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「目の前にあるのがそうよ」
翌朝(というか、ロサンゼルスでは夜だけど、俺達の中ではって意味だ)、無事に嵐が過ぎた海へとやってきた俺達は船を進めた。
昼過ぎになり操縦席に座る俺へと、ルナ様が話しかけてきたところだ。
「…何も見えないが?」
目の前って言われても、変わらず大海原が広がっているだけだが……
「魔力を見てみなさい」
「ああ。魔力視か。『魔力視』…うおっ!?なんじゃこりゃ!?」
「えっ?何何?『魔力視』…うわぁ…オーロラ?」
魔力視を使い、驚く俺に興味を覚えた聖奈が、同じ魔法を使う。
聖奈の言う通り、目の前の海にはオーロラのような光景が広がっていた。
オーロラ見たことないけど。
「綺麗ですね」
どうやらミランも魔力視を使用したみたいだな。
二人ともうっとりしているが、俺からすればこの光景は不気味にしか思えなかった。
「この魔力の壁…というか、カーテンを突破すれば別大陸に辿り着けるんだよな?」
「カーテンね…たしかに壁というよりは、この歪みには合っているわね。
そうよ。この世界で大陸間の移動を困難にしているのは、海の魔物とこの魔力歪みね。
じゃあいくわよ」
「ああ。頼む」
そう告げると、ルナ様の身体から白い何かが……
あれ?魔力って黒くないっけ?
そういう魔法なのかもな。
白く光る何かは、ルナ様の眼前で球体になると、魔力歪みに向かって飛んでいった。
ピシッ…ピシピシッ…
何かにヒビが入る音が聞こえる。
そして……
パリンッ
オーロラの様に見えていた魔力歪みは砕け、空間へ溶け込み、消えてなくなってしまった。
魔力視を通して視ても、辺りはこれまでの海と同じ光景が広がっている。
「もう通れるのか?」
「ええ。問題ないわ」
「ルナ様。ありがとうございました」「お疲れ様でした」
ミランと聖奈がルナ様へお礼を伝えると、当の女神様は得意気にその口角を持ち上げた。
「じゃあ私達は船内に行くわ」
「おう」
三人が姉妹の様に仲良く消えていった。
……あれ?この船の金を出したのは俺だよな?
一度も船内でゆっくりしていないのだが?
まぁそんな小さなことを言えるわけもないのだが。
「聞かないのね?」
夜になり、いつもの別荘で夕食を食べていると、突然ルナ様が問いかけてきた。
「ん?ああ、別大陸の場所やそのモノについてのことか?」
「そうよ。折角私がいるのだから、聞けば良いのに。答えるかどうかは内容や気分次第だけど」
ああ…頼られなくて拗ねちゃった系?
でもなぁ……
「いや、いい。自分達の力で辿り着きたいし、この目で確かめたいからな。ルナ様には俺ではどうしようも出来ない部分を助けてもらった。それで十分だ。
二人もそうだろ?」
「はい。ルナ様ありがとうございます。これからはお時間の許す限り、御ゆるりとお過ごしいただけたら幸いです」
「そ、そう?」
聖奈も自分で道を切り拓きたい派だもんな。
ミランはそんなこともないが、俺のしたい様にさせるのが生き甲斐みたいなものだから、基本俺の考えを尊重してくれる。
「ああ。逆に聞きたいんだが、ルナ様はやりたいこととかないのか?」
「貴方、不敬を通り越して過干渉よ……私のやりたいことはないわ。強いていえば……」
「強いていえば?」
言いづらいことなのか?
まさか下ネタかっ!?なわけ……
「誰かと何かがしたかったのっ!!乙女に何言わせるのよっ!!」
「いや、乙女って…そもそも神様に性別があるのか?」
しかも捉え方次第では下ネタに聞こえる答えだったな……
簡単に言うと、ぼっちは仲間に憧れていた、と。
「あら?今は見ての通り乙女よ?失礼な使徒ね」
「今はって言っている時点で、性別なんかないんだろ……まぁ今更『実は男です』なんて言われても、固定概念を覆せそうにないけどな」
俺とルナ様は気の置けない会話を交わしているが、俺達が話し出すと聖奈とミランは相変わらずダンマリだ。
俺はルナ様とかなり濃く繋がっているから平気だが、二人は少ししか繋がりがないから、思っている以上に畏れ多いのかもしれない。
俺は話せない期間も、魔力的にはずっと繋がっていたから離れていた感じはしなかったしな。
実際見られていたし……
まさかトイレも!?
ま。今更か。
「ずっと気になっていたけど、やっぱり俺ってルナ様の使徒なのか?」
「そうよ。でも、一方的に力を与えて繋がりを持っているだけで、何の制約も契約もないから安心しなさい」
「そうだったのか……コンは…フェンリルはあの山を護るという使命があるみたいだし、俺にも実は何かあるのかと、少し気になっていたんだ」
あんなビビリな駄狐にも任務があるくらいだからな。
いや…まさか……
考えたくはないけど、あの狸よりも俺の方がダメダメなのか…?
