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上野文
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#悲しい
シジミン
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kirisu
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畝澄ヒナ
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『……俺は、父さんの事が怖い』
そう言うと、父は意外そうに目を見開く。
『父さんは今まで自分が、どれだけの人を傷つけてきたか、本当に分かっているのか?』
『自覚している。だから離婚せずにお母さんが出所するまで待ち、そのあとも一緒に生きていくつもりだ』
『……それは本当に、お母さんへの償いになると思っている?』
『怜香はプライドが高い。犯罪を犯して離婚され、実家に戻るとなれば、地元で生きていけなくなるだろう』
『養ってあげる事で、〝自分はいい人だ〟って酔ってない?』
珍しく、俺は棘のある言い方をしていた。
だが父は怒った様子もなく、不思議そうに俺を見つめている。
そんな父を見ていると、今まで感じた事のない怒りが湧いてくる。
『父さんはただ、もう取り戻せない昔の思い出に縋っているだけだよ。決断力がないから、さゆりさんにプロポーズしておきながら、その意志を貫き通す事もできない。結婚したお母さんに生涯を捧げる事もできない。子供たちの〝父親〟になる事もできない。……残酷なフリ方をしておきながら、未練のあるさゆりさんをストーカーし、押しかけて彼女を犯した。……犯して子供を作り、経済的に囲ってしまえば、彼女は他の男性を頼る事ができなくなる。…………残酷だよ』
『……確かに風磨の言う通りだが、子供ができても責任はとっている』
『金を出す事だけが〝責任〟じゃないよ! 俺は父さんから愛されていると一度も感じた事はない。金だけはふんだんに使ってもらったから、不自由はしなかった。それには感謝している。父さんが多忙なのは分かっていたし、寂しくても我慢するしかないと思ってた。…………でも、今自分が社長になって実感したけど、篠宮ホールディングス規模の社長になっても、家庭を大切にする時間は捻出できる。食後にでも、学校で何があったのか、子供から話を聞く事ぐらいできる!』
今俺が口にしているのは、かつて子供だった自分が父にしてほしかった事だ。
してもらえなかったから怒っているというより、そんな簡単な事すらせず、〝父親〟という立場を放棄していた父に苛立っている。
『そこまでさゆりさんが大切で、生ませた子供なら、尊が母さんから陰湿ないじめを受けている時に少しでも庇うべきだったんだ。俺たち兄弟に愛情の差をつけなかったのは、まだマシだ。……でも父さんは、愛情の差をつけなかったというより、つけられなかったんだ。…………父さんは俺たち家族三人、誰の事も愛していない。……あなたが大切にしているのは、少年時代の思い出だけだ』
知らない間に、俺は涙を零していた。
『……あなたが大切にしているものは、もう二度と手に入らないんだ。いい加減、学生時代の幻想を捨てて、現実を見てくれ。父さんはもう高校生じゃない。六十歳を手前にしたおっさんなんだ。いい歳して〝今〟を見つめず理想ばかり追ってるから、周りの人を巻き込んで破滅するんだよ! あなたが家族を壊したんだと自覚してくれ!』
涙ながらに訴えると、俺を見つめていた父の目が微かに動き、動揺を示した。
『……頼むから、これ以上父親として振る舞えないなら、今後、俺や尊たちに関わらないでくれ。俺はエミリと、尊は朱里さんと幸せな家庭を築いていく。百歩譲って祖父として孫に挨拶する程度ならいい。……でもそれ以上、俺たちに関わらないでくれ。俺たちの宝物に悪影響が出るぐらいなら、絶縁も辞さない』
そこまで言い、俺は乱暴に息を吐き前髪を掻き上げる。
『……本当は父さんにこんな事言いたくない。……でも、言わないと分からないだろう? 世の中には言っても理解できない人がいる。それなら、きちんと自分の意見を伝えたほうがまだマシなんだ』
俺は再び深い溜め息をつき、疲弊しきって言う。
『実の父親に絶縁なんて言いたくないよ。……でも俺はもう、あなた達に庇護される子供じゃない。血縁関係は一生続くかもしれないが、今後俺はエミリと結婚して家庭を作るし、尊だって幸せになりたいと渇望している。……俺たちは一人の自立した大人として、自分たちの道を歩む。それを邪魔しないでほしいんだ。……父さんにとってはよかれと思ってする事、言う事であっても、俺たちには大迷惑な場合がある。それを理解して。……理解できないなら、近づかないで』
『……分かった。迷惑をかけてすまない』
きつい表現を使ったからか、さすがに父も少ししょげているようだった。
『自分でも、子供時代に尊を無視し続けたのに、何を今さら……って思う。けど、だからこそ、やり直しの利くうちに全力で尊のためになる事をして、あいつを応援したい。……それで俺も、親の顔色を窺って生きるのをやめて、自分の人生を歩む』
そこまで言って、やっと自分が両親の支配から抜け出せた気がした。
きっと今後も母のヒステリックな声が脳裏に蘇り、父に無視されて低くなった自己肯定感に悩まされる事はあるだろう。
――でも俺はもう自由だ。
――両親の機嫌を窺って、目を閉じ、耳を塞ぐ子供は卒業した。
――これからは自分が選択した人の手をとって、限りある時間を大切な者のために生きていくんだ。
そう決意した時、スッと心が軽くなった気がした。
コメント
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はる。です!第941話「支配からの卒業」読み終えたわ。めっちゃ重いし痛いし、でも風磨がついに言いたいこと全部ぶつけたシーン、もう鳥肌ものだったよ……。「金出すだけが責任じゃない」とか「愛情の差をつけられなかっただけ」って、まさに子供時代に欲しかった言葉を今の自分が言ってる感じがして、読んでてこっちまで涙出そうになったわ。お父さんが「すまない」って言ったのも大きいけど、風磨がほんとに“卒業”したのが伝わってきた。いい話だった……!