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「一等は……当ホテルの鉄板焼き『新』のステーキフルコース二名様分です!」
わー、と二岡さんが、受け取ったポスターをみんなに見えるように掲げる。ここまで派手に喜んでくれて……嬉しい限りだ。
見事、花嫁の色を当てたかたには、プレゼントを用意した。人数がちょっと多かったので司会者の合図でじゃんけんをしていただき……二次会をしないのでその明るいノリもちょっと交えて。
課長やわたしの地元の特産物や名産品なんかもプレゼントした。目玉は、こちらのホテルのステーキのフルコース。わたしだって食べたいくらいだ……ああテーブルのうえにいっぱい美味しいご馳走が! 食べられない食べられない……でも試食会でいっぱい食べたからいいもん! それに、終わったら課長とうえのバーに行くんだから!
さておき。
二岡さんがにこにこしながら席に戻り、それから、わたしたちは各テーブルを回る。お写真タイムだ。というのは、実は、わたしは結婚式に出席するたびに、なにげにあまり、花嫁花婿さんと写真を撮るチャンスがなく、そのことを寂しいと思っていた。
なので、今回は、こちらからみなさんの席に出向くという提案をしてみた。課長は勿論乗った。
ひとりひとりにお声がけをし、それぞれのカメラで撮る……携帯が多くて人手が足らず、司会の仁志さんも手伝ってくれた。
親族は、こういうときは遠慮しがちだから、それもあってのこの提案だ。義理両親や親族に続いて、母のいるテーブルに向かう。
「ほんっとに……あんたは」わたしが近づくと母は何故か顔を歪め、「あんたは……ほんっとに、昔っから負けず嫌いで……自分で決めたことは絶対に譲らない子なんだから……」
わたしの主導でこれが行われていることを悟ったらしい。母の発言を聞いた仁志さんが、
「お母さま、そういうことは、娘様の結婚式であまり仰らないほうが……」
どわはは、とたちまち笑いが起きた。……まったくもう。母ったら……照れ隠しにそんなこと、言わなくたっていいのに……。
ともあれ、無事、わたしは母と写真に収まった。――出来上がりが、楽しみだ。母も父も、ちゃんと携帯で撮って貰い、思い出が残った。
さて、ひな壇に戻ったわたしたちは続いて――。
「それでは、本日、新郎の三田さんと新婦の莉子さんのためにと……特別ゲストがいらっしゃってます! 皆さん、盛大な拍手でお迎えください――」
ゲストをお迎えすることになっている、それは知っている。前方にでかでかと置かれたグランドピアノ、それが使われるのだ。そして歌うのは――
「……えっ……?」
待って。ちょっと待って――。
課長のお友達は知っている。すごいひと。確かにすごいひと。前に、課長に動画を見せて貰ったもん。めちゃめちゃイケメンで、歌もうまくって……そこまでは分かったのだが、何故。
隣に――水品佐奈がいるのか。
わたしの出身大学に在学中で――飛ぶ鳥を落とす勢いで大活躍中の、シンガーソングライターが。
パソコンやテレビでしか見たことがないけれど、実物は、更に綺麗だ。髪……切ったんだ。女神のように美しい。ブラックドレスに身を包む彼女は。
「三田さん、莉子さん、ご結婚おめでとうございます!」マイクを握るとにっこりと笑い、「水品佐奈です! それから、ピアノを演奏するのは……」
「回(かい)誠(まこと)です!」
「今日はおふたりのために、こころを込めて歌わせて頂きまーす!」
会場がいまだ驚きにざわつくなか……そりゃそうだ。まさか水品佐奈が来るだなんて誰も予想していない……わたしだってそうだ。いま一番好きな歌手だ。彼女の歌声は透明感があり、聞いているだけで気分が穏やかになり、やがて高揚していく……。
――あの歌声が生で聴けるなんて。わたし最新アルバム百万回以上聴いてるよ! 何度聴いても飽きないもん!
聴衆の興奮を悟ってか、たっぷりと笑うと彼女は――口を開いた。
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