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#ミステリー
鬼霧宗作
202
さなめ
538
江藤ルミエール
415
一方で、先ほど動き出した兵士たちは、再び壁際に戻り、ぴたりと静止している。 まるで、何かの指令を待っているかのように。
「映画で見た殺し合いゲームは、確か孤島で行われていたけど……このゲームもそんな感じなのか」
「名古屋から山梨……その間にどこかの島に運ばれたのか?」
「おい、もしかしたら島じゃなくて……どこかの山とか?」
様々な憶測が飛び交うが、確証はどこにもない。
厚目葉月《あつめはづき》が小さく震えていた。
涙をこぼしながらも、必死に呼吸を整えようとしている。
ハルキは、彼女の背中をさすってやりたかった。
でも……できなかった。自分の体も、震えていた。
葉月が涙を見せることはほとんどなかった。
せいぜい、サークルのイベントが成功して、歓喜の涙を流した時くらいだ。
こんな苦しそうな表情は、今まで一度も見たことがなかった。
教室のあちこちで、嗚咽をこらえきれず泣き始める女子もいる。
けれど、ハルキの視界には葉月しか映らなかった。
それほどに、彼は彼女のことが好きだった。
「……さて」
静寂を破るように、男が教室の中央へと歩み出た。
ツンと上を向いた鼻で軽く笑い、ゆっくりと口を開く。
「あなたたちは映画やゲームの影響を受けすぎですよ」
不敵な笑みを浮かべながら、淡々とした声で続ける。
「いや、今の若い世代なら、映画よりショート動画ばかり好んでますよね?
タイパ重視で、長いものは見ないと聞いていますが?」
……何の話だ? と場違いな話題に、誰もが困惑する。
だが、男のその余裕のある態度こそが、教室の不安感をさらに煽っていた。
「だからといって、これはさくっと終わらせられるものじゃありません。
時間はまだありますので、焦らないでくださいね」
男が淡々と語るたびに、学生たちはじりじりと後ずさる。
その瞬間。
男は少し姿勢を正し、無表情のまま、自己紹介を始めた。
ゆっくりと胸に手を当てる。
「申し遅れました」
冷たい声が、教室に響く。
「わたくしはスダです。スダさん、とでもお呼びください。
あくまでもここでは、あなたたちはわたしの生徒、
そしてわたしは先生でありますからね」
静まり返る教室の中、スダはゆっくりと台帳を開いた。
それは、教師が持つ出席簿のようにも見えた。
「あと、皆さんの名前やプロフィール、すべてこちらで把握済みです」
その冷たい宣告に、教室の空気は一層、緊張感を増していく。
「すーべーてーです!」
なんとも誇張した言い方だったが、誰も笑わなかった。
「で……それからー」
スダが話を続けようとした、その時……。
「いやよ!」
突然、強い声が教室内に響いた。
全員の視線が、一斉に声の主へと向かう。
それは、名津祥子《なつしょうこ》だった。
彼女は震える拳を握りしめ、スダを睨みつけていた。
「わたし、このサークルで卒業旅行やめようって思ってたの」
静寂の中、その言葉だけが重く響いた。
祥子の表情は、怒りと恐怖が入り混じったようなものだった。
「こんなことになるなら……!」
彼女の声が震える。
コメント
1件
第7話、読み終えました。スダの不気味な余裕と「タイパ重視」発言の場違いさが逆に怖くて、鳥肌が立ちました…。そんな中でハルキが葉月さんの震える背中をさすりたくても体が震えて動けない描写、すごく切なくて、彼の彼女への想いがひしひしと伝わってきました。祥子さんの「いやよ!」の叫び、あの静寂に響く声が胸に刺さります。次がどうなるか、気になって仕方ないです。