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小話集

10 - 小話の小話

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593

2024年10月30日

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自称Xで載せたもの3つ。


例のコラボ

ビッと耳たぶが後ろに引かれ、つぼ浦はたまらず「イテッ」と声を上げた。

「いつもと違うねこれ」

「アオセン。なんすか」

「面白いことしてるって聞いて」

「はあ」

「ピアス、こんなじゃなかったよね?」

「まあ、撮影っすから」

「へー」

平坦な声なのに、青井の手は止まらなかった。チャラチャラと右耳から金属の擦れる音がする。ピアスをめくるように観察されれば、性感に似たくすぐったさがジリと走る。つぼ浦は誤魔化すように唾を飲んだ。

「……も、いっすか」

「えー、もうちょい」

「時間なんで! あとつっかえてんすよ!」

青井の手首を掴んで押しのける。ピアスは名残惜しげに緩く引っ張られ、重力に従った。

「あれ、指輪もしてる」

「おう。メリケンサックみたいで気に入ってるぜ」

「暴行罪先に切っとこうか?」

「まだしてないしてない」

つぼ浦が息を吸いながらクツクツと笑う。

「あー、じゃあ」

青井は自分の腕時計を外して、つぼ浦の手首に巻いた。代わりに黄緑色のスマートウォッチを強奪する。

「あっ」

「暴れたらこれ没収だから」

「チクショウ。しねえっすよ」

「ちなみに、その時計は俺の就職祝いで買ったやつ」

「エッまじっすか」

「うんホント」

「大事なの?」

「まあ、うん」

「フーン」

つぼ浦は着けられた時計をまじまじと見た。銀を基調とした文字盤に、キラキラと青い秒針が時を刻んでいる。

「……これ何年ものっすか」

「ワインみたいな聞き方するね。まあ、10年くらいじゃない?」

「へえ」

時計は遅れることなく、規則正しく動いていた。よく手入れされているのだろう。途端に、つぼ浦は左腕が重たくなったような気がした。青井の10年をポンと投げ渡されたのだ。

