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第13話:幸せのかたち
魔王城の空に、ひとすじの光が降りた。
それは“審判”とも、“祝福”とも言えない、まっさらな光。
城の中央広間――
トアルコはひとり、玉座の前に立っていた。
茶色のくせ毛が揺れ、どこか緊張した面持ち。
それでもその目はまっすぐで、怯えはなかった。
「……トアルコ・ネルン」
天から響く、無機質な声。
世界意志――魔王の種に宿る“存在の規定者”だった。
「お前の選んだ“在り方”は、魔王の定義から大きく逸脱している。 だが、その結果――確かに“戦いのない接続”が生まれている」
その証拠に、今日、王国から正式な使節団が到着していた。
エルグ王子が堂々とした足取りで歩き、騎士団の制服ではなく、平服のローブを身にまとっている。
その背後には、アルル――剣を帯びていない、ただの少女の姿があった。
「新たな魔王像を、更新するか?」
トアルコは、そっと深呼吸した。
「……ぼくは、征服も、統一も、求めていません」
「争いの理由がなくなる世界を、願っているだけです。
ひとりひとりが、自分のままで“よかった”と思えるように」
その言葉と共に、彼の体に宿っていた“魔王の紋章”が淡く発光し、やがて消えていった。
代わりに、胸の奥で静かに輝くのは――
種ではなく、“灯”のような、柔らかい力。
「記録完了。“魔王”の定義、更新」
魔王とは、恐怖の象徴ではなく。
力で支配する存在ではなく。
“願いを諦めない者”へと、定義された。
その瞬間、世界の空気が、ほんの少しだけ変わった。
帰り道、エルグがトアルコの隣でぽつりとつぶやく。
「君は、戦わずに世界を変えた最初の“魔王”だな」
「そんなつもりじゃ……なかったんですけどね……」
照れたように笑うトアルコに、アルルが呆れたように笑った。
「本当にあんた、最後まで腰が低いわね」
その笑顔は――
誰かの“正義”でも、“義務”でもない、ただの“人としてのぬくもり”だった。
トアルコが庭の花に水をやっていると、
パクパク、ネムル、リゼ、ゲルダ、そして新たな来訪者たちが次々に集まってくる。
皆が違っていて、バラバラで、それでも居心地のいい場所。
そこが、魔王城だった。