「熱心に信仰を集める神は、そういったこともするそうね。でも、私は貴方に…貴方達に出会うまでは、そういうのは諦めていたから。
まさかその私に一番力が集まるとはね……少し感慨深いわ」
「諦める?神も力を求めるのか?」
「人も神も本質的には同じよ。忘れ去られた時が、そのモノの本当の死になるわ。
私達神と貴方達との違いは、その信仰心が力になり存在しているということくらいね」
なるほど?
仮に俺が死んでも、聖奈達みたいに俺を覚えてくれている人がいる限りは、本質的な死ではないということか。
逆に生物学上生きていたとしても、誰にも何にも会えなくて生きた証を示せなければ、死んでいることと同義だと。
「なるほどな。他の神がダンジョンや何かを成してその存在をアピールする理由はわかった。
だが、ルナ様が諦めた理由がわからん。何をどう諦めたんだ?」
「この使徒はホントに遠慮がないわね……
私は存在を誇示してまで、長く存在する意味を見出せなかったのよ。
でも、貴方に出会えて少し変わったの。
態々力を集めようとは今も思わないわ。
でもね。
今ある出来事を精一杯楽しむことにしたの。
貴方と同じようにね」
それは俺の得意分野だなっ!!
「そうか!方向性は置いといても、前向きになれるきっかけを与えられたのは嬉しいよ。
ずっと気になっていたんだ。
ここまでしてもらって、何も返せていないんじゃないかって」
「貴方割と繊細よね?女性の扱いも同じくらい繊細にすれば良いと思うの」
「それが出来ていたらここまで拗らせてなかっただろうけどなぁ…」
というか、そんな俺だとこの二人は好きになってくれなかった可能性が高い。
結婚できたんだから結果オーライだよな?
「まあ俺の話は誰も興味ないからいいよ。それよりも、聞いておきたいことがあるんだ。明日試せばわかる話なんだが…」
「何よ?答えられるモノなら教えてあげるわ」
「あの歪みは元に戻るんだよな?」
歪みが元に戻らなければ、大陸間の交流が増えるだろうな。
良くも悪くも。
障害が海の魔物だけなら、エリーが動力さえ作ればどうにかなるもんな。
「そうよ。霧を風で吹き飛ばしても原因をどうにかしない限り、また霧に包まれるわ。それと同じ様なものよ」
「それはどれくらいで?」
「割とすぐよ?明日には戻っているかもしれないわ」
じゃあやはり、根本的なモノを解決しないと大陸間の交流は無理だな。
「もう一つ。その歪みが戻っても、それを越えて転移魔法は使えるのか?これは俺がという意味だ」
神様基準で物事を語られてもな。
俺基準も大概だけど。
「無理ね」
……やはりか。
感覚的な問題だが、そんな気はしていた。
「そんなに残念がらないで」
「いや、まぁ残念だけど仕方ないな」
このままいくと、ルナ様がいる時限定の旅になりそうだな……
「ヒントをあげるわ」
「ヒント?なんの?」
「別大陸を目指すルートは一つではないの」
は?そりゃそうだろ…海なんだからたくさんルートはあるだろうよ。
目印はないが。
「そ、それは…」
「あら?聖奈は気付いたようね?」
「え?なんだ?何の話だ?」
えっ?歪みを越えるヒントが何かあったのか?
「聖くん。西ルートだよ」
「西?……あっ!そもそもが間違っていたってことか」
地球でいえば、アメリカに行くのにわざわざ西を目指さないもんな。 遠回りになるから。
そうか……西ルートには無いんだな。
「気付いた様ね。そうよ。魔力歪みは世界を二分しているけれど、あそこにしかないの。反対側からなら、貴方達だけでも辿り着けるでしょうね」
「なるほど。これまで中央大陸西側に別大陸の痕跡がなかったのは、文明的に辿り着けないほどの距離があったからか。もしくは別の障害が」
「そうよ。距離は倍以上離れているわね。それに西には海竜の棲家もあるわ」
海竜……どれくらいの脅威か想像も出来ないな。
でも、そうか。
俺たちの力だけでも、努力と準備次第では可能なのか。
そちらのルートを確保出来たら、転移魔法も使えるようになるな。
「目標が出来たね!」
「そうだな。必ずそのルートを攻略しないとな」
「はい。ですが、先ずは別大陸の状況次第ですね」
俺たちが新たな目標にテンションを上げて盛り上がると、ルナ様はそれを慈しみの表情で見つめていた。
今までは見えていなかったが、これまでも優しく見守ってくれていたのだろう。
そんな面倒で寂しがり屋の神様との旅を、今は精一杯楽しむとしますか。