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公海へと踏み出したリヴァイアサン号
逃げ場のない洋上の密室で、俺の怒りは沸点を超えた。
志摩の通信が途絶えた意味は重い。
だが、ここで俺が膝をつ撃てば、拓海の死も、親父の遺志も、すべてが神崎という怪物の胃袋に収まってしまう。
「……仲間がどうなったか、そんなに気になるかい? 黒嵜さん」
神崎は優雅に椅子に深く腰掛け、指先でスマホの画面をなぞる。
「君たちが頼りにしていた志摩刑事は、今頃、横浜の埠頭で私の別働隊に可愛がられているはずだ」
「…っ!」
「松田君だったかな?彼は……まあ、運が良ければ海に浮いているだろうね」
「……黙れ」
俺の声は、地を這うような重低音となった。
「お前のような、数字でしか人間を見られねえ野郎に……あいつらの根性を測れると思うなよ」
俺は一気に地を蹴った。
立ち塞がる巨漢のボディーガード——
コードネーム『アイアン』が、丸太のような腕を振り下ろしてくる。
その腕甲には、先ほど俺のドスを弾いた超硬質合金が仕込まれている。
――ガキィィィン!
真っ向から受ければ、こちらの刀身が折れる。
俺は衝突の直前で手首を返し、刃を滑らせるようにしてアイアンの懐に潜り込んだ。
重厚な肉の壁。
だが、関節の隙間は必ずある。
「……そこだッ!」
俺は親父のドスを逆手に持ち替え、アイアンの脇腹、防弾ベストの継ぎ目に突き立てた。
「ぐぅ、おおぉぉっ!」
巨漢が苦悶の声を上げ、俺を突き飛ばそうとする。
だが、俺は離れない。
もう一振りのドスで、奴の喉元を狙って斬り上げた。
鮮血が舞い、豪華なステージが汚されていく。
アイアンが膝をついた、その瞬間
俺の視界の端で、神崎が冷たく笑いながら立ち上がった。
「……やはり暴力は非効率だ。だが、エンターテインメントとしては悪くない」
神崎が懐から、小型のリモコンを取り出す。
「この船には、私の『亡国計画』に反対する勢力を一掃するための、微小なナノ爆薬が仕掛けられている。ボタン一つで、このメインバンケットは火の海だ」
神崎の狂気は、大河内とは質の違う「潔癖」さを持っていた。
不要なものは、自分も含めてすべて消去する。
それが奴の美学なのだ。
「……兄貴!伏せろぉ!」
階下から、血塗れの山城が叫びながら飛び出してきた。
その手には、PMCから奪ったと思われる起爆装置の解除コードが握られていた。
「山城!生きてたか!」
「……当たり前ですよ!兄貴を一人で死なせたら、地獄で親父さんに合わせる顔がねえ!」
山城が神崎に向けてショットガンを乱射する。
弾丸が神崎の背後のモニターを粉砕し、火花が飛び散った。
「……チッ、野良犬がしぶといな」
神崎が忌々しそうに顔を歪め、船の非常出口へと走り出す。
「逃がすかよ!」
俺は血に濡れたドスを握り直し、神崎の背中を追って、嵐の吹き荒れるデッキへと飛び出した。