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小さな魔王と丸い悪魔

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小さな魔王と丸い悪魔

2 - 第2話

♥

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2025年12月03日

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「小さな魔王と丸い悪魔」



🧣✕ショタ🌵






2 .🧣視点



拳に鈍い痛みが走るごとに、踏みつけた人間からうめき声が上がる。腫れ上がった顔でまだなにか釈明しようとしていた。犯罪者の言う事なんて聞く必要がない。もう何発か殴ると何も言わなくなった。

「やっと大人しくなったね、バカがよぉ」

動かなくなった男の胸を踏みつけたまま俺は身体を起こした。こいつは少し前に別の人間を刺したクズ野郎だ。この国の王都で警備をしている俺の前を通ったのが運の尽き。あっという間に捕まって、俺の日頃の鬱憤晴らしでボコボコにされて今に至る。


「らっだぁ?!お前なにやってんだぁ?!」


でき始めていた人だかりをくぐり抜けて、聞き慣れた声が近づいてきた。この国で兵士をやってる知人、ぺいんとだ。

「こいつ、殺人未遂。ぺいんとが連れてってくれんの?」

「エ?!お前、いや……いいけど」

「いいんだよ」

まさか連れて行ってくれるとは思わなかった。前言撤回させないように俺はぺいんとに向けてにっこり笑った。

俺は憲兵隊所属、街の治安維持を行う警備隊の警備員。ぺいんとは他国や悪魔と戦う国軍の兵士だ。だからちょっと所属が違うんだけど、雑用……いや重要な仕事をやってくれるって言うなら甘えるしかないよね。

ぺいんとは俺が手錠をかけた犯罪者に、歩けますか?とかご丁寧に聞いている。でも意識はないっぽい。最後の数発が効いたかもな。

「お前やりすぎなんだよ!」

「え、ぺいんとは悪人に人権があると思っちゃう人?」

「あ、あるだろ!?お前はもっとちゃんと人の心をアタマに縛り付けとけよ」

「無理かもなぁ、すぐ落としちゃう」

「じゃあポケットに入れろ!」

「はーい」

心のこもらない乾いた笑いを浮かべる。心底困ったような顔をして、ぺいんとは部下と一緒に犯罪者を連行していった。こういう仕事に関わるにはつくづくあいつはいいヤツ過ぎる。

ぺいんとと一緒に人だかりも散っていった。遠くで時計台の鐘が鳴った。今日のシフトはもう終わりだ。俺は背伸びをして、詰め所に戻ると夜勤の連中に引き継ぎをした。

日も暮れた街に足を踏み出す。王都は人口も多く、この時間でもまだ多くの人間が道を歩き回っている。通りかかった飲み屋からはうるさい声が聞こえてくる。そのうち怒号が混じり、グラスの割れる音が聞こえた。エスカレートするようなら俺ら警備の出番だけど、ま、俺は今日はもう上がったし。

つくづく、人間というものは醜悪だ。通り過ぎた店内が一瞬静かになり、そして銃声が聞こえた。それでも俺は振り返らなかった。あの犯罪者を捕まえるのにはしゃぎすぎた、平静を装っているけどかなり眠い。さっさと家に帰って寝たかった。

歩くうちに町外れの川沿いの小道に出て、俺はため息をついた。背後の町並みは、その光の一つ一つまでもが憎たらしくて、でも正面の星空だけは綺麗だった。

「本当、人間なんてカスだわ」

憎悪のこもる声が出た。

俺の正体は悪魔だ。今は人間に擬態しているけれど、本当は魔法を操り人間を貪り食う恐ろしい存在だ。この仕事をしているのも、どの人間なら突然”いなくなっても”気にならないか、どこなら人目につかないか。治安維持という大義名分のもと、好き放題できるからだ。

「それに、人間殴り放題だし」

今日のことを思い出して思わず笑みがこぼれた。俺ら悪魔の拠り所だった魔王様が勇者とかいう奴らに殺されてずいぶん経つ。人間を殴っているときだけは心に開いた大きな穴が満たされる。

生き延びた俺に残ったのは人間への激しい恨みだけで、でもあれから力は落ちていく一方で復讐もなせない。死を先延ばしにする日々は辛く、それでも生を手放せない自分が嫌だった。


