テラーノベル
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#長編
新生活を始めて一週間。
未だ薄い灰色の街に辿りつくことができないでいた。これは私が方向音痴だからとかではない。断じて違う。
ベルナール様の屋敷は特殊で、移動するには真っ白な回廊を歩かなければ辿り着けないのだが、毎回毎回途中で別空間に移動して人外と出会う日々を過ごしていた。
その結果、瞬くは屋敷内でアルベルト様が来訪して座学の授業をしてくれることになったのだ。と言うのも「一週間で人外二匹と絆を結ぶとか何考えているんだ!!」とアルベルト様にブチギレられたからである。
「ラフェド、しょうがないよ。僕も見ていたけどシルヴィアは絆の契約だって思っていなかったみたいなんだ」
「ベルナール様。フォローありがとうございます」
「へへへ」
「いやだからって、この短期間に絆を二匹と結ぶとか色々おかしいだろう。人外には気をつけろとあれほどいったのに……!」
「それは……そうです。ごめんなさい」
アルベルト様が怒鳴りたい気持ちは分からなくもない。私自身、人外だと思って契約していなかったので、やってしまった感はある。
前世でよく弱っている幻獣とか拾って来ちゃっていたので、その癖が抜けないのだ。それにフォルトゥナ聖王国ではモフモフやふわふわな獣はいなかったのもある。
「……可愛いは正義」
「黙れ」
「うう……。そもそも人外だって思っていなかったのです。魔物だって討伐しようとしていたら長期戦になって、ひょんなことから『名付けをしてほしい』と言われたので請け負っただけですよ。それが絆の契約になるなんて聞いてません」
「ソウダソウダ!」
「キャフ……」
「お前らは黙ってろ。……よりにもよって不浄の王と死神と絆を結ぶとか……予想の斜め上すぎるだろうが」
アルベルト様はぶつぶつ何か言っていたが、不可抗力としか言いようがない。スライムのハナちゃんは転移した先にいた魔物で、戦っている最中に私の汗を含んだらしく、その時に『とっても美味しかった』とのことで、戦闘を中断。和睦を申し入れてきた。
普段は人の涙が大好きらしいが、定期的に涙か汗を提供するなら水回りの洗浄すると言ってくれたので、交渉成立した。この時は魔物使いの才能があるのでは? と浮かれていたが連れ帰ったらベルナール様に「人外で高位な存在だよ」と言われて驚いたのだ。
冠位十二王。それはこの国を支持する種族王の名称らしい。
人外にも様々な種族がいるらしく、種族の王は種族の特性によって異なるらしい。強さ、思慮深さ、寿命、能力など様々で生まれながらに王たる資質を持って生まれるらしく世襲制はない。ベルナール様は竜族の中でもっとも長生きだから王となっていて、存在しているだけで竜が存在し、一定数の数が生まれるという。
竜同士で番う、異種族とで子を増やす以外に、魔素の濃度から生まれるという竜もいるという。けれど必ず五百以上は増えない。それはこの世界の理だとかよくわからないことを言っていた。
「つまり王が存命なだけで、その種族は滅びることはないとうこと。人間のような身分とかじゃないんだよ」
「ナルホド?」
神と呼ばれる人外は、教会で祀られている存在を指すらしい。人に信仰されるかどうかで神認定されるという部分は、元の世界と似ている。元人間が神様として祀り上げられるということは日本ではままある。
(色々思い返すと、元の世界と似通っている部分があるのよね)
ブチ切れていたアルベルト様は落ち着いたのか、改めて私と向き直る。
「……お前、その人外は……言っておくが相当な変態だからな? 人間の涙が好きだという変わり者だぞ。……大丈夫なのか? 嫌なら嫌というんだぞ」
怒っていたのは私が何か害されたと焦ったのだそうだ。それを聞いて不謹慎ながらもちょっと嬉しくなった。誰かに心配されるのは、本当に久しぶりだった。それこそ前世ぐらい前だったので、口元が緩んでしまう。
「涙というか私の場合は汗でも良いらしく……、スライムタオルというふわふわのタオルはいい匂いがしていて、ポロエステル素材のタオルで腕と背中と首と顔を拭いたものを渡すだけで良いって。あとそのタオルで拭いた後、美白効果もありお肌もツルツルなんですよ」
「おまっ……」
アルベルト様はなんだかプルプル怒っているのか呆れているのか、よく分からない反応をしていた。
「そんなことして嫁に行けなくなるぞ」
「しばらくは独身生活を楽しむので、全然問題ないですね!」
「ラフェド、シルヴィアはたぶん人間の、普通の、令嬢とちょっと、かなりズレているから言っても無駄だと思う。あと最初から人の姿を象ってなかったし、粘体生物が本体という印象が強いからこその態度だと思う」
「……それはそれでいいのか?」
「僕に言われてねー。変に意識されて僕までスキンシップが減ったら嫌だし……」
「それが本音か」
アルベルト様とベルナール様の話的に、人外の中でも知性が高い者は人の姿にもなれるらしい。けれどハナちゃんはお饅頭のようなザ・スライムいったプルルンか、撫でたりスキンシップは子猫の姿にしかならない。喋る言葉も単調だったり、単語だけだったりする。私としてはそれがハナちゃんなりの距離感なのだと思う。
私が嫌悪しないように、嫌わないように配慮してくれている。それが伝わってきたから、ハナちゃんの提案を受け入れたのだ。
以前は人を拷問して涙を摂取するのが好みだったらしい。私が提供するならそういう酷いことも控えると言うので、話に乗ったのが契約になるとは……聞いてない。
「話を戻すぞ。名前を与える、それと約束をすることも解釈的には絆の契約になるな」
「はつみみ」
「むやみやたらに名付けをするなよ、いいな」
「はーい」
むやみやたらに付けたつもりはないし。拾ったら最後まで面倒見るつもりだ。そうキリッとした顔でアルベルト様を見つめ返したら、瞳孔が開いてもの凄く怖かったので気をつけるようにはしようと心の中で誓った。
(怒鳴るよりも静かに怒るほうが怖っ!)
「……それで、その腕に抱いている小汚い子犬はどうした?」
いつも惰眠を貪っているのはクロちゃんだ。色が黒いからと、なんか苦労していそうだから名付けた。ゴールデンレトリバーのようなモフモフな毛並みの子だ。基本的にソファでだらーんとして眠っていることが多い。
「毒霧の死の森で拾いました。なんか死にかけていてぐったりしていたから思わず手当てして、ご飯を食べさせたら懐いちゃった」
「……マジか」
「マジです」
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