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「小さな魔王と丸い悪魔」
🧣✕ショタ🌵
※この話はnmmnです。界隈のマナーやルールに則った閲覧をお願いいたします。
※nmmn以前にありとあらゆるものを捏造しているのでヤバいと思ったら逃げてください。薄目で見ていただけると幸いです。
うつつ様よりお貸しいただいた設定を元に書かせていただきました。あまりにも素晴らしい設定で本当に楽しく書かせていただきました🙏長い話になる予定です。
世界観は魔王、悪魔、魔法とかがあるご都合ファンタジーです。
1 .🌵視点
鳥の声で俺は目を覚ました。ぼやけた目でベッドのすぐ横の窓を見ると、鉄格子の隙間にとまっていた小鳥が俺の気配に気づいて飛び去っていった。
「おはようございます!」
サイドテーブルに置いたメガネを手探りで掴む。かけながらベッドから飛び起きた。今日も一日の始まりだ。
窓の下には黒々と広がる木々の頭がどこまでも続いている。遠くでキラキラ光るのは湖だ。タカに驚いて飛び立った小鳥の群れがずっと下の方に見える。俺の寝る部屋はこんな景色が一望できるところ、そう、この高い塔のてっぺんにあった。
景色を眺めていたらぐぅ、とお腹がなった。こんなことしてる場合じゃない!パジャマを脱いで、タンスから選んだ服に着替える。今日はこの黒い服にしよう。
「……この服、似合うよな、俺」
呟いたけど塔の中は静かで、誰からも返事はない。黒い長袖を着てくるっと回る小さな姿が鏡に写っている。少し袖が余っているけど、大きくなったらきっとぴったりになるんだ。だから俺は時々この服を着てみる。もしかしたら大きくなってるかもしれないから。でも今日は渋々袖をまくった。
俺の寝てる部屋はこの塔のてっぺんにあって、その下の階にリビング、もう一つ下にキッチンやお風呂がある。俺は重たい木のドアを押して部屋を出て、塔の外周に沿って作られた階段を駆け下りる。石造りの階段は冷たくて、しかも急だから危なっかしい。
キッチンの窓の鎧戸を開けるとぱっと光が差し込んで、新鮮な空気が流れ込んでくる。俺の部屋と比べると木々の頭がずっと近くに見える。
カゴの中、布に包まれたパンの塊を取り出す。茶色いパンを分厚く切って、オーブンで焦げないようにじっくり焼く。ついでにフライパンで厚く切ったベーコンも焼いて、熱々のパンにたっぷりバターを塗ったら完成だ!
トレイにパンとベーコンの皿、カゴから取ったりんごを一つ乗せて俺は1つ上の階へと向かった。リビング、ということにしている階には椅子が2つあるテーブルが備え付けられていた。俺の身長に合うように椅子の上に丸めたクッションに座って、俺は両手を合わせる。
「いただきます!」
さくりっ、いい音を立ててパンが口に収まった。たっぷりのバターが舌で溶ける。今日は週に一度の特別な日で、机においてあるハチミツをひとすくいかけた。金色の輝きがパンを滑ってベーコンにもかかる。ナイフで切ると甘じょっぱい肉の味が口いっぱいに広がって俺は思わず足をバタバタさせた。う~ん幸せだ!
幸せの味を小さい口でちょっとずつ食べながら、俺はなんとなくリビングを見回した。ぽっかり空いた俺の前の席。石造りの壁と、等間隔で開いた小さな明り取りの窓。このテーブルの横にだけ比較的大きな窓がついている。というか、窓の横になるようにこの重たい机を頑張って動かしたんだ。もう何年も前の話だけど。
その窓にも鉄の棒が縦に何本も入っている。まるで、悪いことをした人を外に出さないかのように。
「……俺ってなんなんだろう」
考えちゃいけない言葉が口から出た。俺は気がついたらこの塔にいた。知っているのは自分は「ぐちつぼ」という名前であるということ。そしてこの塔からは出てはいけないということ。
ここにいることに気づいてからもう何年経ったんだろう。昔のことを思い出そうにも、この塔で一人で目覚め、必死に生活し始めた頃からの記憶しかない。
持ってたパンからハチミツがぽたっと垂れて我に返った。お気に入りの服についちまった!?