「うぃ~~っらっちゃん!元気してる?」


ウジウジ考えていた俺の耳にけたたましい大声が飛び込んできた。そして背中をドンと叩かれる。ピンク色の髪が斜め後ろで揺れている。

「なんだ、なるせか」

「お前いまなんで俺がお前がここにいるってわかったのかって気になってるだろって?」

「ならんならん」

「なんでだよ!なれよ!!」

また俺の背中をバンバン叩いてきた。酔ってるのかと思ったけど酒臭くはない。こいつはいつもこういうやつだ。

なるせは表の姿は歌手だけど、裏の顔は情報屋だ。顔が広くなればそれだけ情報も集まってくる。そしてこいつはそれをリスクじゃなくて、おもろいと思える感性の男だ。

「俺バカ眠いから帰るね」

「まぁ待て待て待て、おもろいんだって」

「なになになに……」

腕を引っ張られて俺は渋々話に付き合う。実際かなり眠気が迫っていた。

「絶対おもろいぜ?「魔王」についての話だよ」

その一言で眠気がすっ飛んだ。俺が明らかに食いついたことを確認してなるせは悪そうに笑っている。悔しい。

「いやいや、とっくに殺されたじゃん。もう20年近く前に」

「それが今まで知られてなかったんだけど、魔王を殺した連中の隠れ里があるらしくってな?面白くね?」

「……へぇ?それは初耳かも」

魔王じゃなくて勇者側の話か。ちょっとだけ拍子抜けしたけど俺は続きを促す。

「でもどうして今更?隠れ里っていうんだから隠れてたんじゃないの?」

「それがな、勇者の関係者だから今でも国から生活費とか食料とか全部出てるんだけど、……それをそこの里の連中が市場に横流ししてたらしいんだよ」

なるせのピンクの目がニヤリと歪む。

「よくわかったね、そんなの」

「国の印章が入った肉とか果物が場末の酒場で見つかって、意味わかんねぇからもう大騒ぎ。辿ってったら隠れ里に行き着いたってワケ」

「印章入りって、バレるに決まってるやん。もしかしてバ……」

「やめとけ、一応偉大なる勇者様の関係者だから」

罵倒が出かけた俺のことをなるせはやんわりと押し留める。

「でもそれがなんなの?やらかしたからって魔王とは関係なくない?」

「まぁ……今のところはな。でもおもろいだろ?今更勇者関係のスキャンダルが出てくるなんて」

「今更、だからじゃない?20年以上も経ったんだから、本人じゃなくてその子供とかがやってんのかもよ」

「ああ、あの頃のヤバさ知らねぇ世代か」

なるせも意味深にウンウン頷いている。時々、こいつも俺と同じ悪魔なんじゃないかと思うことがある。もし違った場合の自爆がヤバいから聞くに聞けないんだけど。

「なんかお前も知らん?これ系の話」

「ああもしかして、あの……」

俺は急に思い出した。城門の警備をしていると、たまに国の印章が入った荷物を積んだ地味な馬車が出ていくことがある。しかも山間部に向かう道の方へ。でもそれ以上の確証はない。

「なんだよ、そこで止めんなよ」

「いや、なんでもないわ。その隠れ里、どこにあるのかわかってんの?」

「んー、それがまだなんだよな。それがわかればこの情報に価値が出るんだけど」

ふざけた雰囲気が一瞬消えて、情報屋なるせとしての顔がちらつく。

「まあ横流し事件ってよりは、そんなところに隠れ里つくって何やってんの??って方が気になるんだ、ぜ」

「たしかに。横流しなんてしなくても生活費もらってるのにね。新聞社とかには?流さないの?」

「それな?一応国の英雄、勇者パーティーのスキャンダルだからな。ゴシップ記事にするのは食い合わせが……ッ、は、は、はっ……」

エッヒェィ!!とかいう可愛い見た目にもかかわらず妙に力の入ったくしゃみを俺は遠くの方で聞いた。


「あ?らっだぁ??どこいった?」


その声が上の方で聞こえる。背筋が凍った。

「腹が痛いから帰るわー」

デカい声で言うと俺は慌てて岩の陰に隠れた。なるせはしばらく探しているようだったけど、やがて気配がなくなった。

「……ヤバイヤバイヤバイ、魔力切れた!」

汗が肌を伝う。小さい手がガタガタ震えている。

なるせがくしゃみをしたちょうどその瞬間、俺は変身が解けて道から河原に転がり落ちた。暗い川に俺の姿が写っている。全身ぽよぽよの水色。まんまるのボディ。気が抜けるような顔。これが今の俺の正体だった。

魔力は1でも残っていれば回復が早い。時々変身しながら逃げることもできる。でも0、完全に枯渇すると急に遅くなるし、この格好のまま逃げ回るしかない。

俺は元々魔王様の側近だったくらいの大悪魔だ。魔王はただ強い魔族の王というだけでなく、配下の悪魔に無限の魔力を与えてくれる世界樹のような存在だ。だから22年前のあの日、勇者とかいう奴らに魔王が殺されたせいで一帯の魔力が枯渇して、俺だけでなく生き残った悪魔たちは年々力が弱まっている。俺も全盛期ほどの能力は使えないし、今じゃ人間みたいに食事や睡眠を取らないと生きられない。空も飛べなくなるとは思いもしなかった。

