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「二人とも、意味分かんない金持ちの恋人になっちゃったけど、もうこうなったら『なるようになれ』なんだろうね」
「恵、『意味分かんない金持ち』はさすがに涼さんが可哀想だよ」
私はクックックッ……と笑いを噛み殺して突っ込む。
「訳分かんなくない? あの家の広さ。トイレが二つあるぐらいなら分かるけど、トイレ四つの、バスルーム三つだよ? それに今まで一人で住んでたんだよ? 分身でもしてたんじゃない?」
「確かに」
「よく夜一人で恐くなかったよね……。私だったら無理」
恵はそう言って、両手で自分を抱き締めてブルッと体を震わせる。
「そうなんだけど……。何となく、尊さんもだけど、寝るためだけに帰ってたように思えるな。涼さんの家も、マスターベッドルームの付近に書斎やお風呂、洗面が集まってたじゃない。多分、普段の生活はあそこで完結してて、客室側は全然使ってなかったんだろうね。漫画部屋もだけど、倉庫ぐらいにしか思ってなさそう」
「まー、確かに。友達は多いらしいけど、海外の友達も普通にホテルをとるから、家に泊めるとかがないみたい。北原さんの証言では、女性を上げた事もないって言うし、ホームパーティーもしなかったんだろうね」
「不思議~。尊さんはともかく、涼さんって陽キャの権化だから、ホームパーティーとかしそうだけど」
そう言うと、恵は遠くを見て言った。
「多分だけど、表向き陽キャでめちゃポジティブでも、心の中に人を入れるかは別なんだろうね。ほら、〝凍土の帝王〟説があるし、〝外〟の顔は違うんだと思う。簡単に人に気を許したら、涼さんの場合『取り入って甘い汁を吸ってやる』って人がすぐ群がるから、多少冷たいぐらいが丁度いいのかも」
「甘い汁……。やっぱりフラワーの蜜か」
呟くと、恵は「そっちか!」と突っ込んで笑った。
「なーんか……。涼さんに選ばれた事は『ラッキー』なんだろうけど、そう言ったら駄目な気がして、どういう心意気でいればいいのか分からないよ。私と涼さんは、朱里と篠宮さんほど運命的じゃないし。たまたまランドで会って、たまたま気に入られただけ」
私は髪を掻き上げる恵の横顔を見て、尋ねる。
「ちゃんとした理由があったら、安心して愛される事ができる?」
それを聞き、恵はチラッと私を見て笑った。
「……うん、違うね。結局自分に自信がないんだ。どんなに立派な理由があっても、私が中村恵っていう一般人である限り、不安はつきない。『大丈夫』って自信を持てても、数日経ったらすぐに揺らいじゃう。私が手にしたものは、それぐらい大きくて魅力的なものだから」
恵の気持ちは凄くよく分かる。
私も最初は怜香さんに、思いきりいやみを言われたっけ。
でも……。
「私もね、色々不安になるよ。すごーく美味しい物を食べさせてもらってる時とか、いまだに『これってお金払わなくていいのかな?』って不安になるし、あの立派なマンションにタダで寝起きしているのが信じられないし、クローゼットの中はブランド服ばっかりだし。……時々、凄く怖くなる。与えられたものが大きい分、失った時の事を想像すると、とても悲惨で。……でも、尊さんを信じる。〝愛されてる私〟アピールするのは恥ずかしいけど、尊さんは凄く私を大切にしてくれているし、投資っていいほどお金をかけたものを、簡単に手放すほど頭悪くないもの」
「ん……。確かに、涼さんクラスだと大した額じゃないのかな? って思うけど、凄くお金かけてくれてるし、何より時間を割いてくれてる。ランドでは、私に割ける時間は限られてるって言ってたけど、今は最優先で私との時間を作ろうとしてくれてる」
恵の言葉を聞き、私はニコッと笑う。
「それが答えだよ。どれだけ高級なものを与えられても、『好き』って浴びるように言われても信じられないかもしれないけど、大切じゃないもののために、人って時間を割かないから」
私は恵を励ましつつ、自分の事も鼓舞していた。
あまりに尊さんが素敵な人すぎて、釣り合わないんじゃ……、と弱気になる事はよくある。
でも、私を選んでくれた尊さんを信じないと、彼に失礼だ。
そう思い、付け加えた。
「尊さんも涼さんも、一流のものに触れてるでしょ? 彼らは私たちの見た目や、どこの生まれとかより、ちゃんと中身を見てくれている。私たちよりずっと〝色んな人〟を見てきた人の審美眼を信じないと、多分『自分の見立てを疑うのか、失礼だ』って思われちゃう。……そんな事は言わない人たちだけど」
「……うん。だね! ごめん。弱気になった。『大丈夫』って活を入れては弱気になって……、の繰り返しだ。同じような状況を理解してくれる、朱里がいてくれて良かった」
「私もだよ。四人で幸せになろう? そしてゆくゆくは恵とママ友に……」
ぬふふ、と笑うと、恵は「うわああああ……」と両手で頭を掻きむしる。
「やっぱりお受験とかするんだよね? ドラマで見たけど、あれって親の品性とかも問われるんだよね? うわあああああ……」
私は想像していた以上に繊細な親友の一面を見て、ケラケラ笑う。
そうしているうちに、時間が訪れて私たちはボートに戻った。