・レイで間違いないと思います。エトワール様も、この間誘拐されたと聞きますし」

「あ……はは」


何故それをブライトが知っているのかと、思わずリースをみた。リースは、ふいっと自分は関係無いとでもいうように視線を逸らしたが、元はと言えばリースが悪い。

悪いと断言はしないが、五〇~九〇%の確率でリースが悪いような気がした。

浮かれていた自分もいるから、リースだけに責任を押しつけるわけではないが、それでももしあの日外出なんてしなければあんなことにならなかったのだろうと今になって思う。過ぎ去ったことは仕方がない。

それに、私はもともとラヴァインに目をつけられていたのだろう。


(何で私にちょっかいをかけてくるのか分からないけど……)


私なんて、本来悪役になるはずの偽物聖女だし、ゲーム内ではヒロインは誰彼構わず引っかけて、モテモテ~みたいな描写がある為、例え、攻略キャラで無かったとしてもまず興味を持つのはトワイライトなのでは無いかと思った。

しかし、ラヴァインはトワイライトには興味を示さず私にばかりちょっかいをかけてくる。これは、自惚れというか酷い思い込みかも知れないが。

そもそも、あんな奴に好かれても嬉しくはない。


「エトワール様大丈夫ですか?」

「あ! え、あ、大丈夫! ちょっと考え事……まだ、魔力の暴走の後だし、頭が回ってないのかも」


と、私はラヴァインのことを考えて話を聞いていなかったことを誤魔化すために笑って首を横に振った。

ブライトは軽く流してくれたが、リースが睨み付けるため、今度は私が顔を逸らした。

まあ、そんなリースのことは置いておいて、いつもの事だし。と、私は片付けて、これからのことについて考えた。

ブライトは濁したが、聖女殿はそれはもう酷い事になっているだろうし、きっと明日明後日で帰れるような状態ではないのだろう。メイド達も殺されたり、怪我を負わされたりと悲惨だろうし、私のせい……もあって顔向けできない。そう思って俯いていれば、リースが口を開いた。


「エトワールは当分皇宮の方で生活してもらう」

「え……?」


リースはそう言うと、少し嬉しそうな表情を隠さずに続けた。


「聖女殿はお前の想像しているとおり悲惨な状態だからな。あれを今の状況で直せるような魔道士はいない。またいつ攻めてくるか分からない状況下にあるからな……なら、修復よりも病魚に徹した方がいいという考えだ。それに、いくらヘウンデウン教が力のある組織だとは言え、いきなり后宮を攻めてくるはず無いだろうからな」


そうリースは言い終えると、息を吸っていた。

彼の言うとおり、皇宮にいればまだ聖女殿より安心かも知れない。あそこは、私や本来はトワイライトの為に建てられた所だし、警備が薄くないとはいえ、今は私だけがあそこに住んでいた。偽物聖女だとまだ思っている人間もいるかもだから、もしかしたら警備が甘くなっていたのかも知れない。

そうだったとしたら、騎士一人一人をとっ捕まえて何をしていたんだと、傷つけられたメイドや使用人達の代わりに言ってやりたい。

そんなことを考えながら、リースの話を一通り聞き終えて、私は改めてリュシオルの様子が見に行きたいと頼んだ。彼女は今どこにいるのかと聞けば、皇宮の一室を借りて、宮廷魔道士や医者に診て貰っているらしい。


「連れて行って」

「だが、お前もまだ……」

「いいから、連れて行って……下さい。殿下」


思わず、素で喋ってしまいそうになって(といってももうバレているかもだが)言い直せば、リースは困ったとでも言うように頭をかいていた。私のことを考えて、見せたくないのかもと、リュシオルの安否がさらに気になった。生きているとはいっているけど、死んだように生きているのかも知れない。

でも、生きているのなら今すぐにでも彼女の姿をこの目で見たい。

そうして、暫くの沈黙が続いた後、リースは「分かった」といって身を翻し、ついてこいとでも言うように歩き出した。私は、ベッドからゆっくりと降りて歩き出す。その後ろをブライトがついてきた。


「エトワール様」

「何? ブライト」


歩いている最中、ブライトが話し掛けてきて、何かあるのかと、聞けば、リュシオルの様子を確認しに言った後に、伝えると、含みのある言い方をし、黙って私の後ろを歩き出した。

濁されるのは嫌だなあと思いつつ、まずはリュシオルの事。と切り替え、私は少し早歩きをする。


(……でも、会わせるかお、ないかも知れない)


歩くたび心臓がギュッと捕まれるような嫌な感覚を覚えながら、少し重い足取りになりながら、とある部屋の前までたどり着いた。


乙女ゲームの世界に召喚された悪役聖女ですが、元彼は攻略したくないので全力で逃げたいと思います

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