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デッキに出た瞬間、荒れ狂う公海の荒波と叩きつけるような雨が俺の全身を打った。
豪華客船のきらびやかな照明が
荒れ狂う漆黒の海面に反射して、まるで巨大な怪物の目が光っているように見える。
「……ここまでだ、神崎!」
俺は雨に濡れたドスを構え、船尾のヘリポートへと追い詰めた。
神崎は、乱れた髪をかき上げながら、眼鏡を海へと投げ捨てた。
その瞳は、先ほどまでのエリートの余裕を失い、飢えた獣のような光を宿している。
「黒嵜…君さえ、君のような時代遅れの極道さえいなければ、この国はもっとスマートに再生できたはずなんだ!」
神崎がジャケットの内側から引き抜いたのは、細身だが強靭な軍用タクティカルナイフだった。
「効率?合理化? ……笑わせるな」
俺は一歩、また一歩と距離を詰める。
「お前がやったのは、ただの『切り売り』だ。守るべきもんを全部捨てて、何が再生だ!」
神崎が、電光石火の踏み込みを見せた。
細身の体を活かした鋭い突きが、俺の頬を裂く。
冷たい刃の感触。
だが、俺は怯まない。
親父のドスで奴のナイフを弾き飛ばそうとするが、神崎は驚異的な反射神経でそれをかわし
俺の左肩――古傷の残る場所を正確に狙って刃を突き立ててきた。
「ぐっ……!」
激痛が走る。
だが、俺はあえてその刃を肉で受け止め、神崎の腕を左脇で固めた。
「……捕まえたぜ、インテリ野郎」
「何……っ!? 自分の体を使ってまで……!」
俺は右手のドスを、神崎の喉元に向けて一閃させた。
死を覚悟した神崎の顔に、初めて本当の「恐怖」が浮かぶ。
だがその時、船が大きな爆発音と共に激しく傾いた。
山城が仕掛けた解除コードの副作用か、あるいは船内に仕掛けられた自爆装置の一部が作動したのか。
「……兄貴ィ!船が沈みます!早く脱出を!」
傾斜するデッキの向こうで、山城が救命ボートを確保しながら叫んでいる。
俺は神崎を突き放し、崩落するヘリポートの縁へと追い込んだ。
眼下には、すべてを飲み込む渦巻く海。
「神崎、お前の計画も、この船も……全部海に沈めてやる。お前が売ろうとしたこの国の『土』は、お前には踏ませねえ」
神崎は、皮肉な笑みを浮かべたまま、崩れ落ちる甲板と共に闇の中へと消えていった。
俺は山城の元へ駆け出し、沈みゆく巨船から荒海へと飛び込んだ。
冷たい水が全身を包む。意識が遠のく中、俺は確信していた。
志摩も、松田も、きっと生きている。
…俺たちの物語は、まだ半分も終わっていないのだ。