テラーノベル
アプリでサクサク楽しめる
それでは、
どうぞっ。
ーーーーー
來亜はわざとらしく、右側の髪を耳にかけた。
カーテンの隙間から差し込む夕方の光が、軟骨に開けたばかりの小さな硝子を透かして、痛々しいほどの青を床に落とす。
誰かが愛した、あの冷たい冬の海の青。
來亜の視線は、柚葉の綺麗に切り揃えられた、あの微かに揺れる長髪の毛先に吸い寄せられていた。
かつてその背を覆い、來亜の指の隙間にいくらでも溢れていたはずの、あの暗い夜のような長さは、もうどこにもない。
白々しく剥き出しになった項の寒々しさが、來亜の視界を執拗に脅かしている。
🩵「…で、結局それいくらしたの。」
柚葉はスマホの画面から目を離さないまま、退屈そうに、けれど値踏みするような声を溢れさせた。
來亜の細い手首に冷たく光るブレスレットを、顎で気怠げに指す。
恋人に買い与えられた、來亜の細い身体には少し不釣り合いなほど上質な輝き。
來亜の耳元で揺れる青い火花にも、その露骨な仕草にも、一瞬すら視線を向けなかった。
来月、別の男の籍に入る女の横顔は、酷く乾いている。
🤍「知らない。彼女が私に似合うって、勝手に買ってきただけ。」
來亜はソファのクッションを強く抱きしめ、柚葉の視線を必死に追いかける。
気づいて欲しい。
私の耳元に残る貴女の海の青に、そして、貴女を忘れるために別の年上の女に飼われているという、この歪んだ当てつけに。
🩵「良かったね。…今度は優しくてお金持ちなお姉さんと付き合えて。」
柚葉は自嘲気味笑いながら煙草に火を付けた。
不意に柚葉の視線が、スマホの画面から來亜の耳元へと滑る。
その青い硝子と、視線を泳がせる來亜の痛々しさが視界に入った瞬間、柚葉の指先が微かに止まった。
いつかの自分が夢中で貪り、自分の色に染め上げていたあの頃の残像が、一瞬だけ鮮烈に蘇る。
まだそこにいる。
柚葉は理解した。
その耳元で泣き出しそうな青の正体を。
けれど、盲目を演じる。
今さら縋り付いてくる元カノの未練なんてただのノイズだ。
自分という存在が今もこの少女の皮膚の裏側を狂わせているという事実は、酷く柚葉の自尊心を満足させる。
だからこそ、一番欲しい言葉だけを、わざと視界から消し去って生殺しにする。
🤍「……本当にあの人と結婚するの?」
🩵「するよ。今さら何言ってるの。」
柚葉は灰を落とし、心底面倒臭そうに來亜をあしらった。
next.
コメント
1件
いやもう…美しすぎて苦しいんだけど!!!!😭💔 耳元の青い硝子、開けたばかりのピアス、そして「彼女が勝手に買ってきた」って言葉の裏にある來亜の必死さ…。對して柚葉は結婚決めてて、でも「まだそこにいる」って気づいてるのに、わざと見ないふり。このじれったくて痛い距離感、めっちゃエモい…💘 「自分という存在が今もこの少女の皮膚の裏側を狂わせている」って表現、天才すぎん??続きが気になりすぎるよ〜〜!!ゆあ。さん、この世界観好きすぎる🥺🌸
502
#創作
542