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三章 喪失
21話「想」
「おはようございます…」
「あ、おはよう。」
「どうだ?記憶、戻ってきたか?」
「いや、まだ全く。先に、自分が元男ってことをしっか り覚えたくて」
「そっか。」
何気ない会話。それでも何か足りない。
私に足りないもの、それは、何なんだろう?
「あの…」
「ん?」
「記憶以外で、私に足りないものって、何だと思いま す?」
「さあ…あ、心、とか?」
こころ…?
失礼だな、私にだって記憶はなくとも人の心はあるぞ。
「前までもそうだったけど、碧には恋心ってのが足りて ないんだよ。碧、好きな人とかあんまり語らなかった から。」
「でも今は記憶がないから、関係ない気がする…」
「いいや、記憶が消えても、心の奥底に残っていた恋心 が表面に出る可能性はある。今の碧も、もしかした らその恋心がうずきはじめるかもよ?」
「ふーん…」
そんなこと、あるのだろうか。
記憶が消え、完全な女として生きている今は、その恋心が目覚めても、女としての心と矛盾すると思う。
でも、鬼魔姉の意見も否定はできない。
だって今この時まで、時々心がずきずきすることが多くあったから。
本当に、好きな人がいたのだろうか…。
「あの…」
「さあ、改めて情報屋に行くぞ。」
「…わかりました。」
「たのもー。店主ー、いるかー?」
「はいはい居ますよー…って、誰だこの嬢ちゃんは。鬼 魔、ついにつくったんか?」
「いやいや、つくってるわけないでしょう。この子は碧 だよ」
「初めまして」
「え?碧なん?…え?初めましてじゃないやろ?どうし たん?」
え、何でこの人私の名前知ってるの?怖いんだけど?
変態?変態!?変態!!
「いやーね、なんか突然記憶がなくなったらしくてさ。
うp主にも調べてもらってるけど、一応店主にも聞いておこうと思って。」
「聞いておこうって…俺魔法使いでも神主でも妖怪でもないからなんの能力もないぞ?」
「いや、あるね。 お前の体には、刻まれているんだよ。あの紋様が。」
「くっ…」
あー喉乾いたー。
水でも買ってくるか。
「鬼魔姉、水買ってきます。」
「わかった」
あーほんとに喉乾いたぁー…
「…お前妹二人いたのか?」
「違うわ」
あーいい水あったわー。
まさかあの店に某天然水が売っているとは。
あれは下界の特産品らしいから、よっぽど大きい店じゃないと売ってないはずなんだけど。
いい機会だから2Lのやつ一箱買っちゃった。
にしても…重いな…
「おーい…鬼魔…姉…」
「おいおい何だよそのでかい段ボールは」
「酒か?だったらビールがいいなあ」
はは…それは店主さんが飲みたいだけでしょ。
「水ですよ。下界の特産品らしくて、せっかくだから箱買ってきちゃいました。」
「おお、あの天然水か。あれはウィスキーを割ると美味いんだよなあ。一本、くれるか?」
「いいですよ。はい」
「おおすごい。本当に下界の天然水が俺の手元に!」
うん、すげえよなあ。
下界の特産品が上界で手に入るのがすごい。
「はは。結構安かったんですよね。
なんと2Lの12本入りで1068円!」
「おお、現実に則って安くしている。」
さ、飲みますかね。
「おっと待て?飲む前に…呑め。」
「え?…んむっ!?はえ!?」
さ、酒だ!?
うっ、頭があ…!
「あ、あうぅ…」
「ほらほらもっと呑め!!」
「あぇ…」
や、やめえ…死んじゃう…
「ふ…へへへへ」
「えっ…うっぷ」
「へへへへぇ、酔っちゃったあ。へっへへへへ〜」
「ちょちょちょ、やmうぷっ」
自分がもう何をしているかわからない。
もう、どうでもいいや。このままぶっ壊れよ。
「へっへへへへへ、もっと呑めよ〜」
「うむっ、んぅ…」
ごくごくと、酒を呑む音が聞こえる。
「ん、うへぇ〜…」
「あ〜あ。潰れちゃった。じゃあ次は〜」
「ちょちょ、私中学生だからやめて!?
やめ、やめてね?ねえやめて!?」
あはは、鬼魔姉は分かってないみたいだなあ。
私がそんなかんたんに諦めるわけないじゃないですかあ…
「や〜だ〜」
「ちょっとや…うぷっ」
こうして、上界の一角で、三名が酔い潰れたのだった。
終