このぽよんぽよんの姿で人間を捕食……するのはリスクが高すぎる。こうなったら回復するまでどこかに引きこもって寝るしかない。あーあ、今日捕まえた人間を隠れて食っちゃえばよかった。

安住の地を探してとりあえず岸辺によじ登ったら、曲がり角の先から人の声がして俺はパニックになった。隠れ場所がどこにもなくて、何も考えずちょうど前を行く馬車の荷台に飛び乗った。どこでもいい、身を潜めないと。





ウトウトしながら馬車に揺られていると、外がうっすら明るくなってきた。たまたま乗ったのが山奥に向かう馬車だったらしい。あの街には何年も住んでるけどこんなところには来たことがない。

パニックになって飛び乗ってしまったけど、これからどうしよう。結局どこかの村についてそこで見つかったら意味がない。いっそそのへんの動物を追い出してその巣穴にでも……と思い始めた俺の目に、森の向こうにそびえる人工物が飛び込んできた。

それは石造りの塔だった。行ける!俺は根拠のない自信で馬車から飛び降りて塔に向かってポヨポヨ歩いていった。

近づくにつれてその高さに驚いた。周りの木々より頭一つ以上大きく、30mはあるだろう。入口の大きな扉は木の板と魔術的な封印でガチガチに閉められている。中になにかヤバいものがしまってあるのかもしれない。ということは誰も来ないということだ。

俺は周りを見て回る。窓もちゃんと封鎖されていて、不安になってきたけど玄関の横にポスト?のような、塔内にものを入れる場所があることに気づいた。この身体のいいところはある程度なら狭い隙間にも入れるところだ。無理やり身体をねじ込むと、真っ暗な塔内にポヨンと身体が落ちた。魔王の側近として人間を恐れさせた頃はもっと恐ろしい鬼だったのに、弱体化するとこんな癒し系のかわいい生物になってしまうことが幸いした。

「うわこれ大丈夫か…?てか出られるよな?」

冷静になればなるほど焦ってやらかしたような気がしてきた。まぁ今の隙間から多分出られるだろう。

暗闇は怖くない。怖いのは明かりだ。俺は冷たい石の床に寝転がって魔力が回復するまで深く眠ることにした。









「ああーー?!なに?!なんだこれっ?!」


ところが俺の睡眠は大声で妨げられた。


甲高い子供の声。目を開けるとランプを片手に持った子供がすぐ目の前にいた。年齢は6~7歳くらいだろうか。どう考えてもこんな塔にいるわけがない。

「ら゛ぁっ?!」

いつものように叫びそうになって俺は慌てて言葉を飲み込む。

「しゃべれる……?動く?いきもの?!いきものなのか?!」

子供はランプをその場に置き、赤い目をキラキラさせて俺を見ている。反応を待っているみたいだ。

「……らっ!」

なるべく笑顔……といってもこの顔はいつも笑ってるようなもんだけど、笑顔で俺は一言だけ言った。というか鳴いた。俺は青い妖精です。そういう類のものです。だから怪しまないでください。

「俺の言葉わかるのか?」

「らっ!」

「動けるのか?」

警戒されないようにポヨポヨはずんで見せる。子供の顔がクシャッと歪んでから弾けるような笑顔に変わった。


「やっ…………たぁ!!やっと叶ったんだ!!」


そして俺に抱きついた。俺は困惑して声も出なかった。こんな明らかにおかしい、それこそ悪魔のような俺に?

頬ずりしながら俺の身体に顔をうずめる様子を見て何も言えなくなった。子供だしきっとなにか勘違いしてるんだろう。今は適当にあしらって、ここから出ないと。

「なぁ、名前あるのか?名前はなんていうんだ?」

キラキラした目が俺を見ていた。

「らっ……だぁ」

「ら、なに?らだぁ?」

「らっ」

「お前、らっだけしかいえないのか?」

俺もいいたいのは山々だけど喋るほどの知性があると思われたくない。俺は低級悪魔です。言葉も失った小悪魔です、だから見逃してください。

子供は顎に手を当てて真剣に考え込んでいる。

「らっだけ、らだ、らだぁー……らっだぁって呼ぶか!」

奇跡的に俺の名前と一致する名前を叫び、子供は俺の手を引っ張った。


「よろしくな、らっだぁ!!」


今すぐにでも出ていきたいと思っている俺に、子供は太陽のような笑顔で微笑んだ。

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