*
急いで新しい服に着替えて、俺はやっと洗濯物を干し終わった。今日は洗濯する日のつもりじゃなかったから予定が狂っちまった。
今日は新しい本を読む予定だったんだ。俺はランプに火をともして階下の書庫に本を探しに行った。
この塔は1階には封鎖された玄関と倉庫があるけど、2階からキッチンのある階までは本がパンパンに詰まった書庫が続いている。だいたい何階分に相当するんだろうか?一生かかっても読み切れないほどの本の山は、俺にとってのよりどころだった。
下の階はすべての窓がガッチリ塞がれているし、書庫の中は本棚に塞がれていて、要するに昼間でも暗い。俺以外誰もいないってわかっていても、ランプの光を頼りに暗い塔の階段を降りていくのはちょっと怖い。
書庫の扉を開けると埃っぽい紙の匂いがした。元々図書館だったのか、よっぽど本が好きな人の家だったんだろう。置いてある本は子供向けの絵本からすごい装丁の異国語の本まで様々だ。
今日は重たいはしごをがんばって移動させて、高いところの本を探した。しばらくしてやっと面白そうな一冊を見つけた。表紙には角のある悪魔の絵が書いてある。魔導書かと思ったら歴史書だった。
お昼ご飯代わりのりんごをポケットから出して、一口かじった。俺はそのまま書庫の床に座って本を読みふけってしまった。ちゃんとリビングのソファーで読もうと思うのに、5回に1回はそのまま読んじまうんだよな。
*
ランプの光が揺らめいてはじめてこんなに時間が経ってることに気づいた。俺は慌てて本を何冊か持って書庫を出た。夜にここでランプが切れたら本当に真っ暗になってしまう。それで泣きそうになったことは一度や二度じゃない。
窓の外は夕焼け空だった。カラスの群れが鳴きながらねぐらに帰っていく。お腹も空いてきたし、俺は手早く夕飯を作って、それからお風呂に入った。
身体を拭いていたら首に痛みが走った。思わず首に手をやると、慣れ親しんだ金属の感触がした。
洗面所の鏡にも写っている。気づいたときから俺の首には金属の首輪のようなものがはまっていた。身体にぴったりサイズのそれには真っ赤な宝石がはまっていて、時々光ったりしている。
毎日本を読んでいるのはこれの謎を解くためでもある。だって、こんなに身体ピッタリのものがついてたら大人になったときに絶対困る。もしかするとこれのせいで俺は大きくなれないのかもしれない。
白いパジャマに着替えて俺は最上階の寝室に向かった。お風呂であったまった身体はフワフワして、階段を登っているうちにもウトウトしてきた。
「おやすみなさい」
ドアを閉め、俺は一日の終わりの言葉を言う。しんと静まり返った塔内からはもちろん返事はない。窓の外、深い森の中でフクロウが静かに鳴いている。
俺はいそいでベッドに潜り込んだ。毛布を引っ張って頭から被る。
時々、どうしても泣きたくなっちまう夜がある。昔読んだ絵本に書いてあった。友達。家族。好きな人。それがどれだけ暖かいか。……俺には本当にわからなかった。
やっと内容を理解できるようになったころ、そこに書いてある物語の残酷さに初めて気づいた。だから俺はそういう子供向けの本を読むのをやめて、書庫の奥に追いやった。読めば読むほど胸がチクチクして、こんなふうに涙が出てしまう。
それからは大人みたいな難しい本を読むようにした。難しい本が読めるんだから俺もきっと大人になれる。異国の言葉だって読めるようになったし、三角関数だってわかるんだ。魔力はないけど魔法のこともいっぱい勉強した。体はいつまでもちっさいままだけど頭は絶対大人に負けない。俺はとってもえらいんだ。
……でもうらやましくって仕方ない。あのときぶん投げた絵本は、主人公が友達と宝探しをする話だった。わけもわからずわんわん泣いて書庫の隅に捨てたのに、本の光景が頭から離れない。
準備だけはずっとしてきた。いつ友達が来てもいいように。自己紹介も塔の案内も全部練習してきた。でも肝心の席は空いたままで、……たまに心の穴に気づいて泣いてしまう。
涙を拭いて毛布から顔を出した瞬間、窓の外をきらめく一筋の光が駆け下りた。大きな流れ星だった。
「……まだかなぁ」
ほのかな願いを胸に抱いて俺は涙でグズグズの目を閉じた。