「俺じゃなかったら拒否してましたよこれ。今すぐ大暴れされてもおかしくない」

「お前はしないでしょ?」

「そう言われると」

「やめろー」

青井はくすくすのんびり笑った。冗談だと確信しているようで気に食わない。つぼ浦は下唇をつんと尖らせて「もう時間なんで!」とデカい声で言った。

「がんばれー」

「おう。アオセンはそこで指くわえててください」

「一言多いんだよな」

「つぼ浦入りまーす」

つぼ浦はグリーンバックの、白いライトの中へ向かう。不機嫌そうに寄せられた眉の下、頬はほのかなオレンジ色に染まっていた。

何だかんだ、投げ渡された時計を嬉しいと思ってしまうくらいには、つぼ浦は青井のことが好きなのだ。

「ああいうところ可愛いんだけどなぁ」

青井はカメラの後ろで肩を竦めた。




ウミガメモドキミステリー

「成瀬力二の死体がロスサントスで見つかった。奇妙なことは、5分前に日本で目撃されていたんすよ」

「どうしたんだカニくん急に」

「つぼ浦さん黙っててください。らだおの脳トレです」

「えっ、俺?」

「さていったい何が起こっているでしょうか!」

力二はうきうきにこにこパッと両手を広げた。

勿論、傷一つない元気なペンギン頭である。バカンス帰りの花飾りが首元で機嫌よさげに揺れていた。

「えー、急に言われてもな。日本にいたはずなのに、街で死んだってコト?」

「そういうことっす」

「わかったぜ、瞬間移動だ」

「あははそれだ。成瀬はエスパーだった」

「惜しいっすね」

「惜しい!?」

「嘘です全然惜しくない。真剣に考えてくださいよ」

「俺は真剣だぜ」

つぼ浦は真面目な顔で言ったが、日頃の行いで無視された。らだおは首を捻ってトントン顎を指で叩く。

「えー、五分前に日本で目撃。普通にアメリカ行くのは無理だろうし……。あ、目撃者って誰?」

「コンビニの店員っす」

「成瀬は何か買ってった?」

「や、関係ないです。店員も、被害者を直接は見てないっすね」

「えっ。めっちゃ大ヒントじゃない?」

青井は女子高生みたいにはしゃいでつぼ浦の袖を引く。つぼ浦は「ぽいな」と頷いた。

今度はつぼ浦が人差し指を立てて質問する。

「なら、店員は別の店員に話を聞いた?」

「違うぜ。ほらほら頭が固いっすよ!」

「なるほど、わかった。なら話は簡単だ」

「おーっ!」

青井が前のめりではやし立てる。つぼ浦は探偵みたいにうろうろ歩いてのたりくたりと喋った。古畑任三郎のものまねだ。

「これなぁ、カニくんのそっくりさんなんだ。喋らないのは心無きだから。そう」

ぱん、と拍手の音が響く。つぼ浦はカッコいいポーズで勢いよく窓の外——市役所の方角を指さした。

「心無きにカニくんのコスプレをさせられるやつ。市長が犯人だぜ!」

「ちがいまーす」

「チクショー!」

つぼ浦が床にどしんと倒れこむので、青井はゲラゲラ腹を抱えて笑った。

「えー、コスプレも違うってことだよね」

「そう。ついでに市長犯人説もナシで」

「それは知ってる」

「俺は知りませんでした」

「ハイハイ。つぼ浦さん一回休みで」

力二が青井に手のひらを向ける。ゆっくり考える時間があるらしい。

「んー……。直接見てないし話も聞いてない、ってことは」

青井は自分の警察端末を見て、「あ、監視カメラ?」と力二に言った。

「おっ、アタリ~! そう、店員は監視カメラで被害者を見ていた」

「いかにもアリバイ作れそー」

床に倒れたままのつぼ浦がピンと高く手を上げる。

「はいつぼ浦さん」

「ロスサントスの警察は、電話で店員に事情を聴いた?」

「もうわかってる側の質問じゃねえっすか! ハイその通りです」

「えーっ! ナニ、どういうこと!?」

青井がつぼ浦の襟をつかんで鬼面で凄む。あまりに必死なものだからつぼ浦は首を振ってフスフス笑った。

「アオセン、今どっかのコンビニ見てくださいよ」

「うん」

「右上」

「……UTC-7?」

「日本ならそこJSTになります」

「……あ、Japan Standard Time(日本標準時間)!」

「ロスサントスは本初子午線から七時間マイナスしてるんで」

「universal time coordinated(協定世界時)の-7ってことね。なるほどー」

力二が嬉しそうに頷いた。

「じゃ、答え出ました?」

「えーっと、日本とロスサントスの時差って16時間であってる?」

「あってるぜ」

「フライト時間どれくらいだっけ」

「10時間ちょいですね」

青井は良しと胸を張って、

「監視カメラの時差に気付かなかった、店員と警察のコミュニケーションエラーによる事件! どうだー!」

「せいかーい!」

力二は背後からパッと花の首飾りを二つ取り出して、青井とつぼ浦の首にかけた。

「俺がいない間に鈍ってると思ったんすけどね」

「おみやげ? ありがとー」

「トリック云々市長なら全部どうとでもなるぜ」

「ハイハイお菓子も買ってきたんで。さっきの問題他の人にも出しましょ」

青井とつぼ浦は歓声を上げた。

「あ、そうだ。成瀬おかえり」

「そういや言ってなかったか。楽しんだみたいで良かったぜ」

「うす。ただいま帰りました」

ちょっと日焼けしたペンギンは、嬉しそうに笑った。




93

突き抜けるような甲高いサイレンの音だった。

つぼ浦は飛び起きて、勢いのままベットから転がり落ちた。無理やり起こされたせいで泥のように重い手足を動かし、カーテンを開ける。カッと、スポットライトよりも鋭い光線がつぼ浦の部屋を貫いた。

痛いほどの光に目が白く眩む。つぼ浦は反射的に目を瞑って頭を伏せた。

途端、頭上を高速で何かが通り抜ける。ドッとものすごい音がして、飛翔体は壁にいくつも穴を空けた。ショットガンの銃弾だ。

心臓がバクバク体を揺らして熱い血を脳に送っている。いい加減起きろとアドレナリンが指の先まで駆け巡る。

重低音に羽ばたく音。パトカーのサイレン。物々しい重たい足音。

つぼ浦はこれを知っていた。つい1年前まで、つぼ浦はその中に身を置いていたのだ。

「つぼつぼォーっ!」

拡声器越しのザラザラした大音量が、窓ガラスをビリビリ震わせた。つぼ浦は耳を塞ぎながら、「なんすか署長ーっ!」と必死に声を張り上げた。

「お前は完全に包囲されている! 大人しく投降すれば命だけは保証する!」

「なんの罪でだーっ!」

「ありとあらゆる罪でだ! お前は国際指名手配されている!」

寝耳に水だ。つぼ浦は身を低くしたまま出しっぱなしの警察タブレットに飛びついた。指名手配欄を見れば確かに、つぼ浦の名前があった。恐る恐る、自分の名前をタップする。

途端にズラズラと罪状が並ぶ。ロスサントスに存在する全ての犯罪が登録されていた。

つぼ浦はぐっと喉を鳴らして、「俺はやってねぇ! 無実だーっ!」と窓の外に向かって叫んだ。

「文句があるなら市役所に異議を申し立ててくれー」

「これっ、おいキミトスの仕業だろ!」

「いいや、MOZUを初めとしてギャング、救急隊、警察の総意だ」

「チクショウ!」

「大人しく投降しろー!」

「クソ、ことわーる! 」

瞬間、ドカドカ銃弾が撃ち込まれた。

窓ガラスが割れる。壁に穴が空く。つぼ浦は教本通り這いずって移動し、扉を開けた。

廊下も青と赤のパトランプでチカチカ照らされている。起きていた母親が「出かけるの?」とつぼ浦に声をかけた。

「おう、ちょっと行ってくる」

「そう、気をつけてね」

「ン」

「いいお友達ね」

「……」

「行ってらっしゃい」

家が襲撃されているのに、母親は呑気に微笑んだ。2024年9月3日、火曜日。つぼ浦24歳の誕生日だった。

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