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レンさんとの関係が始まっておよそ3週間が経った。
勿論毎日ではないが、相変わらずご飯に誘われたり、こちらから営みを誘ってはヘトヘトになるまで抱かれたりの日々である。その時しか名前呼んでくれないのが正直唯一の不満だ。
それでも──ちょいちょい枕はしてきてるはずの──アフターやら同伴やら忙しいはずの彼は、誘いには絶対に断らずに《何時からなら。》と予定を空けてくれる。
(二日酔いもないし、疲れとる様子もないし。…あー、スタミナあるって言うてたもんな。やから面倒見てくれてんねや。)
もう1つの変化としては、初めて身体を重ねたあの日から、すぐにできないと分かっていても我慢できるようになり、街に立たなくなったこということだ。
営業中。空いた卓上の後片付けをしながら、俺の目の前を颯爽と通り過ぎていったレンさんをちらりと目で追う。1番仲が良いと言っていた常連の姫の卓に着くと、距離を近付けて腰を下ろすより早く、楽しそうに会話を始めた。
──ふと、目が合う。直ぐに逸らすも、
「お願いしまーす。」
と卓から1番近い俺が呼ばれてしまったら、もうそれは業務上行くしかなくて。卓に着くなり姫から少し離れてしゃがみこむと注文を聞く。
「お待たせしました。伺います。」
「モエシャンを…一旦2でいい?」
「うーん、3でもいいけど…足りなかったらまた頼めばいいじゃん。」
そうして場内を見回して、姫は俺と目を合わせて優しい笑顔を浮かべながら言った。
「皆で呑も?君も。」
「え、僕も…ですか?」
「勿論!見かけてはいたけど、やっと話せたから。よろしくねってことで。」
「…はぁ…じゃあ、いただきます。」
軽く会釈をすると、レンさんは姫の肩を引き寄せて俺に紹介する。
「ちなみにこの子はいつもシャンコしないから、今後も付けないように覚えておいて。」
「はい。じゃあ、失礼します。」
彼女を引き寄せたあの手に少しだけモヤッとしたが、今はお互い仕事中。イヤモニを通して卓と注文を伝えて片付け中の卓へ戻ると、返って来たのはリョウさんの声だった。
『コージごめん、業務連絡。今日終礼後に業後清掃は後回しで事務所来てくれる?』
「えっ?…はい、分かりました。」
…俺、何かしたか?時計を見ると閉店まで2時間はある。心当たりも何もなく呼び出されるって…。
再びテーブルを拭いていると、ふと1つが浮かんだ。その瞬間、ぴたりと手が止まる。
(──もしかして、バレた?)
俺の事情を知っているリョウさんなら有り得る。けど、レンさんはあの時のことも《言わないよ》って…。気心知れたリョウさんならって言ったとか?いやまさかそんな、
「コージぃ?」
「うわぁあっっ!?」
突然にゅっ、とドアップで視界にまず入ってきたのは、ピンク色。
「さ…さっくん…!」
驚きでばくばくと激しく脈打つ心臓を落ち着けるように胸に手を当てていると、いつもの《にゃははは!》という笑い声。
「どったのー?すんごい怖い顔してたよ?」
「いや…何もないっす。」
「そう?リョウから連絡あった?業務連絡、楽しみにしといてね!」
「…へっ?」
楽しみに?その内容には触れることはなく、《じゃ、後でね!》とさっくんは足取り軽くさっさと指名先の卓へと行ってしまった。
(さっくんのあの様子だと…バレたわけじゃ、なさそうやな。)
一先ずの安堵にふぅ、と息を吐けば、教育係だった先輩が両手に持ったシャンパンの入ったグラスの1つを差し出してきた。先ほどの姫と一緒に乾杯しに行くぞと言わんばかりに顎でレンさん達の卓を指す。グラスを手に取ると、姫から半ば隠れるように先輩の後ろへ着いて行った。
閉店後の終礼を終え、事務所に到着するなり3回ノックする。中からは《どうぞー。》とリョウさんの声。恐る恐るドアを開けば、リョウさん、レンさん、さっくんの錚々たるメンツが顔を揃えていて。
「、………間違えました。」
ぱたん、と一旦閉めて首を傾げる。…どゆこと?知らんけど俺めっちゃ怒られる感じ?そう考えていると、今度は勝手に事務所のドアが開いて。くすくす笑いながら顔を出したのはレンさんだった。
「間違えてないよ。何も悪いことはないから、入っておいで?」
「お…おん…。」
優しくも楽しそうな笑顔に誘われるまま、俺は事務所へと足を踏み入れた。
「──夏祭り?」
告げられた計画にぽかん、と肩透かしを食らった俺に、さっくんがソファに膝を立てながら背もたれに頬杖をついて説明する。
「うん!今度俺の住んでる街でやんの!その日は折角の店休だからさ、コージも行こ?」
「誘ってくれるんはありがたいねんけど…その日って店自体は閉まっとっても、プレイヤー以外は定期の店内清掃と棚卸じゃ…」
そこへ間髪入れずにリョウさんがにっこりと告げた。
「うん、だからコージは休みにしたよ?ちなみに俺も。」
「リョウさん!?」
《職権乱用ー♪》とあざとくピースするリョウさんに、そういえばこの人はスタッフ管理者だったと思い出した。
「俺も一応行くけど。お前、来ないの?」
「レンさんも?」
「ねーえーーコージ行こうよぉーーー!!」
駄々っ子の如くソファでじたばたするさっくんに苦笑いを1つ。《…で、どうする?》と聞いてくるリョウさんの言葉を皮切りに、2人の現役ツートップと1人の元No.1が一斉にこちらを見てくる。その圧に、思わず少し後退る。
(…この3人に、俺が混ざるん…?)
多少の気まずさが拭えない中、休みとなったら特に予定もないため、少し考えた後に小さく頷く。何より、ちょっと楽しそうという好奇心もあった。
《やったーー!!!》とさっくんは歓喜を大々的に身体で表すと、リョウさんはふと提案をする。
「折角だから皆で和装する?」
「えー!リョウそれめっちゃいいー!最高じゃーん!」
「和服…僕持ってへんのんすけど…。」
どうしよ、皆金持ってるからええやつ着てくるんかな…俺だけ浮かへんやろか。そんなことを考えていると、背中をぽんぽんと叩いてきたのは、レンさんの大きな手だった。
「俺も持ってないから集合前に一緒に買いに行く?ついでに着付けもしてもらってさ。」
「ほんまに?でも、」
「いいから。ね?」
「…ん、分かった。」
皆さんにお邪魔します、と3人に軽くお辞儀をして頭を上げると、三種三様の笑顔が俺に向けられた。
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